第5話 猿神荘
猿神荘はなかなか豪勢だった。温泉などのほか、会議室やテニスコート・ゲートボール場などを備えている。
ロビーで美青年に声をかけられた。
「一緒にテニスをやりませんか?」
「ルールがよく分かりません」
「僕が教えて差し上げますよ」
2人がテニスをしている最中、猛烈な雷雨に襲いかかられて試合を中断し、宿に戻った。
向井が大浴場から戻ると、フロントマンの
向井は何時間経っても戻ってこなかった。
心配した留萌が駐車場に様子を見に行くと、傍らに月美が立っており、ぬかるんだ駐車場の真ん中で向井の絞殺死体が転がっていた。そして、ぬかるみの中に残されていた足跡は、向井自身の片道分と、月美が向井の死体に駆け寄って戻って来た往復分しかなかった。状況は月美以外に犯人が考えられないが、無実を主張する彼女を信じた留萌は、それが月美の足跡であれば深すぎるという偶然生じた矛盾を利用して、2人は偶然死体を発見したかのように装うことにした。
一方、その日の午前に猿神荘を訪れた奈良県警の和戸雁助警部は坂東パインに、向井が誘惑した足利夏菜子という古着屋の元店員が自殺未遂し、その原因が向井にあり、夏菜子の元恋人である刑事の、日向未来が向井に復讐するおそれがあることを警告していた。向井と月美の結婚を望んでいた(向井とパインは幼馴染み)パインは、その邪魔をしようとしていた留萌を目の敵にし、彼の犯行を主張してそのトリックを説明するが、和戸はそのトリックこそ日向が行ったものとして彼を逮捕しようとする。
月美を救いたい一心で偽りの証言をした留萌だが、それによって日向が無実の罪に問われることは望まず、月美と2人で奈良県警に日向に会いに行く。
そこで2人は、日向から月美がまさに向井の死体に駆け寄ろうとしている、向井の足跡しかない写真を見せられる。それは月美が無実であることを証明するとともに、誰にも犯行が不可能であることを示していた。そしてその直後、屋上でタバコを吸っているところを日向は何者かに撃たれる。
弾丸の摘出手術が開始された。🏥
奈良県警はバイクやヘリ、ドローンなどで不審人物を捜索した。スナイパーの姿は日向しか見ていない。
和戸は、「もしかしたら、日向は犯人じゃないのか?」と銀角の運転する覆面パトカーの助手席で言った。
「銃を扱える人間なんて限られてますよ。犯人はヤクザかも知れません」
「グラタンは読みが甘い、捜査関係者ってこともあり得る」
日向は救急車で病院に搬送された。パインは付き添っている。
和戸の脳裏にスキンヘッドの男が浮かび上がる。
オウルというコードネームで活動していたテロリストだ。90年代後半に銀行の頭取や企業のトップを次々に暗殺した。
大規模な捜索は徒労に終わった。
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