【転生】異世界タブレット【SS】

 私は人よりも恵まれている。艶やかな黒髪、黒目がちな瞳、美人で胸だってある。背が高く(百七十センチ)モデル体型でスタイルもいいし、性格も明るくて気さくで話しやすいと評判だ。藤高一姫という自分の名前も気に入っていた。

 だから、私はモテる。

 でも、彼氏はいない。

 理由は簡単だ。

 私がイケメン好きの面食いだからだ。

 私は自分の容姿に自信があるから、自分の好みの男しか見ない。

 だから何が欲しいかと問われれば、イケメンの男一択。

「これからあなたは異世界に転生します。元の世界から一つだけ持ち込みを許可します。あなたの私物でもいいし、欲しいものであればこちらで用意しましょう」

 こう女神マブもおっしゃってるのに、なぜ私はイケメンが欲しいと恥ずかしくて言えなかったのか。

「欲しいもの? 特にないかな? 強いて言えばタブレットとか?」

 今思えばもっと欲張ってもよかったと思う。

 なんならこの場で女神様にお願いして、私の望むものを貰うべきだったのだ。

 なのに私は……。

「えーっと、それじゃあ適当にお願いしますね」

 そう言って私はタブレットを望んだ。

 それが全ての始まりである。

 2トントラックにはねられた私は、女神マブによって異世界に転生された。そこは剣と魔法の世界であり、魔法が使えることに私は歓喜した。

 しかもその世界での私は、王族の息子として生まれた。

 つまり王子である。

 これはもう勝ち組確定じゃない!  そしてさらに、私はイケメン。

 そうではなくてさー。イケメンの男が欲しいって思ったけどさー、それは自分がイケメンになりたいっ意味じゃないから。でも十分に何不自由ない生活だからいいか。ははっ、喜べよ私。こうして私は王子として暮らし始めたのだが……。

 あれ? なんか思ってたのと違うんだけど。

 どうやらこの世界のイケメンとは、男らしい男のことを言うようだ。

 顔が良くても中身が伴わない奴が多いんだよなぁ。

 女みたいな綺麗な顔をしているくせに、口が悪いとか最悪だし。

 まあそういう奴に限って、権力を持っていることが多いので、私としては困っているわけだが。

 そんなこんなで私は十五歳になり、学園に通うことになった。そこで出会った一人の少女に心を奪われた。

 その人はまるで天使のような人だった。

 さらさらとした金髪に、透き通るような白い肌。

 整った美しい顔立ちをしている。

 一目見ただけで恋に落ちてしまった。

 これが運命というものなのかと思った。

 しかし残念なことに、彼女は女だった。

 私が元女じゃなかったら何の問題もないのに。

 それでも構わない、せめてお友達に。お友達からと私は彼女に猛アタックを仕掛けた。

 最初は嫌そうな顔をしていたが、今ではいっしょにお弁当を食べるくらいに仲良くなった。

「ベリンダのお弁当、すごい量」

「少ないよね? あたし、もっと肉が食べたいなー」

 肉食系女子かー。いいねー。

 あれ、ズボンが何やらつっぱっている。そんなにお弁当も食べていないから、お腹が張っているわけでもない。

 あ、これ勃起ってやつだ。

 やばい、ベリンダに嫌われちゃう。

 私は中腰になりながらトイレにかけこんだ。

 個室の中で私はおちんちんを出す。

「私知ってる!  オナニーすれば勃起って収まるんでしょ!」

 思わず叫んでしまったので、隣の個室からドンッと壁を叩かれた。

 はしゃぎすぎていた。ごめんなさい。

 気を取り直して、私はおちんちんを軽くさすってみた。

 へ、へー? 男の子のオナニーってこんな感じなんだ。ちょっと気持ちいいかも……。

「あ、ダメ……」

 出そうで出ない。いや、出さなきゃ治らないんだけど……。でも、私知ってる……、おかずがあればいいんだ……!

 私はタブレットを取り出す。まさかここで役立つとは思わなかった。

 エロ画像を漁ろうとしたのだが、なんとネットに繋がらない。

 私ががっかりしていると、おちんちんもしぼんだ。

 あ~、オナニーしなくても勃起って収まるのか。知らなかったわー。

 私は個室から出て手を洗った。

 その事件以来ベリンダとの友人関係は壊れつつある。

「ねえベリンダ、今度一緒にお風呂入ろうよ」

「絶対に断る」

 即答されてしまった。

「じゃあ、じゃあさー、また今度いっしょに寝ようよ」

「それも断る」

 どうも勃起したのがバレて警戒されているようだ。せっかく仲良くなれそうだったのに……、私のバカ。

 そんなある日、私は自分の部屋に忍び込んできた泥棒を捕まえた。

「捕まえましたー」

 私は縄でぐるぐる巻きにした犯人を引きずり出す。

「離してください、王子」

「え?  私を知っているんですか?」

「はい、あなたは藤高一姫さんですね」

 どうして私のことを!?

「実は私は女神マブ様の部下、魔女シコラスクです」

 女神マブ様……、確か転生するときにいたような気がする。

「私はあなたの望みを叶えるためにやって来ました」

「え?どういうことですか。ええええええっ!!」

 そんなの聞いてない。

「あなたはベリンダがお好きなのでしょう。なので、応援させてもらいました。明日、黒色妖精教の教会で二人きりで会えるよう約束を取り付けました」

「それじゃあ、もしかして私の願いが叶うってこと?」

「はい、その通りです。王族の密会ですから、口外せぬようくれぐれも注意してください」

「ど、どうやってそんなことができたの」

「それは企業秘密ということで」

 うーん、この人胡散臭いけど、とりあえず信じるしかないよね。

 私は次の日、教会に向かった。そしてベリンダと二人っきりになることに成功したのだ。

「ベリンダ、今日はお話があって来たの」

「あたしも話があるの。あなたのことが好き」

「嬉しいよ。私も君のことが好きだ。だけど、私は君と結婚はできない。だから、せめて友達として付き合って欲しいんだ。お願いします」

 私は頭を下げた。

「もちろんだよ! よろしくね、イチヒメ!」

 こうして私たちは結ばれた。

 それから私たちが結婚することはなかった。

 そしてベリンダは私にキスをする。私は目を閉じた。

「うふふ、可愛い子。これであなたはあたしのものになったの。これからずぅっと一緒なんだよ」

「うん、わかった。それでいいから、早くここから出してよ」

 私はベッドの上で手錠をかけられている。

「もう、せっかちなんだから」

 ベリンダは夢中でキスしていたのを棚に上げる。ついに我慢できず興奮した犬みたいに噛みついた。「痛いっ、何するのよ! やめてぇー」

 ベリンダは私の声など無視して、舌を入れてくる。

「うううううう」

 私は声にならない悲鳴を上げる。

「ああ、この舌なんておいしいのだろう」

 口から血を流しながら、私は自分がもう助からないことを悟った。

 ただ一矢報いるために私は足を延ばす。ベッドの下に転がるタブレットに届いて、タッチパネルを押した。

 ネットは使えないがカメラ機能は使えるはずだ。

「何をしているの!」

 叫んだベリンダの口が耳まで裂けて、鋭い牙をのぞかせている。背は割れてコウモリの翼が生え、体はハ虫類の鱗。

 天使の相貌は崩れ、醜い竜へと変身した。

 私はすかさず写真撮影モードに切り替える。

「助けて、誰か来て!  襲われてるの!」

 私は大声で叫んだ。助けなんてこない。私は密会のため、護衛をつれてこなかった。叫んだのはタブレットから注意を逸らすため。

 竜が私の上半身を丸呑みにする。私の残された足がピンと硬直して、シャッターボタンを押した。

「好きなのは本当だよ」

 ベリンダがつぶやくと、タブレットに水雫が落ちる。

 それは涙ではなく、よだれだった。

 ベリンダの好きは愛しているという意味ではない。牛肉が好きとか、豚肉が好きとかと同じ好きだった。

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