決めたよ。俺、催眠術を使って幼馴染(巨乳美少女)に復讐する。お前だけはやっぱ、許せねえから。~~無カ着火ファイア。ソノ巨乳、必ず揉んでやる! これは復讐だ。断じておっ◯いが揉みたいわけではない……!

おひるね

全てを無に帰す、顔面パン〇

第1話 差詰環奈は諦めない。


「あなたはだんだん眠くなーる。眠くなーるー。眠くなーるぅー……──」


 紐で吊るされた五円玉が目の前を掠め、振り子のように揺れる。


「あなたの深層心理に語りかけています。眠くなーる……。眠くなーるー……──」


 ………………………………。


 …………………。


「それではゆっくりと右手を上げてください」


 俺は言われたとおりに右手を上げる。


「続いて左手も上げてください。五円玉を見る目を休めないで、そのまま……そのまま……ばんざーい。脇汗が染みていることは気にしないで大丈夫ですからね」


 ……万歳。


「だんだんと手の感覚が薄れていきます。もうあなたの両手はわたしの指示でしか動かせません。大丈夫。脇汗は蒸発しました。気にかけることはなにもありません。意識は遠のき、自分が何者なのか、さらには名前さえも思い出せなくなりました」


 俺の名前は絵知屋えちや わたる! 脇汗だらだら、量産型フツメンの非モテ男子!


 ……うん。どう考えてもこんなの、成功するわけがないよな…………。





   +


 梅雨明けを間近に控えた七月──。


 俺は幼馴染の差詰さしづめ環奈かんなに催眠術を掛けられていた。


 催眠術といっても恐ろしい感じのものではなく「学校終わったらウチん家集合ね!」的な軽いノリで始まるやつだ。……けれども、かれこれ一年が経つ。


 ……うん。一年。


 始まりこそ軽かったが、今となっては重い空気を感じずにはいられない。


 しかし重いのは空気に限った話ではない。


 容姿端麗Gカップ。環奈はS級美少女にして、胸元に重みを背負う者。──即ち、S級Gカップ女子。


 だからなんだって話ではあるが、こと催眠術に関して言えば大きな影響を及ぼす。


 『あなたはだんだんねむくなーる』


 対面して座り、Gカップ女子が吊るす五円玉を見つめたのなら、いったい俺の視界にはなにが映るのだろうか。


 そんなのものは決まっている。五円玉。……ではなくGカップなんだよ!!


 本来その位置はジッとみることが許されない禁断の場所。日常の至るところでお目にかかれこそするが、ガン見は御法度。


 「おい、おっさん? 誰が見ていいって許可した?」


 こんなふうに吹っかけれてカツアゲされる漫画を何度読んだことか……。


 されども五円玉を見つめろと言われればノンリスクで見放題。視線はそのままに視点を少し奥のOPPAIに固定するだけでいい。

 加えて放課後の制服姿。ワイシャツの第二ボタンの隙間から秘めたる内側までお目に掛かれてしまうのだから、これはもう──。


 ブラチラのバーゲンセール。


 普段の環奈は胸元がお留守になるようなヘマはしない。一般よりも大きなもの(Gカップ)を持っている以上、視線にはことさら敏感だ。


 にも関わらず──。当の本人は気づいていないのだから世紀の大事件だ。


 幼馴染といえども俺たちはもう子供じゃない。思春期真っ只中の高校二年生。

 容姿端麗Gカップ女子と個室(環奈の部屋)に二人きり。おまけにブラチラGカップが見放題ともなれば、催眠術に掛かる心の隙間などあるわけがないのだ。


 詰まる所、頭の中はおっぱいでいっぱいだ!


 しかし事は、それだけでは収まらない。


「だんだんと身体が熱くなってきます。熱い熱い。燃えるように熱い。着ている服を脱ぎたくてたまらなくなってきました」


 環奈はやたらと俺を脱がしたがる。理由は「体内温度の掌握は催眠術の入り口にしてゴールなの!」とのこと。


 最もらしく、それらしい回答をもらってしまった俺は「脱がせようとするのはやめろ!」とは言えず、事態は深刻化を極めた。


 Gカップを眺めながら、Gカップ保持者であるS級美少女が俺を脱がせようとしてくる。


 ……うん。やばいね。やばいよ?


 これなんていうプレイ?


 もう催眠術どころじゃないよ?


 思春期の性欲ナメんな?!


 けれどもいずれは終わりが来る。まさかにも爺さん婆さんになるまで続きはしない。


 そろそろ飽きるころかな。と思い始めたのは十一ヶ月と少し前。……そろそろ……そろそろ、ね? 明日には、ね? 毎日そんなことを思い、ずるずるずるずると月日は流れ、気づけば一年。


 環奈がムキになっているのは明白だった。よもや催眠術を成功させないことには気が治らないのだ。


 ……なら、いっそ。


 とは思うも、事はそんなに単純ではない。

 俺には終わらせることができない、の理由がある。


 今の俺にできることといえば、諦めてくれるのをただ祈るだけ。


 けれども差詰環奈は諦めない。諦めの悪さなら世界一かもしれない。


「たまらないたまらない。脱ぎたくて脱ぎたくてたまらない! あぁ〜熱い。このままでは身体が燃えてしまう!」


 ここまでの話でお察しのとおり──。に侵されている俺は、まさかにも脱ぐことはできない。脱げば事案発生の一大事。


 もうっ。やっぱり、男の子やな♡


 こんな反応を環奈は取らない。男の子あるあるに気づいた瞬間に、グーパンチが飛んでくる。


 だから脱げない俺は要求をスルー。これに関しては環奈も納得済みだ。

 なんせこのレベルの要求を違和感なく聞き入れられるのであれば体内温度の掌握ひいては催眠術の成功を果たしていることになるからな。


 ゆえに、環奈は全力で俺を脱がせようとしてくる。


 俺が脱ぎ出せば催眠術は成功。脱がなければ失敗。いつの間にか催眠術はそういうプレイにすげ変わっていた。


 『絶対に脱げない男vs絶対に脱がしたい女』


 絶対と絶対がぶつかり合うとき、矛盾は生まれる。


 そしてこれが、終わらせることができない理由のひとつ目になっている。


「身体中から迸る汗が止まらない。熱い……死ぬ…………そうだ! 服を脱いでしまおう!」


 スルー。


「脇汗が滝のようだ……あぁもぉ! 脱いだ服で拭き拭きしたくてたまらない。熱い……熱い……もう限界! 脱いじゃおう!」


 スルー。


「うぅっ……くっそ…………ちっ」


 およそ女の子が口に出してはいけない言葉と舌打ちが静かに飛び出すも──。


 環奈がめげることはない。


「あなたはだんだん眠くなーる。眠くなーるー。脱ぎたくなーるぅー……──」


 再度、手順一に戻る。


 ………………………………。


 …………………。


 …………。


「脱ぎたくて脱ぎたくて仕方がない! あー、もうだめ! 洋服が邪魔!」


 スルー。


「このくそ……」


 そしてまた、女の子が口に出してはいけない言葉を吐き捨て、めげずに手順一へと戻る──。


「あなたはだんだん眠くなーる。脱ぎたくなーるー。脱ぎたくなーるぅー……──」


 ………………………………。


 …………………。


 …………。


 差詰環奈に『諦め』の二文字は存在しないのかもしれない。


 



    +


 けれども一時間が経てば本日の催眠術の時間は終わりを迎える。朝から晩まで四六時中ってわけではない。催眠術は掛ける側も掛けられる側も体力の消耗が激しいからな。


「三つ数えて手を叩くと目を覚まします。ワン、ツー、スリー! パンッ!」

 

 ずっと起きていたけど……。とは思うも、環奈は締めにこれをやらないと気が済まないらしい。


 だから野暮なことは言わずに、それっぽく反応する。


「おはようさん」


 すると環奈の催眠術モードも解かれ、むくれた顔で俺を見てくる。


 この頃の環奈は苛立った様子がやたらと目立つようになった。


 一年経っちゃったしな。


 諦めはしないが、限界は近いのかもしれない。


「ねぇ、なんで?! なんで掛からないの? そろそろ掛かってくれてもよくない? もぉぉ! いいかげんにしてよぉっ!」


 いいかげんにするのはお前だよ……。とは思うも──。毎度毎度、バーゲンセールのお世話になっている手前、あまり強くは言い返せない。


 これが終わられせることができないふたつ目の理由だ。


「掛からないものは仕方がないだろ……。それともなにか? 掛かったフリでよければいつでもしてやるぞ?」

「そ、それはだめ。ぜ……ぜぜ絶対だめ! それやったら怒るからね!」


 やけに早口だな……。まぁ、男の子あるあるに侵されている俺が脱ぐときは、それ相応の覚悟を決めるとき。……うん。無理だな。


「ならまたの機会にな」

「……うん。次こそは脱がすから。パンイチにさせてみせる……ううん。すっぽんぽんになってもらうんだから……」


 一年。あまりにも長過ぎる時間は、追い求める結果さえも肥大化させる。


 けれどもやはり、環奈はそろそろ限界なのかもしれない。

 元気印の二重丸。口よりも先に手が出るタイプの彼女がしょんぼりとしている。


 こんなしょぼくれた姿を見るくらいなら苛立ってくれていたほうが百倍マシだ。


 けれども俺の限界も近い。いつなんどき、防波堤を突破してもおかしくない状態だ。


 一年。それは健全な男子高校生が我慢し続けるにはあまりにも長過ぎる時間。

 

 なぁ、環奈……。俺、もう我慢できねえよ?!


 出かかる言葉をグッと飲み込み──。


「じゃ、じゃあ俺、もうイクから!」

「えっもう帰るの?!」


「おう。ちと野暮用がな!」

「え〜。またなのぉ〜。最近、付き合い悪いよぉ……」

「ごめんて。じゃ、急ぐから」


 ヘコヘコと頭を下げる素振りをしながら前屈みを自然なものにして、逃げるようにS級Gカップ女子の部屋を後にする──。


「このままじゃだめだ。このままじゃだめだ。このままじゃだめだ」


 小さな声で自分に言い聞かせるように急いで家へと帰り、三分と経たずに──。


「…………ふぅ。」


 とりあえず気持ちはリセットされる。すると先ほどまでとは違う気持ちで同じ言葉が飛び出す。


「このままじゃだめだ!!」


 確かな意思を抱き、今後の対策と現状打破に思考を張り巡らせるも──。一晩ぐっすり眠れば──。


「……次のバーゲンセール開催はいつだろうか」


 悶々とする朝の男の子TIMEとともに、Gカップ女子から送られる『今日やるよぉ! 学校終わったらウチん家集合ね!』のメッセージを心待ちにする日々はスタートされる。


 よもや俺はバーゲンセールの虜になっていた。


 寝ても覚めてもバーゲンセール。頭の中はバーゲンセールでいっぱいぱい!




   +


 そして時を待たずして、事態は急展開を迎える。


 季節は夏本番。例年よりも早く梅雨明けが発表された七月中旬。


 ついに環奈は限界に達してしまったのか、本気で俺を脱がしに掛かってきたんだ。

 催眠術で精神的に脱がすわけではなく、物理的手段を以てして──。


 あろうことか環奈は……。環奈は…………暖房をつけてしまったんだよ……。


「はぁはぁはぁああっ……熱い……死ぬ……んっはぁあ……も、燃えるように……んはぁぁああつい……脱ぎたくて脱ぎたくてたまらなぁい……はぁはぁはぁあ……」


 炎天下。連日猛暑日を記録する中──。 

 閉めきりの室内に響き渡るのは、甘くとろけるような環奈の声。


 Gカップ巨乳美少女が息を切らせ汗だくになりながらも、必死に必死に──俺を脱がせようとしてくる。


「……はぁはぁ。……迸る汗が止まらなぁい……。んはぁ……洋服が……じゃま……はぁん……たまらなぁい……はぁはぁはぁあ……」


 もはや俺は、脱がないわけにはいかなかった。



 悔やまれるのは始まりの日。

 催眠術を受けて立ってしまったあの日──。


 こんなことになるのなら断るべきだった……。


 後悔しても、もう遅い。


 始まりは一年前。

 環奈が『今日から君も催眠術師!』という本と出会ってしまったことから始まる。



 そして──。終わらせることができない、最大の理由とのを決定づけることにもなる。


 安らぎを求めて逃げた先に、たちは居たんだ──。

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