RTA仏陀

適当

RTA仏陀All Enlightenment in 2:23:43 [Any%]

ブッダは悟りの人である。


生まれてすぐに悟った。


母の右脇から生まれたのちに、本来であれば7歩あゆむところを16歩あゆみ、

52回両手を上げ下げして「天上天下唯我独尊」と叫び、悟りを得て入滅した。


だが、残念ながら当時の死生観においてAny%は認められていなかった。

そのため、彼は再び誕生から記録されることとなったが挑戦は無駄ではなかった。


 命名イベントがわずらわしいと感じたブッタは、デフォルトネームである「ゴータマ・シッダールタ」のまま、最速で名前入力を終えた。1回目の悟りは認められなかったが、その間に行った何百回にも及ぶ悟りチャレンジの試行錯誤が生きたのだ。


「おまかせ」を選べば、ガウタマ・シッダールタやゴータマ・シッダッタ。ネス、たくや、いといしげさと、など数々のおまかせネームから選ばれることもあり、いといしげさとで記録に挑むこともできたが、ブッダは一刻も早く悟りたかった。


アーケード版であれば、人生クリア後のネームエントリーでAAAを連打するとBUD(仏陀)に合わさる仕様もあったのだが、紀元前にアーケードは存在せず、その手法を使うことはできなかった。しかし、彼は一刻も早く悟りたかったのだ。


ブッダは「あ」の文字にカーソルが合わさったまま、名前入力画面で決定ボタンを連打した。「あ」が空白の部分まで埋まり、自動的に「これでよろしいですか?」の決定確認画面が出るからだ。これが現状最速の命名である。


両親が名前を決めようとしたまさにその瞬間、ブッダは心の中でボタンを連打した。彼の名は「ああああゴータマ・シッダールタ(最大15文字)」となり、悟りを開いた人の名は「ああああああ仏陀(最大8文字)」として登録された。


ああああああ仏陀となる運命を背負ったああああゴータマ・シッダールタは最速で名前入力を終え、最速で王族となり、最速で悟るべく行動を開始した。


それは、のちに馬小屋で生まれた途端に空中からパンを出現させて磔までスキップを行い、槍で脇腹を突かれる瞬間に葡萄酒を選択することで十字架浮遊バグを発動。最速の復活を果たしたナザレアアのイエスアアよりも早いチャートであった。


ナザレアアは最後の審判でラッパの回数を間違えてしまい、ヨハネの黙示録における四騎士を2回出現させて八騎士にするという致命的なミスさえなければ、記録としては最速だったのだ。一発勝負の世界では、何が起きるかわからない。


ブッダは両親から豪奢な宮殿や贅沢な環境を与えられると、それらを確認することなく誕生日までひたすらイベントをスキップ、さらに会話をストレージに保存したまま移動した。この年にはAny%が認められていたので、これは正式なテクである。


29歳になるまでパラメータを力に振り続けた彼は、教養が必要なイベントをすべて力で解決した。結婚イベントは後ろ向きに告白(ブッダが振り向くまでのタイムラグをなくせる)すると、息子ラーフラが理論上最速のタイミングで生まれた。


それを確認する間もなく、彼は四門出遊を済ませた。門から1歩踏み出し老人を確認すると、すぐに門へ半歩だけ踏み込んで入りなおし、それを4回繰り返して老人を視界から消さずに四苦を知った気になった。王城に戻ると深夜まで時間が飛ぶので、半歩ずれた状態でそのまま門を飛び出して出家。家族関連のサブイベントを終えた。


最短を目指すならファミリーベーシックで菩提樹を呼び出すか、ホットプレートで自らを焼くのが現状の最速チャートであったが、紀元前ではまだAny%任意コード実行が認められていなかったため、仕方なく菩提樹までの道のりを高速で歩いた。イベント中のラーフラを引きずることでエンカウントを無視できるという仕様を駆使して、誰にも会わずに菩提樹を目指した。ラーフラのステータス画面バグも活用した。


本来ならば、磔状態であるナザレのイエスと人生を差し替えることで、最速で悟りを達するチャートも開拓していたのだが、宇宙の大いなる意思はこれをAny%任意コード実行だと認定。正式な悟りにおいては、認められることがなかったのだ。


釈迦には多くの弟子がいたが、彼は大半の弟子に会うことなく駆け抜けた。アーナンダさえいれば悟りまでの最低条件を拓けるからだ。出家と同時にアーナンダを弟子として引き入れるのが最速である。マーラの誘惑時にアーナンダを誘惑状態にしておくことで、彼がヒマラヤへ向かうイベントを回避できるのがポイントだ。


宇宙のアップデートでマーラのイベント開始地点がズラされたため、スキップできずにチャートの修正を余儀なくされていたのだが、マーラチャレンジを繰り返したことで「梵天をマーラにぶつけるとイベントの一部が吹っ飛ぶ」という新たな発見もあった。これにより、アーナンダ出家までのチャートが大きく変わったのである。


沙羅双樹にたどり着くと、ブッダは覚醒と睡眠を連打しながら横になったり縦になったりを1時間程度で繰り返した。そして、年が変わる瞬間に会話ストレージからショップを解放。年のイベントをスキップして80歳まで飛ばすテクを利用した彼は、沙羅双樹で神速入滅。ブッダは、ついに悟りと入滅の世界記録を達成したのであった。


同時に、彼は己の入滅後から56億7千万年後に降臨する弥勒菩薩のチャートもこなしていた。ブッダが意識を失うと同時に、同じ地点に弥勒菩薩が出現。力尽きたブッダの頬の上に立って衆生を救済し、弥勒菩薩降臨RTAも達成した。不在中に地蔵菩薩が出るフラグを折ってしまったため、地蔵菩薩は登場せずに一部の会話がおかしくなってはいたのだが、これは運営(宇宙意思)によって正式なチャートと認められた。


時代はまだ紀元前であったが、弥勒菩薩の出現フラグを満たしたことで太陽は赤色巨星となり、太陽系RTAも同時に達成した。ブッダは太陽系RTAの記録保持者でもある。そして現在、宇宙消滅RTAでも史上最速の記録を打ち立てようと、彼はまた誕生から入滅までを繰り返しつつ、チャートを練っていた。その努力には今でも頭が下がる思いである。彼の並々ならぬ努力によって、悟りは新たな時代へと突入している。


ブッダは悟りのRTA人である。

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