第2話

 翌朝、伊達からLINEが来た。また何か食べに行くのかと思ったが、来週の土曜日に映画を観に行かないかという事だった。映画は好きだから、即座に承諾のスタンプを一つだけ送信した。

 ベッドから出て伸びをする。そして机の上の日記帳を手に取り、ページを開く。

『おはよう。即返信するとはなかなか感心なことで』

 早めに言っておいた方が良さそうだからね。

『……もしかして、君はあまり後悔をしたくない人間かい?』

 それに対しては自分の事だからなんとも言えない。もしかして人物史なだけあってこちらの性格を過去の経験から分析できるのだろうか?

『そもそも私は欠陥品だ。完璧な事が言えるほど出来ていない。仮に君の行動を全て記録していたとして、予想できる性格と現実は違ってくるかもしれないだろう?』

 どことなく機械的ではないところが欠陥品らしいのかもしれない。そう思っているとまた色々と文字が出る気がしたから日記帳を閉じて朝食の準備を進めた。

 朝食後に味の感想をまた日記帳に聞かれたが、今度はしっかりと味わえたことを伝えるとそういう事じゃないと言われてしまった。細かく分析したがるのがこいつの性分なのだろうか。そんなやり取りをしていると伊達から返信が来た。僕と伊達、そして伊達の彼女も誘う予定だと来た。そんなことよりも何の映画を観に行くのかが気になった。聞いてみると人気作家が書いた小説が原作の映画だと返ってきた。

 丁度、先月末に丁度SF小説を読み終えて次に読む本を決めかねていたところだ。その本でも死ぬまでに読んでみようかなと軽く考え、着替えて駅前の本屋へと向かった。


 その本は本屋に入ってすぐに見つけられた。最近映画化されたという宣伝文句で入口正面の平棚に大量に積み上げられていたのだ。本を手に取り、裏面に書かれてあるあらすじを読んでみる。家族を喪った主人公が他人の運命を見る力を偶然にも手にする。多くの人を救いたいと願うそんな主人公は他人の運命に翻弄されていく……と書いてあった。自己犠牲の強い主人公ってことか。なかなか面白そうなあらすじにつられて衝動買いをした。

「ありがとうございました」

 その言葉に踵を返してからすぐに僕はあることに気づいた。ポイントカード提示するの忘れてた。でもまあ、どうでもいいか。ポイントを有効活用するには僕の生存期限が短すぎるのだ。


 帰ってから昼食をとり、本を読んでみる。

 あらすじにあった通りだ。家族を喪った主人公が仕事をしては帰宅するという平凡な日常を過ごす最中、これから死ぬ人間の運命が見えるようになる。主人公はその人達を救うが、運命を変えた時の反動は壮絶なものであるという事を顔も知らない男に教えられる。

 後の展開が気になるところだが、区切りの良い所でしおりを挟んで今の時間を確認する。もう夕方だ。もうじき見たいテレビ番組があるから今日はここまでにしておこう。今週は映画を観に行くし、大学の講義は大体昼過ぎまでかかる。休日くらいにしかゆっくり読めないかな。

 よくよく考えたら、読む時間がないような気がしてきた。これは読み切る前に映画館でネタバレをくらうだろうな。そんな今朝の自分の考え無しな所に呆れ、その夜日記帳にも呆れとも嘲笑ともとれるような文が書かれることになった。

 今日書いたページより先を見ると来週の土曜日に映画を観に行ったと書かれている。一緒に観に行ったのは僕、伊達、深川と書かれていた。連絡にはなかった深川というのは伊達の彼女だ。

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