シャールルの変化

 そこは、さっきまで自分がいた部屋のようなドーム状の部屋だった。

 部屋の中央では、巨大な噴水が水を噴き上げている。

 ドームの頂上には大きな穴が開いていて、その内側で水面が揺れていた。



 普通ならば穴から水が流れ込んできてもおかしくないが、どういう仕掛けなのか、水はこの空間に入ってくることはなかった。



「イルシュエーレ様ぁ~」



 実がその景色に目を奪われている間に、精霊とシャールルが、噴水の側に立っていたイルシュエーレの前まで行ってしまった。



「あっ!」



 すぐに我に返ったが、明らかに遅かった。



「あら?」



 精霊たちを見下ろしたイルシュエーレは、不思議そうに小首を傾げた。

 彼女は優雅な仕草でしゃがみ、シャールルの首筋をなでる。



「魂の雰囲気が変わったわ。」

「そうでしょ? 実に名前をつけてもらったんだよ。シャールルっていうの! いいでしょ?」



 まるで自分のことでも自慢するかのように、精霊は目を輝かせて説明する。



「あの……その先は―――」

「シャールラル」



 イルシュエーレの口から放たれた単語に、実は言うはずのセリフを奪われてしまった。

 イルシュエーレは優しく微笑む。



「この子の名は、古代語で清流を示すシャールラルからきているのでしょう? 触れれば分かるわ。この子の魂は、清らかな水をまとうものに変わった。もう、私たちと同じね。シャールル、私はあなたを歓迎しますよ。」



 イルシュエーレがそう告げた瞬間、淡い光が兎を包み込んだ。

 その光を通して、シャールルから何らかの力があふれてくるのが分かる。



 それをじっと見ていると……



「実!!」



 ふと、声が頭に響いた。



 精霊たちやイルシュエーレの声とは違う。

 少し高めだが、少年らしい声だ。



「え? だ、誰?」

「こっちこっち。」



 声に導かれて下を見れば、そこにはシャールルがちょこんと座っている。



「まさか……シャールル!?」

「そうだよ。」



 シャールルは耳を揺らした。



「やっと聞こえるようになった。今まで、精霊さんたちとはおしゃべりできてたんだけど、実には僕の声が届かなかったんだよね…。でも、ようやく話せるようになった。実が僕に名前をくれたからだね!」



 シャールルはぴょんぴょんと飛び跳ねて、自身の喜びを表している。

 それに対し、実はパチパチと目をまたたくだけ。



 何が起こっているのか、皆目見当もつかないのですが……



「えっ…と、つまりはどういうこと?」



 イルシュエーレを見て訊ねると、彼女はにっこりと笑ってこちらに近づいてきた。



「あなたから預けられてここで過ごす間に、シャールルには聖域の力が宿っていったのよ。元々天に通ずる素質はあったから、すぐにこの子は、私たちと言葉を交わすようになったわ。」



「素質?」



「ええ。この子は生まれつき、私たちに連なるような特別な魂を持っていたの。あなたがこの子のことを助けた時、この子は一人だったでしょう?」



「確かに……」



 実はシャールルを見下ろす。



「こういう子は、ごくまれに生まれてくるわ。大体が、親か別の動物に殺されてしまうのだけど。」

「なっ…!?」



 それは多分、自分だからこそ大きな衝撃を受けた事実だったのだと思う。


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