迷い

 目を閉じれば、浮かんでくるのは強烈な恐怖の記憶。



 ―――〝化け物〟

 ―――〝殺してやる〟



 そんな暴力的な言葉。

 見上げた先で、にぶく光っていたやいば



 ああ…

 自分は、こうやって殺される運命なんだ。



 そう、幼いながらに思ってしまった。



 初めて奮った勇気で得たものは、果てのない絶望と悲しい悟り。



 自分の力は異常。

 この魂に持っているものも、ひどく重いもの。



 自分は、世界を危険にさらす。

 心という、なんとももろく不安定なもの一つで。



 自分は人の世界にいてはいけない。



 ならば、人間の世界から完璧に隔離された場所で、心穏やかに過ごしていた方がいいのでは?



 人と関わらないなら、不用意に傷つかずに済む。

 下手に心を乱さないでいられる。

 そして人間も、〝鍵〟という恐怖を気にせずに過ごせる。



 ほら、これでいいじゃないか。





 こうすれば、自分も人間も――――




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