かすみ草
RIISA
かすみ草
キーン コーン カーン コーン
授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、僕はすぐに次の科目の教科書を開いた。
僕の苦手な数学だ。
順番的に自分が当てられるであろう問題に取り組む。
「それでさ、エリカって花があるらしいんだよね~」
「そうなんだ。てか、もはやエリカ本人が花って感じ」
「高嶺の?」
ハハハハハハ
後ろから、エリカとミナの話し声が聞こえた。
「でもその花、小さいんだよね」
「えー!エリカはでっかく咲いてないと!」
「だよね~!」
ハハハハハ
茶色い髪をゆるく巻き、いつもばっちりメイクのエリカは、友達が多く、たしかにクラスでも目立つ存在だ。
ミナも、切りっぱなしの黒髪ボブがよく似合い、洗練された印象で目を引く。
そんな二人のやりとりを微笑みながら聞いている、ひかえめな女の子。
いつもエリカとミナの横で、静かに二人の話を聞いている。
エリカが大きな花なら、彼女はかすみ草だ、と思った。
やさしく咲く、小さな花。
「広田さん」
彼女が僕の席の横を通ったところを、僕は逃さなかった。
次の授業で、みんなの前で恥をかかないためにも、数学が得意な彼女に頼るほかなかった。
名前を呼ばれて振り向く姿も、風に揺れるかすみ草のようにやわらかだ。
「ちょっと、この問題を教えてくれないかな」
「いいよ。どれどれ…」
ふと、いいにおいがした。
エリカやミナがつけているような香水のにおいではなく、もっとやさしい…女の子のにおいかな。ちらっと目をやる。
一生懸命に僕のノートをのぞきこんでいる彼女の肌は白く、水をはじきそうなほどつややかだ。
赤いくちびるは、僕よりはるかに小さく見えた。そこから、「んー」と彼女特有の高い声がもれている。その声は、自動販売機の前でジュースを選んでいるような、軽やかな声だった。
「ここはさ」
僕は慌ててノートに視線を戻した。
でも、すべての会話が心臓の音でかき消されてしまったのか、彼女の説明も、自分の返事も、その後の授業で正しく解答できたかも、覚えていない。
「かすみ草は、脇役にも主役にもなれる花」
どこかでそんな話を聞いた。
あの日から、僕にとってかすみ草は、主役の花になったことは間違いない。
僕の中ではもう、君だけがいっぱいに咲いているんだ。
かすみ草 RIISA @riisa_
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