第14話 ゼゲル、心の中で言い訳をする

 おかしい、こんなことは間違っている。


 ゼゲルは青ざめた顔でそんなことを考る。

 確かに俺は幼女奴隷に売春をさせて金を稼いでいた。


 だが、それの何が悪い。

 法律で禁じられているわけでもなければ、誰かを傷つけたわけでもない。


 需要があるからやっていたのだ。

 物である奴隷を物として扱って何がおかしい。


 それに、悪というならこいつらだって悪だ。


 聖堂騎士団どもは神の名を呼びながら、くだらない拷問を繰り返すし。

 鬼畜奴隷商人は平気で嘘をついて、とんでもない奴隷を押しつけ、俺を破滅させてくる。


 なぜ俺が裁かれ、こいつらが野放しになっている。

 こいつらの方が遙かに卑怯ではないか。


 リズとかいう偉そうな奴は清々しい顔で「ゼゲルは殺す。だって邪悪だから。」と言う。「これまで泣いた子供たちの涙の分。いや、その三倍は拷問する。正義執行だ。」と。爽やかな春の日差しのような顔で言う。


 鬼畜奴隷商人は「情操教育にいいので、ぜひゼゲルの奴隷に見せたい。自分たちを脅かした怪物の断末魔はさぞ耳に心地よいでしょうから。」と言う。鬼畜が連れていた奴隷は「ざまあみろ」と言っていた。


 三角頭巾の聖堂騎士団は「そうだそうだ。」と晴れやかに拷問部屋で何かゴリゴリという音を立てているし。


 リズはまるでパーティに誘うくらいのノリで「私は子供たちを連れてくる。正義の素晴らしさを伝えるのだ。」と意気込んでいる。


 拷問部屋で何が行われているかが不安になり、耳を澄ませていると、こんな声が聞えてきた。


「この仕事はあまり人々に理解されない。時に偏見の目で見られ、苦しむこともあるが、こうしてうまくいくと誇り高い気持ちになれていいな。クズを肉塊に変えるのはとても楽しい。」


「ああ、自分たちが正義の側にいることを実感できるよ。」


「つらい日々だが、まじめにやっていればこうして報われることもある。神様はいつだって我々を見ているんだな。」

 

 邪悪すぎるだろ。


 おかしい。

 やはりおかしい。


 あの鬼畜の奴隷は鬼畜の味方をするのに、なぜ俺の奴隷は俺を守ろうとしない?


 あいつは俺より邪悪だぞ。

 俺だってちゃんとお前らに寝床を与えた。


 仕事だって与えた。食事だって仕事の後には与えた。


 死にそうな時は殴りすぎないように配慮したし、お前らがどれだけ臭くても我慢した。


 理不尽だ。

 この世はどこまでも理不尽だ。


「ア、アーカードさん。」


 俺は鬼畜に声をかける。

 憎悪を飲み込み、悲痛な声をあげてみせる。


「お、お願いです。助けてください。俺が悪かった。謝ります。」


 何を謝っているのかわからないが、とにかく謝る。

 椅子に縛り付けられていなければ土下座だってしただろう。


「ほう」


 鬼畜が面白い物を見つけたような顔をしていた。

 俺はおもちゃじゃない。


「なら、何が悪かったのか言ってみろ。」


 は? いや、俺は何も悪くない。

 どう考えてもお前達の方が悪いだろう?


 児童売春だって、俺だけがやっていたわけでもないはずだ。

 この世のどこかには同じような悪事をしても捕まらない奴がいるんだ。


 これは不平等だ。

 鬼畜奴隷商人が見透かすようにこちらを見ている。


「言ってみろ。」


 何か、何か言わなければ。

 謝罪の言葉を述べるべきなのに、頭にわいてくるのは怒りばかりだ。


 そもそも、お前があのド変態ロリエルフをよこさなければこんなことにはならなかった。


 なぜお前が死刑にならず俺がこんな目にあう。

 死ぬのはお前の方だ。何もかもお前が悪い。


「ず、ずみまぜんでしだぁ。」


 すべてを押し殺して、謝罪の言葉を口にする。

 流れる涙は申し訳なさでなく、怒りからくるもの。


 だが、これでどうにか騙しおおせればそれでいい。


「ほ、ホントーにもうしわけないと。ココロから。」


 その時、元気いっぱいにリズが戻ってきた。


 連れているのは奴隷だ!

 俺の奴隷達が戻ってきた!


 早く、早く俺を助けろ!!

 さっきアーカードの奴隷がしたように、俺の為に拷問にかけられると言え!!


 主人の危機にこそ、奴隷は役に立つべきだ!!


「うぅ、ううう。」


 ぐしゃぐしゃの顔で奴隷たちを見ると、殺意でいっぱいだった。


「え?」


 意味がわからない。

 なぜ、なぜ俺ばかりこんな目にあうのだ。


 お前らを養っていたのは俺だぞ。


「死ね! 死ね!! 早く死ね!!」

「ふは、ははっ あはははははは!!」

「…………無様だな。ドクズ。」


 なぜ、俺にそんな言葉をかける?

 世話をしてやったのに、恩を仇で返すのか?


「い、いやあ。な、何もしとらんもん。わしは知らん。そもそも、考えてみるがいいアーカードよ。あんなドグサレ×××ぶらさげた。息の臭い×××野郎に欲情などするものか!」


 おま、お前……!

 ふざけんな、ふざけんなよ!!


 お前のせいで俺は……!!


 くそ、なぜ……。

 なぜ聖堂騎士団が家にやってきたのだ。


 あいつらさえ来なければ。


「そうか、そうかわかったぞ。」


「このクソ×××どもが! お前らが客に話したな!! 身体で男をたらしこんで、助けて欲しいと媚びを売ったな!!この淫売どもが!! 恥を知れ!!」


 俺が叫ぶと奴隷たちが怖気だった。


 笑える。

 いきがったところで、染みついたトラウマが治るわけもないのに。


 そうだ。まだこいつらは俺の奴隷なのだ。

 どうせ殺されるなら、拷問呪文をありったけ唱えて全員殺してやる。


「はは、痛い痛いのとーんでけ。」


 俺の変化に気づいたアーカードが吠える。


「お前、この状況で……!」


 俺様を舐めた罰だ。

 お前の奴隷も殺してやるぞ!!


「【痛みをペイネス!!】」

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