第3話

ゆらっと振り返りながら,

視線斜めに落として少しサロンの床見てた.

床も床なのに,天井なんじゃないかって位,

キラキラしてて…

あぁ

僕見上げてたんだっけって…

思ったり思わなかったり.

な訳ないよね.

それ位,サロンは綺麗な場所だった.

ここで,

色んな人が最上を見付けてく.

施工人も

魔法をかけられる人たちも.

合って無いようで

有って無いようで

なんか

自分だけ

まだ掴めてない人だった.


「今日,泊まってく?」

「へ!?」

オーナーの家に?

妻子ある場所に?

僕行っちゃって?

くつろげるの?それ.

朝一緒に出勤?

頭おかしくなりそうじゃない?

へらって笑って

「無理ですー.ではっ.」

それだったら,

真子にめっちゃくちゃ怒られても,

真子の彼女さんに最大級の嫌な顔されても,

ピンポン鳴らして入れて貰った方がいい…

あ…いや…

うん…

やっぱ,そっちのがいいな.


オーナーが笑った.

ん?

なんか僕声に出ちゃってた?

「何か変な事口走りましたか?」

真面目に大真面目に聞くと,

「いや?」

ってオーナーが言った.

「でも,僕帰ります.

あぁ,そう,帰らなくちゃ.

うん.そうだ,そう…」

最後の方は,もうほんと,ぶつぶつ言いながら.

「るい君.仕事部屋.

そこ使っていいよ.」

オーナーが言った.

仕事部屋?

目がキラったと思う.

「仕事出来なくないですか?」

一応,聞いてみた.

「大丈夫だよ.」

オーナーが言うので安心した.

仕事かぁ.

仕事なら,一緒にできるかもだし.

なんて思ってたのを

後々後悔する事となる.


上がりは僕の方が早いから,

貰った鍵開けて入って,

自由にしてる.

汚さないように気をつけるのは勿論,

現状維持に努めてる.


ただ,過ごしてて気が付くことがある.

時々,オーナーが女の子を持ち帰る.

その時,サロンの鍵渡される.

徒歩5分も無い.

ここ,あれだ.

やり部屋だ.

体よく仕事部屋ねぇ…

上手く言ってるんだわ.

女の子も

「誰?」

って聞くのよ.僕の事.

親戚の子の時もあれば,

弟の時もある.

超適当.

おんなじ子見た事無いから,

それでいいんだろうなー.

僕が誰であろうと邪魔さえしてこなきゃいいんだろう.

お兄は,僕もう十分間に合ってるって

笑えてくる.

知ってんのかなー.

奥さん.

真子も.

真子さー.

帰ってこなくても何にも言わないの.

何にも届かないけどスマホに.

こんなもん?

どこいるんだよー位聞けよ.

別れた時,慰めてなんかやんないからなー.

覚えとけよっ.


レジ周りだけ電気付けて,

ソファーに,ゆったり座る.

きらきらシャンデリアが綺麗.

ちょっと高そげな調度品が素敵.

道行く人が中見てると

少しピーアール的なアピールする.

女性は手を振ってにっこり笑いかける.

手を振り返してくれると,

勝率5割.

向こう空いてる時間を

こちら開いてる時間に充ててくれる.

「来てくれたんだ.」

出会えて嬉しいって顔して声掛けると,

まんざらではなさそう.

カット陣営の腕前がいいから,

お似合いの感じで帰って行かれる所がいい.

世界中の人が振り向くんじゃないだろうかって

本気で思っちゃう.

見た目と表情が最高.

男性へは,ちらっと見て会釈する.

気にはなるみたい.

こっちは全くもう読めない.

何かピンときたら来るみたいな感じ.

あんま来ないから,

女の子座らせてニコニコさせときゃいいのかな.

分からないけど.

ジェンダーぁ!!!って怒られそう.

カップルは…

あんま手を出さない.

こっち見てても見てないだろうってな感じ.

下手に踏み入って変な感じになっても

させてもやだし.

そんなに惑わせるほどの美貌も持ち合わせてないし,

取り越し苦労か.

あぁ…

今開いてますかっ空いてますかって

人いたな.入ってきたの.

今の時間,開いてる訳ないでしょだし,

個人的に誘われるのも無しだし.

内鍵大事だなって,そん時学んだ.

良かったよ.

レジ金持っていかれたり,

ボコられなくて.

どっちでも,ごめんなさいだ.

適度に時間外労働.

頼まれてないけど.

売上上がってんじゃないのかな.

自己満足.


スマホが鳴ると,

出ようか出まいか悩む.

オーナーの文字見えたら,

そのまま,マンション走ろうかなって思ったりもする.

どんな顔して電話して来てんのか確認したくなる気持ちもある.

出るけど.

「戻ってきていいよ.」

って軽ーく言われる.

戻りますけど.

口止め料と思って

家賃払って無い.

僕,元々全く関係無い人物なのに

ねじ入ってんのにね.

でも,

それから,のんびり1時間位かけてマンションへ戻る.

即行帰って,あぁ変な場所に戻ってきちゃったって

まじで思った事あるから.

1時間経ってると,

何も…

というと言い過ぎだけど,

残像すらない.

どこにも居場所なんて無い.

無いけど,

何とか保って

何とか存在して

居続けようとする.


翌日は

「はよーございますっ.」

ってにっこり笑って出勤.

何事も無かったような毎日が過ぎてく.

オーナーも通常営業.

カット陣営も

お客様も

変わらず.

1回,鍵持ってんのに朝一じゃなくて叱られたから,

まじで冷や汗がだらだらしたから,

僕持ってるのサロンのスペアキー.

レジ横に,返してオーナーに声掛けた.

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