私の夏
ルタ
ー私ー
…?
辺りがうるさい。
そう思って閉じていた目をゆっくりと開いた。見渡せば、スマホをかざす人達。
皆自分の足元に注目している。
ふと視線を落とすと、足元には血塗れの人の死体があった。
訳が分からなくてしばらく動けなかった。
動物の死体は何回か見たことがあったが、人の死体をこんな間近で見るのは初めてだった。
見るに耐えられなくてすぐに目を逸らした。
一体ここで何があったのだろうか。
その時、周りの会話が聞こえた。
『この子学生だったみたいね』
『飛び降り自○なんじゃない?』
『どうして…こんな若いのに…』
『グロすぎだろ笑 見ろよこれ、ヤバくね?』
『とりあえず撮っとこー』
…誰も救急車呼んだりしてあげないのかよ。
そう思いながらもう一度死体を見た。四肢は折れ曲がり血が辺りに散乱して…とにかくグロい。
身体を一通り見終わったあと、誰がこんな姿になったか気になったから顔を見た。
言葉が出なかった。絶句したと言うべきだろうか。その顔は「自分」だった。自分の顔がそこにあったのだから。
その瞬間、今までのことがぶわぁって頭の中にまるで走馬灯のように流れ込んできた。
何故忘れていたのだろう。何故思い出してしまったのだろう。
涙が出そうだった。頭がグラグラして、吐きそうな気がした。
そんな気持ちを堪えながら、自分は私「だった」物を改めて見た。
目に光は無く、口は半開きでその口からは血が流れていた。可愛い方ではないとは自覚していたが、こんな顔で死んでしまうなんて我ながら恥ずかしかった。
でもその表情は今までにないくらい穏やかな顔をしていた。
誰か優しい人が通報したらしく、遠くでサイレンの音が聞こえた。
これは、ただ私の今日までの生き様を晒すだけの話。
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