第10話 お支払いは魂で、
異世界人の召喚、それは今魔王たちの軍勢により傾いている我が国を救うことができる唯一の可能性です。
神話では魔王を倒すのはいつも決まって異世界から召喚された勇者です。
では一体なぜそれほど異世界人は強いのでしょうか。
それは未だに何も分かっていません。
ですが、この異世界人召喚用の魔法陣を使い、代償を支払えば異世界人はやってきます。
正直に言って、異世界人に関する情報を我々は一切持っていません。
残っているのは各地にある神話で多少記述されているだけです。
そんな存在に国を任せるのは正直どうかと思います。
ですが……それしかないのです。
私たちにできることは、もう、これしか残っていないのです。
魔王の軍勢は恐ろしく強いです。
一体一体が騎士と同じかそれ以上の力を持ち、それが何万と集まっています。
最初は我が国の騎士たちと強力な兵器により多大な犠牲を払いながらも撃退に成功しました。
私たちは喜びました。
「魔王軍に勝ったぞ、これで魔王との戦争が終わるぞ」と喜んで言いました。
お祭り騒ぎをして楽しく過ごしました、そして次の日の朝がきました。
明日も、その明日も、そのまた明日も争い一つない平和な日々が続きました。
誰もが戦争の終結を信じて疑いませんでした。
ですが、その日はいきなりやってきました。
魔王軍が現れたのです。
最初はただの残党だと思いました。
戦争に負けた国の兵士が祖国の復讐を狙う、というのはよくある話です。
ですがそれは違いました。
偵察兵によってもたらされた情報はこの国の首脳部を大いに動揺させました。
その数なんと脅威の五百万です。
しかも一体一体の格がこれまでよりも上がっています。
雑兵でさえ、偵察兵団が半壊してしまったのです、この国だけでどうにかできるわけがありません。
お父様は、国王陛下は、すぐに世界連合と周辺の同盟国に援護を求めました。
ですがどの国の返答も「今すぐには無理」でした。
当然ですが。
近くの国にいきなり魔王軍が襲ってきたのです、みんな自国を守ることに精一杯です。
一番早く着きそうな連合の多国籍軍でさえ、到着までに二週間かかります。
そして魔王軍たちの進軍スピード的に考えて、彼らが襲ってくるのは明日の昼ごろだと思われます。
つまり、後1日半しか残っていません。
ですからすぐにでも異世界人を召喚せねばなりません。
ですが召喚の儀式は未だに代償を支払わずに停まっています。
なぜなら儀式の代償を払うことを国王が認めないからです。
今回払う代償は直系の王女の命です。
今現在、この国には三人の王女がいます。
第一王女のレイナ、第二王女のヘレナ、そして第三王女の私、ヘレナです。
レイナ姉様は王位継承権一位なので簡単に死ぬわけにはいきません。
ヘレナ姉様は自身の派閥の力を使って免れました。
そして私に回ってきたわけです。
私は特に成績が優秀なわけでも、賢いわけでもありません。
どこか領地を収めている訳でも、実績を残した訳でも、大きな派閥を持っている訳でもありません。
12歳の幼さ残る王女として考えたならばそれは当たり前のことです。
ですが今回のことには年齢など何ら関係しません。
ならば私でいい、そういうことです。
今からちょうど1日前、お父様の口から、「国のために死ね」という内容を言われたとき、私は意味がわかりませんでした。
なので反論しました。
するとお父様は、悔しそうに、辛そうに、苦しそうに、我が国の現状と未来を教えてくれました。
そして理解しました。
私を犠牲にし、異世界人を呼ぶしか国を守る方法はないのです。
私は泣き崩れました。
死ぬのは怖いし、悲しい。
ですがそれより答えたのが王が涙を堪えながら私に語ってくれたことでした。
父親としての思いを殺してまでも、お父様は王という責務を全うしようとしています。
それが私にはつらくてたまりませんでした。
そして今日、陛下は私が死なずに済む道を必死に考えています。
もう、どうしようもないと気づいているのに私を守ろうとします。
ですが、やるしかないのです。
私は一人で儀式を進めます。
事前に渡された儀式の手順をまとめたものによると、どうやらあとは私が死ねばどうにかなるようです。
私は台の上に置いてある聖なる短刀を抜きます。
美しい波紋です。
これほどに美しい刃で死ねるのなら、ある意味本望かもしれません。
私は短刀を首筋に当てます。
手がカタカタと震えます。
ですが、やるしかありません。
王の悲痛な叫びが聞こえます。
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