僕とレイブンの「エスケープ・ワールド」
白柳テア
ステージ0 冒険の始まり
その1
2025年6月3日、全世界が熱気と興奮に包まれた。
その日、“小学生限定“の最新ゲーム「エスケープ・ワールド」の販売が開始された。僕は遊んだことがないけど、「バトル」から「冒険」まで、小学生に人気なゲームの要素を全部詰め込んだゲームの要素が全部入っている、と言う理由で世界中で飛ぶように売れた。クリエイターは、
こんなにゲームについて詳しい僕は誰かって?
僕の名前は、
でも、たった一つの秘密を除いてね。
***
「それでは教科書の50ページの文章にラインを引いてください。あれ、小谷さん?聞いていますか?」
先生の話を聞きながら、僕は下敷きをぱたぱたと仰いで、授業がもう少しで終わる時計を見つめていた。僕が通う
「ねえ、「エスケープ・ワールド」今、どこのステージ?」
「私今ステージ2!ラスボスのドラゴンが手強くてさあ…。」
よく耳を澄ますと、社会の来週の宿題を話そうとしている先生の声の「裏」で、教室中でみんながコソコソ話しているのが聞こえる。
実は、今日、いや今日だけじゃなくて最近ずっと、一日の最後の授業では、早く帰りたい現象が発生している。みんながそわそわしている理由は、教室の中が暑いからだけじゃない。みんな家に帰って、「エスケープ・ワールド」がやりたくてしょうがないんだ。
授業終了まで、あと30秒。みんなが一斉に教科書を鞄にしまう。その時だった。
ガタッ!カタカタカタ…
あれ?何の音だろう?
教室のガヤガヤという音に紛れて、とつぜん下の方から小さな音が聞こえた。よく見ると、僕の右の足元の床の板が、カタカタと音を立てて上がり下がりしている。
おーい、誰か、下にいるの?
「ご主人様っ!」
突然、キーキーという鳴き声と共に、消えてしまいそうなか細い声が僕を呼んだ。板の下を見ると、小さく、丸いサングラスをつけた白いねずみが、僕の方に小さな手を振っている。
「わっ、ルーク、どうしてそんなところに?」
僕は声を潜めて、「ルーク」に話しかけた。ルークは、僕の秘密の友達だ。
そう、僕の秘密、それは動物と話せること。動物といっても、みんなに大人気のペット、猫や犬の言葉は分からないんだけどね。道を歩いてると、たまに動物達の囁き声が聞こえてくることがあって、ルークの言葉は、一年前に父さんが亡くなった日から分かるようになったんだ。ルークは、僕のことをまるで執事のように、「ご主人様」って呼ぶ。
「ご主人様、事件ですよ、事件。」
慌てた様子で、ルークが話しかけてくる。“事件”って、いったい何…?
「ねえ、事件ってなんのこと?」
「
「ゆくえふめい?それって、誰かが、いなくなったってこと?」
僕はますます声を潜めて、周りを見渡す。ねずみと話していることがバレたら、僕は「また変わってる」と思われてしまう。僕がよく下を覗いたり、ポケットを覗いたりしてるから、僕のことを気味悪がって、みんな僕に近寄りたがらない。
「ご主人様、五年二組の、
「う、うん。あのサッカーが得意なシュウ君?」
僕の話し声がどんどん早くなる。
「ごもっとも。崎本秀様は、この2週間、学校に来ていないんです。それにお隣の橘晴香さんも、3日前から、家に帰っていないそうです。」
「先生は風邪でお休みって言ってたのに…。一体、何が起きてるの?」
「それをご主人様に解決してほしいんですよ。あっ、そうでした!私はご主人様にお伝えしないといけないことがあります。」
キーンコーンカーンコーン。
ルークが何か大切なことを言いかけたところで、チャイムが鳴った。一斉にクラスのみんなが立ち上がる。僕は机を掴んで、ルークを見逃さないように下へとしゃがみこむ。
「わ、ちょっと待って、伝えることって何?何を言おうとしたの?」
「シーッ。ご主人様、この話はまた今度です。」
ルークは危うく前の生徒の椅子に巻き込まれそうになりながら、慌てて床の下に姿を消した。ルークの小さな声は、クラスのみんなの笑い声と興奮した話し声に、あっという間にかき消された。
この立春小学校で、行方不明事件…?
でも、生徒がいなくなっているのは、本当みたい…。
まずは、ゲームに詳しい人物に話を聞かないと。
僕には、一人だけ心当たりがあった。
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