第10話 本部の目的、オーナーの目的


 さて、次はそれぞれの目的について見てみましょう。

 

 両者とも、基本的には商業目的である以上、「利益追求」という意味ではベクトルを同じくしています。

 本部は自身の利益追求のため加盟店各店の売上アップを望みますし、加盟店オーナーもまた自身の利益追求のため売上アップを目指します。

 双方とも「売上アップ」という共通の目標があることは言うまでもありません。


 ところが、世の中には本部と加盟店オーナーの間でいろいろと問題が起きていることはすでに皆様ご存じのことと思います。


 ここでは、どうしてそれが起きるのか? について書いていくことにします。


 結論を先に述べるのが、こういった文章のお約束事でしょうから、先に述べますと、実はそれほど難解な問題ではありません。


『ある時期を境として、お互いの利益追求の方法が対立するようになるから』


というのが、一番多いケースだと私は考えます。


 双方が「売上アップ」を目指している間は、基本的に細かい問題があったとしても、おそらく不満とまでは感じることはないと思われます。

 開店後数か月、あるいは、数年の間は大抵の場合、売上は伸び方にこそそれぞれの店舗によって差異があったとしても、基本的には上昇曲線を描いてゆくのが通常です。

 本部側としては順調に数字を伸ばしてくれている間はオーナーへ不満を持つことはありませんし、加盟店側も同様に、順調に伸びていて、毎月の支払いが滞ることなく、借り入れの返済などが順調に進んでいるうちは本部政策に異を唱える必要を感じません。


 ところが、やがてその上昇曲線が頭打ちになりだした頃、互いに相手に対する不満が現れてきます。


 オーナーA(架空人物)さんの意見、

「たしかにね、本部は広告とか、ウチにはできないテレビCMとか、大規模な値引き攻勢など、いろいろやってくれているんだけど、いっときの売上アップは見込めても、結局続かないんだよねぇ。お客さんは安物買いの人達が増えるだけで、継続してきてくれるわけじゃないんだよ。その時売り出し中の商品って、実は粗利も低いからさ、結局売上あがっても、利益率は下がっちゃうんだよねぇ。どころかさ、お客さんが増えるから人手ばっかり取られるんで、結局人件費があがっちゃって、もうね、もしかしたらプラスになってないんじゃないかって、思うわけよ」


というご意見、おそらくどこでも聞かれることだと思われます。


 対して、本部加盟店担当者S(架空人物)さんの意見、

「こちらとしては、大々的にCMとか広告とかやってるわけですよ。各企業さんからもご協力いただいて、優先的に商品をまわしてもらったり、いろいろとやってるんですよ。それなのに、粗利が少し低いからって理由だけで発注量が規定数以下に抑えられたら、今後の企業さんの協力に影響するじゃないですか。そこのところもっとよく考えてほしいっていうのが本音ですよ。たくさん売れる時にたくさん売れば、粗利が多少低くても、利益額は上がるわけじゃないですか」


ふむ、確かにこれもよく聞きそうなご意見ですね。


 ですが、実のところ、双方ともにこの時点では本音で腹を割っているとは言えないレベルなんですね。大抵の場合、ここで膠着して、結果、不満ばかりが募ってゆきます。


 では、根本的に何が問題なのか、ということですが、これこそが初めに述べた事柄となるのです。


『利益追求の方法が対立するようになる』


 オーナー側は、出来る限り経費を落として粗利をとりたい、本部側は、出来る限り売上をあげて利益額をとりたい。


 利益追求のベクトルが違う方向を向いているわけです。


 こうなった原因は実はただ一つ、『売上額の成長が頭打ちになっている』ことなのです。


 売上額の頭打ちは必ずどこかのタイミングで訪れます。これは、商売をやっているうえで肝に銘じておかないといけないことの一つですが、残念ながら、この頭打ちになる理由が双方で食い違っていることが大半なのです。


 オーナー側は、立地や本部の商品開発などの要因であると、通常は考えます。本部側は、オーナー側の不作為によるものだと考えます。


 当然のことです。

 そして、どちらも正しいと思われます。


 ですが、大抵の場合、自身の問題点については目を向けず、相手方の問題点ばかりが目につきます。結果、先程のような、「一見本音で言ってるような暴露に聞こえる内容もじつは本音のところではまださらけ出していない」という形となります。

 そして、おそらく9割以上の本部担当者および加盟店オーナーの関係はここまでが限界となります。


 一部の優秀な本部担当者と有能な加盟店オーナーさんの二人が話し合えれば、この問題は難なく解決できることの方が多いのですが、残念ながら私の経験上、そんなに優秀な本部担当者はまずいません。

 おっと、ここでやめたらなんだか私が「有能な加盟店オーナー」であったかのように聞こえてしまうので、そこはしっかりと付け加えておきますが、私は「失敗者」です。現実的にすでに加盟店オーナーをやめているわけですから、「成功者」ではないということをしっかりと念頭に置いていただきたいと思います。


 話を戻します。

 なぜそんなに優秀な本部担当者がいないと言い切れるか、ですが、まず加盟店の担当となる人物の本部における位置づけですが、彼らはいわゆる、「見習いを卒業して独り立ちした営業社員」という感じです。彼らの上司にはさらに上司がいてさらにその上その上と、なります。トップまで行くには基本的には何段階か経なければなりません。

 あなたのお店や会社に置き換えれば、おのずとその意味が解ると思います。

 彼らには「決定権」がほとんどないのです。

 それはそうでしょう。基本的には彼ら本部担当者というのは「会社の社員」です。つまり、上司の命令又は統制下におかれている方たちです。

 であれば、つまりその会社にはその人よりも「優秀」な社員がいるわけですから、その人はその時点でその優秀な人より優秀でないということになります。

 なんだかキツネにつままれたような言い回しですが、これが現実です。


 そんななかで、互いの意見をすり合わせていかないといけないというのは、途轍もなく困難なミッションであります。

 加盟店オーナーに求められる資質というのは、そのような本部担当者からしっかりと本部意向を読み取り、いかに自身の利益を確保しつつ、本部意向にしっかりと応えられるか、ということになるわけです。



教訓その9――本部と加盟店オーナーの目的は一致していることが多いが、そこに至るまでの方法が違う場合が往々として起こりえる。そんな時、どう立ち回るか、これが肝要である。 

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