06-08
どうやって逃げ出したんだっけ……
確か、たまたま遠くに聞こえたパトカーのサイレンに、あいつらがびっくりして、
一瞬の隙に、香奈が、くみしだいている男の下から身体を捻って抜け出して、
適当な服を掴みながらバックドアを開いて、
あたしの手をひいて、外へ転がり出たんだ。二人、素っ裸のままで。
普通なら、またすぐ捕まってしまうところだけど、
たまたま、向こうから人が来るのが分かって、
男たちは、慌ててワゴンを発進させたんだ。
下品な笑い声で。
射精を何回したとか、最低なことを自慢げに話しながら。
あたしたちは、茂みに隠れるように、急いで服を着た。
すすり泣きをしながら、急いで。
裸の上に薄地のジャンパーだけ、とか、ろくに身を覆うことが出来なかったけど。
シャツなど残った服を腰にまいてスカートのようにして、家までの長い距離を歩いたんだ。
途中、二人とも一言も口をきかなかった。
無言で歩き続けた。
家についたのは深夜だった。
結局、
その日に起きたことは、
誰にも、
なんにも、訴えなかった。
香奈の願いで、誰にも訴えなかった。
両親にすらも、黙っていた。
分かっている。
香奈は、自分が傷つくことを恐れていたのではない。
家族を、
あたしを、守りたかったんだ。
未来はない。
あたしにはもう、未来はない。
妹を見殺しにした、あたしには。
自分が悪いくせに、
自分だけが悪いくせに、
なのに、
だから、
妹の必死な笑顔が、腹立たしくなるんだ。
穢れているくせに、
などと思ってしまって……
理不尽なの、分かってる。
だって妹がそうなったの、あたしのせいなのだから。
逃げることだって出来たのに、命がけであたしを助けようとして犠牲になった、そんな妹に対して、最低なことばかり考えて、最低なことばかりをしてしまった、
そんなあたしに、
未来なんか、あるはずないんだ。
……あっては、いけないんだ。
香奈は、いつも明るくしていた。
その件以降、以前よりとても明るくなっていた。
部屋にふさぎこんでいるあたしと対称的に、バカみたいなことで大笑いしたり。
あんなことがあったなど、誰にいっても信じてくれないほどに、香奈は明るく元気だった。
表面的には。
でもその明るさ、元気、笑顔は、全部、あたしのためなのだ。
あたしを救うことが、姉妹を元に戻すことなんだ、と心で泣きながら健気に頑張っていた。
なんで、そんな妹が死んで、
あたしは生きている。
おかしいだろう。
こんなむちゃくちゃな世の中って、存在している価値、あるのか。
断言する。
ない。
ならば、こんな世の中に存在する、すべてのものも、存在する価値はない。
もしも、
もしも神様が本当にいるのなら、会いたい。
会って、一言いいたい。
死ねよ、って。
神様、
お前、必要ないよ。
死ねよ。
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