第9話 「檻の中ワイバーン」ってか?

 目が覚めるとそこは檻の中だった。

 固く、冷たく、重い檻。

 俺の翼にはおもりがつけられ、足にも金具がはめられている。

 何もできない。

 しかも俺は視覚以外の周囲の情報を得る手段があるからいいが、ここは真っ暗だ。

 おそらく、洞窟で捕まえた個体ということに配慮して布を被せているのだろう。

 そう考えると、俺は今、人の街の中にいるのか。

 おそらくそうだろう。


 音は……かすかに聞こえる。

 本当にかすかだが、何も聞こえないということはない。

 だがよほど注意しなが聞かないと聞こえない。

 恐らくそうなるようにこの空間が作られているのだろう。


 俺はこの空間は倉庫のようなものだと考える。

 おそらくは魔物専用の。

 どの世界においても成長しきっていない魔物というのは一定の価値があるのでそのまま売られるのではないだろうか。

 ………おそらくは俺が捕まる直前に立てた予想どおりになるだろう。

 売られるか、バラされるか、殺されるか、飼われるか、奴隷とされるか、俺にはわからない。

 ただ一つわかることは俺はこれから縛られた一生を送るということだ。

 そしてそれは俺の主義に反する。

 俺は自由主義者だ、なにかに縛られたりするのは御免だ。

 だからこそ、逃げ、今すぐ逃げ出したい…のだが。

 この鎖たちである。

 この鎖たちが俺を縛るのである。


 この鎖、さっきから壊そうといろいろやっているのだが、一向に壊れる気配がない。

 ただ爪が、牙がすり減るばかりだ。

 本来ならばすごいビームを試してもいいのだが、どれほどの人に見られているか分からないこの状況ではあまりいい択だとは言えない。

 

 正直この世界に入ってから「詰み」になってばかりいる。

 あまり楽しくはないな。

 俺がこの世界にまだ慣れていないから、というのはあるとは思うが、それでも多すぎる気がする。

 まるで、なにかの意思の手のひらの上で転がされているような気分だ。

 袋のの中のネズミ、いや檻の中のワイバーンだな。

 考えすぎな気もするが、そうでない気もする。

 いや、考えすぎだな。

 大丈夫、きっと大丈夫だ。

  

 暇だ。

 この鎖がなかったら今すぐ逃げようと色々やるのだが、正直それすらできないからやることがない。

 抗うことさえできないのだから本当にやることがない。

 暇すぎる。

 暇。

 暇。

 暇。

 暇。





 そして俺は気づく。

 いつの間にか一切音がしなくなっているのだ。

 静寂、まるでなにもないかのように静かだ。

 なぜだ?

 ここは恐らく倉庫だろうという予想をさっき立てたが、そうだとしてもこれほど何も音がしないのはおかしい。

 さっき聞こえていた音は人の声だったと思う。

 ということは俺が聞こえる範囲に人がいなくなったということだ。

 なぜだ、なぜなんだ。

 すごく嫌な予感がする。

 

 そのとき、俺の視界が急に白転した。

 眩しすぎて何も見えない。

 俺は慌ててしまう。

 洞窟暮らしの代償だろうな。

 俺は思わず目を閉じるがそれでも眩しい。

 どんだけ光に弱いんだよ。

 でも俺には謎の第六感がある。

 何で判定しているのかはよく分からないが確かにある。

 それで感じるのは俺を捕まえようとする男二人。

 どうやらさっき眩しくてワタワタしていた間に俺を縛っていた鎖と重石は外されていた。

 よし、飛べる。

 俺はすぐさま飛び出す。

 

「なに⁉︎、なぜ飛べる」

「わかりません、ここでは眩しくて目が使えないはずなのに、なぜ?」


 動揺しているのが手に取るようにわかる。

 どうやら今は幸い扉は開けっぱなしのようだ。

 俺はこのまま一直線に外へ出る。

 

「待て!逃げるな!」


 その程度の速さでは俺に攻撃は当たらない。

 どうやら電気系の魔法で痺れさせて落とそうと思っていたようだ。

 でもそんな魔法に当たるわけがないんだよな。

 そのまま外へ出てても相変わらず眩しい。

 今は夜なのだが、ここは市場か何かだったらしく、めちゃくちゃ明るいのだ。

 

 俺は上昇する。

 人間は基本飛べない。

 なら上に逃げてから安全な場所に着地した方が賢そうだ。

 俺はとにかく上昇を続ける。

 そして俺は気づく。

 

(この町、デケェ)

 

 俺が地平線まで続く町だった。

 でかい、デカすぎる。


 ここまで上がれば普通に目が使えるので俺は目視で着陸地点を探す。

 うーむ、あっ、あそこはアリかもしれない。

 俺からちょうど左下にあるおそらくこの町で一番高い建造物に俺は向かう。

 まるで東京スカイツリーのようだがスケールが全然違う。

 とんでもなくでかい。

 なんだこの町、俺にスケールのデカさを自慢したいのか?

 まぁそれはそれとして、俺は塔のてっぺんに向かう。

 テレビのアンテナがごとく、先端が少し横になっているので俺はそこにとまる。

 




 

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