空きビンとアルミカン

 敵によって地上を奪われた人類だが、地上は少女達には未知の場所ではない。

 それは敵の侵攻から守る戦場でもあり、再び取り戻す場所でもあるからだ。

「遠足にでも出すか」

 そんな大層なことは関係もなく、ハヤミはそんな言葉を漏らしていた。

「遠足ですか」

 アキラは尋ねるのだが、ハヤミはオウム返しで「そう遠足だ」と答える。

 そもそも、地上が奪われた人類には遠足もまた奪われたモノの一つ。失った文化であり、その言葉は文献だけで知る物語の出来事。

 つまり、遠足といわれてもアキラにはそもそも何を意味しているかも分かっていない。

「ああ、そうか。まだ、遠足を知らなかったのだな」

 ハヤミは宙に映し出されており、地図とその情報から遠足に適した場所、人員を割り出そうとしていた。

「まあ、出撃、遠征といった所だな」

 出撃、遠征となれば意味合いは分かるが、それでもなぜ、遠足となるのかはアキラには分からなかった。


 PART 1 廃墟か、宝島か

 少女達は基地から離れて、車で3時間かけてやってきたのがこの街であった。

 当然、基地を離れた時点で、ここは地上である。

 そこには以前、バカピックによって運ばれた街に匹敵する高層ビル群が存在していた。

「ここは昔、人類が住んでいた場所よ」

 第1部隊長であるヴィヴィはそう語る。

 相も変わらず、高層ビルは巨大でそれ単体で基地を凌駕するような大きさ。それがこの街に何個も存在しているのだ。

 以前の騒動でこれに近い光景はほとんどの者達が見ていたが、それでも今はみんな目を輝かせている。少女達にはここが宝の眠る場所、宝島であるからだ。

 だが、ここでの住人はいなくなって久しく、廃墟となった場所でもある。

「基地や都市周辺では防衛の観念から、高層ビルはほとんど破壊されガレキすら残さずキレイになっているけれど、ここらはほぼ朽ちることなく、昔の姿そのままに保っているわね」

 少女達はその場に待機はしているが、ヴィヴィの話はそっちのけで周辺を見渡している。それに自身の観測機器を使い、精密に周辺地図を作り、仲間と共有するほどであった。

 その情報はヴィヴィにも送られ来ている。通信機器も内蔵されているコアから送られた情報はデバイスを返さなくとも、直に脳内で処理することもできる。

 情報はかなりの精度である。街だけでなく、もうしばらくすればビル群の内部すら地図に書き加えられるだろう。

「まあ、説明はほどほどにして、みんなも楽しみしている遠足恒例の宝探しとしましょうか。だが、最後に」

 ヴィヴィは部隊長としても、緩んでいる少女達に檄を飛ばす必要があった。

 あくまで遠足と形容されているが、少女達が背負うのはお菓子やジュースなど入ったリュックではなく、銃や武器。そして、レスキューキットやメンテナンスキットなど万が一のための装備も最低限に用意されている。

 当然、上着は着ているが、その下は白のボディスーツ。完全な臨戦態勢での装備である。

 そう少女達、ファミネイは人類の敵バカピックの侵攻を阻止、防衛するためにある。

 そのために銃や武器を持ち、駆使して戦っている。

「ここ地上、奴らがいつ出てくるか分からない。街の探索も大事だが、奴らの気配には十分に気をつけること。また、出現しても、無理はせず、部隊の合流を優先すること。ここは基地ではない以上、我ら第1部隊のみですべてを対処する必要がある。1名でも欠けることは部隊の生存に大きく関わる。各自、軽率な行動は取らないように」

 これは遠足とは言っているが、実際は遠征。

 地上を奪還するための調査などが、この遠征の目的である。また、遠征である以上、基地からの支援はすぐには期待できない。部隊の能力、結束が試される場面である。

 それでも、少女達は遠足のお供であるお菓子やジュース等も忘れてはいない。今は車の中に置かれているが。もっとも、飲料用の水筒にはジュースが入れられているのは、いつものことだし、非常食も甘い味付けであることは少女達以前の軍隊でも同じこと。食事は戦闘時でも楽しみでないと戦えないからだ。

「では、各自の判断で最善の行動せよ」

 その台詞ともに少女達は作られた地図を元に周囲に散らばっていった。

 第1部隊で、その場に残ったのはヴィヴィ、副部隊長の位置づけのユノール、カレン、ルリカの4名である。

 そして、第1部隊とは別にエンジニア部門のファミネイもその場には留まっていた。

「4名も残っていれば、作業には支障がないわね。我々は本題に付き合ってもらうわよ」

 内心、ヴィヴィも散らばっていった方と一緒で、宝探しへと参加したかった。だが、部隊をまとめる立場として、ここは我慢している。それでも作業配分は計算しているので後から合流しても、問題がないよう時間はそれなりに確保している。

 また、先に行っている仲間から情報は入ってくるので、時間のロスやリスクも軽減される。

 では、ヴィヴィや他の者達が楽しみにしている宝探しと何か。そして、何のために街を探索しているのか。

 それはこの街に残る生活用品等を探し出して自分の物にすること。

 文字通りの『宝探し』である。

 当然、この街を離れた住人達は貴重品などの価値があるモノはとうの昔に持ち出している。それでも持ちきれない物は街と一緒に残している。少女達には残された物がたとえ価値がない物でも日頃、目にすることのないアンティークばかりである。

 それらが眠っている場所だから、少女達がこれを楽しみにしないはずがない。

 と、ヴィヴィは頭の中で宝探しへの算段を処理しているが、そもそも本題は宝探しではない。これはあくまでおまけである。

「遠足といっているけれど、本来はこの遠征での目的は周辺の調査もあるけれど、観測機器、通信機器等をこの街に設置すること」

 周辺の調査に関しては現在進行形で、少女達特有の楽しさ優先のあやふやさはなく、精度が高く処理されている。

 だが、観測機器、通信機器等の設置の件に関してはこの場にいる4名とエンジニア部門の2名、計6名だけの作業となる。

「とはいえ、機材を運んでアルミカンでの展開。それで終わることだけれどね」

 機材とはいうボックスにはただ、鉄くず等が詰まっているだけである。単なるゴミを捨てに来たわけではない、そして間違って別の物を持ってきたわけでもない。

 アルミカン。原子の錬金術とでもいうべき、原子を分解、再結合させて物体を作り出す技術。ナノテクノロジーを超えた先の技術である。

 これを使うことで、たとえ鉄くずであっても、分解され、原子を再構築され、電子部品へと作り替え、部品を組み立てることで観測、通信機器へと作り直すことなど、いとも簡単な作業である。

「さて、どこに設置しようかしら」

 この街は広いが、随時更新される情報を元にすれば、この場にいながら適した場所を選べばいいだけの話であった。


 PART 2 街の火

 少女達は廃墟となった街を探検している。

 まさにここは太古の遺跡であり、宝が眠る場所。わずかばかり残る生活用品であっても自分のお眼鏡にかなうモノであれば、他人から見てゴミと見なされても、少女達には宝物として十分であった。

 もっとも、少女達にはここでのモノは初めて見るモノばかりで、ここで住んでいた人間達が捨てたゴミであっても、それがゴミだと認識することはできないほどである。

 それに太古の遺跡と形容したが、実際にそれほど時間は過ぎており、ここでのモノを正しく理解するには考古学の知識が必要になるぐらいである。

 それは今を生きる、人類側も同様で、地下という限られた場所、資源で生きる中で地上は失われた栄光である。

 ここでのモノを持ち出すことは少女達とはまた別で価値のあることである。

 とはいえ、地上への出入りは管理され、バカピックからのリスクがある以上、一攫千金を狙って地上に上がることはない。

 それに本当に価値あるモノや貴重品は移住の際に持って運ばれているため、残っているモノに価値があるモノは少ない。

 ここが少女達とは違う価値観である。

 つまり、この宝探しは少女達のみに許され特権である。


 そんな中、この街一番のお目当てとされる場所が発見された。

 動力源が生きている場所があるのだ。

 別にそれ自体は不思議なことではない。動力源のコアは半永久に駆動が可能である。つまり、人類が地下へと移る前より稼働している大先輩である。

 そんな魅力的な場所にレモアと初めとする4名が探索を開始した。

「さて、ここは当たりだろうか」

 レモアはそうつぶやく。他の3名も似たようなモノでこの先のまだ見ぬ成果を期待している。それに他の探索組の4名もここには目星は付けたが、レモアを初めとするこのメンバーの強欲さに勝てないと場所を譲り、各々違った場所を探索している。

 動力が生きている建物は倉庫だったらしく、街からは少し離れた場所で、建物自体の高さは高層ビル群から比べれば低いが、広さがそれを補ってはいる。

 そして、動力が生きていることで建物を管理するシステムもまた作動している。

「どうしようかしら、一応、建物の破壊は認められていないから」

 そう、システムにより建物の扉はロックされており、主なき後も建物はその内部への侵入を防いでいる。

 狙い目の場所であっても、他の探索組は動力が生きていることが探索のリスクになると考えていた部分もある。だから、ここを狙わず、安定志向で他を探索している。

「私に任せて」

 そう言ったのは第1部隊でシステム関係に強いマイヤーであった。

「こんなロックは、私にはゲーム感覚よ」

 扉の横に設けられた端末にマイヤーは手をかざすと、システムと接続を始める。コアの通信機能は機械相手であっても行える。

 ただし、システムの原理を理解していなければ、介入した所で何もできない。いわば、プログラムの言語で対話するといった所だろう。

 これはエンジニアなら、大抵持ち得ているスキルであるが、戦闘要員にとっては趣味のスキルである。通信関係やこういった場合には、たまに役には立つが。

 そうしていると、30秒ほどで扉のロックは解除された。

「さすが」

 しかし、当のマイヤーはさえない顔だ。どうしたのか、レモアは一応尋ねる。

「いや、ロックを外そうとしたのだけれど、何分古い構成だったから、勝手が分からず、どうせ建物全体に及ぶことだからシステム全体を私の管理下に書き換えたの」

 本来なら、扉のロックを外すだけで済む単純なことだったが、考え方も違う古い方法だけに、知識よりも経験がモノをいう世界。なら、自分の知る知識に置き換えた方が早いと、マイヤーはシステムの書き換えで対応した。

 建物のシステム管理程度なら、コアを使いこなせばすぐに作り出すことは難しい話ではない。

「まあ、後でシステムは元に戻すから壊したことにはならないわよ」

 マイヤーはそう語るが、このシステムを作った人からすれば次元が違う話であっただろう。とはいえ、少女達にとっては至って普通なこと。

 これが時代の差なのかもしれない。

「それよりもシステムを掌握したことで、ここの詳細が分かったわ」

 むしろ、その言葉にレモア達は興味を示す。それはこの内部の宝物に関して、参考になる情報たからだ。

「……ちょっと、寄り道してから いいかしら」

 だが、マイヤーの口からもコア経由の情報からもそれは語られず、ただ、同意だけを求められた。

 まだ見ぬ宝物に早く見たいと焦る気持ちはある。

 それに情報がなくとも、各々でも動いて調べれば、その手間は誤差に等しいのこと。なら、同意をせず、各自で動けば相手よりも先に宝物を自分のモノにできる。

 だが、それはマイヤーも同じである以上、マイヤーにそう思わせる発見にレモア達も従うしかなかった。

「了解。ここはシステムの掌握したマイヤーに従いましょう。それが一番リスクは少ないことだからね」

 そう、1人がいうと各自は納得した。

 その同意を得たことで、マイヤーは黙って建物内を進み始めた。ただ、進み続けるだけで何も言わない、情報も提示されない。

 ただ、地図情報だけ更新されており、進行方向から行き先のおおよそは把握はできていた。ただ、そこに何があるかはまだ分かってはいないが。

「ここよ」

 ようやく、言葉を発したマイヤーが案内した場所には厳重な扉が付けられている。その扉、壁で隔離されているのに、その先の様子は部屋の外からでもうっすらと感じ取れた。

「分かっているとは思うけれど、開けるわよ」

 扉を開けることで部屋に閉じ込めていた冷気がわずかながら流れてくる。扉の先は低温で管理された部屋であった。それは地図からも、部屋の外からもわずかに伝わってくる冷気でも分かっていた。

 部屋の中は低温で管理されているだけに食料等を保管する場所として使われているようだ。

 少女達は上着を着ているが、低温に冷やされた部屋内は寒いため、各自、力場を利用することで周りの冷気を遮断させて、防寒着の代わりにした。

 部屋に入るとすぐに扉は閉められる。冷気を逃がさないための元からのシステムによるものだ。こればかりは無理に変えても仕方がない、本来の用途だから。

 部屋内には棚が置かれ、様々な食料等が保管されている。とはいえ、部屋内に保管されている量は棚の数に比べて多くない。消費されていたのだろう。

 長年放置された場所であっても、設備は生きている。いや、動力が生きていればそれは当たり前なこと。

 動力であるコアと錬金術に等しいアルミカンはセットとして使われるからだ。

 その結果、どのようなことができるか。

 半永久的に朽ちることがなくなる。劣化してもアルミカンによって再生を行う。そのエネルギーはコアが作り出す。その循環したシステムにより、地上を昔に捨てた人類なき後もこの倉庫は辛うじて、あかりを消すことなく今を生き続けていた。

 そして、その低温の部屋に入ったとき、マイヤー以外の者も目には見えていないが、ここに来た理由をすぐに理解した。観測機器はそれを察知したからだ。

 そして、一同は黙ってその場所へと近づいていく。

 その場所には人が眠っていた。

 しかし、観測機器はその人が生きていないことは初めから探知していた。それでも観測機器は死んでいても、人がいることを少女達に重大事項として知らせていた。

 それは人類を守るファミネイの最優先事項だからだ。

 この場で寝ている人はこの低温の空間が幸いしたのか、腐敗を免れてある種のミイラ化をしている。確かにグロテスクには変化しているものの、生前の姿をある程度、今に残している。

 性別は男性、歳は推定できないが外見では年配者と思われる。このような場所で息を引き取ったことを考えると、体力の衰えからこの気温の変化に耐えられなかったのか。

 どちらにしろ、歳による影響は大きいだろう。

 さすがにレモアを初めとする少女達もその姿を見て、不要なことは言わない。どうであれ、自分達にとっての大先輩であるからだ。

 とはいえ、これほどの発見、情報としては流す必要がある。

 だが、それをマイヤーは意図的に隠していた。とはいえ、これを見てその気持ちも分かるのだが。

「ひとまず、映像はNGよ」

 レモアはそう突っ込む。周りもその言葉に静まっていた雰囲気を打ち破り、笑みを浮かべる。

「了解。ひとまず、情報だけ送りましょう。それでもといわれれば、詳細を発信してやればいいからね」

 マイヤーはそう語るが、ひねくれた発想ではある。その行為が逆にオオカミ少年とならなければいいのだが。

「さて、後は我々の仕事に戻りましょうか」

 お互いに目を輝かせ、互いをけん制するかの様子を見せていた。


 PART 3 遠足の楽しみ方

 動力が生きていることはこの街にいる少女達すべての周知の情報となっていた。

 それは本来の作業目的を持つ、ヴィヴィ達にとっても有益な情報であった。

「動力が生きている場所があるようね」

 エンジニア部門も興味のある場所と同時に、設置に適した場所とも判断していた。

 そこに向かっているレモア達のグループも追加情報として、書き加えられている。

「どうであれ、人手も確保できそうだし、我々もここを目指しましょう」

 ヴィヴィ達は車に乗り込み、その場所へと目指した。


 ヴィヴィらが車で到着した頃には、すでにレモア達は倉庫の中へと侵入していた。

 確かに、レモア達が先に出発したとはいえ、歩きでこの場所を目指していた。車と歩行のスピード差を考えれば、時間差などないと考えてよい。

 つまりは、途中ですれ違ってもいいはずだ。

 恐らくというか、推進装置を展開して移動していたのだ。それは他の宝探しメンバーも同じで、移動速度もさることながら、飛翔により高所での調査もできるため、推進装置を有効に活用している。

 こうなると、逆に車の方が機動力で負けてしまう。

 さて、倉庫に関しては先ほどマイヤーによって掌握したシステムからかなりの情報が更新されてきた。

 製造年やシステムの稼働状況など。ただ、それらの情報はある時点で緩やかな情報量へ変化していた。

 要はこの地上に人がいなくなった頃だ。

 そのデータを見て、エンジニアのファミネイも興味深かった。そして。あることを思いついたので、そのことを提案してきた。

「観測機器としても、この倉庫のシステムにリンクさせれば、いろいろとメリットがあります。ただ、持ってきた材料では足りませんが、この倉庫内、若しくは街から素材を集められるので大きな問題ではありません」

 現状を有効活用する案である。

「どうでしょうか」

 別にその提案を拒否する理由はない。だが、ヴィヴィは自身の時間を削ることにいささか焦りを覚える。

 とはいえ、少し考え方を変えれば素材集めも宝探しと同義。むしろ、逆に利用する手もある。

「ひとまず、私は倉庫内の連中と合流して、素材になりそうなモノを探してくるわ。他の宝探しのメンバーにも使えそうなモノも集めるよう、通信で連絡しましょう」

 いかにも自然な指示をヴィヴィは出した。

 これで堂々と自分の宝探しを任務として、行えるわけである。

「ユノール、カレン、ルリカはひとまず、この場で護衛を兼ねた監視を。後、他のメンバーにリクエストがあれば、ついでに探してもらうように連絡しておきなさい。こんな機会は早々ないのだから」

 ヴィヴィはフォローを入れる。しかし、それはある種の罪滅ぼしでもある。

 内心、ワクワクとした心が抑えられないが、それを押さえきって作業に従事している顔を見るのは幾らかつらいモノであるからだ。

「では、私は帰ってから一杯でも頂ければそれでいいです」

 ユノールはヴィヴィに対して、そう答えた。

 その言葉にしまった、とヴィヴィは思った。

「あんた達も言うだけ言っておきなさい。部隊長自ら、要望を聞いてくれることなんて、そうないのだから。もっとも、基地に帰ってからの奢りでもいいかも」

 ユノールとヴィヴィは付き合いはそれなりに長い。今回のようなケースだって初めてではない。いくら顔に出さなくとも、こんなときどう思っているかぐらい分かってはいる。


 エンジニア達はアルミカンを使い、ボックスを観測機器、通信機器へと変化させていく。その時間はそう掛からない。

 ただ、エンジニアの持つ、コアはあくまでデバイスの延長線上の物に過ぎず、アルミカンを使うにはそのエネルギーが絶対的に足りない。

 そのため、車のコアを使う。

 こちらはエネルギー容量は豊富で、万が一の野戦基地としても使えるだけの容量を想定している。

 そうしている内に観測機器、通信機器はできてしまう。

 出来上がったのは単なる円柱で、ただ柱が立っているだけにしか見えない。中身にすべての回路が詰まっている。もちろん、動力としてのコアもある。

 これから作業は動作確認と観測、通信におけるデータ調整がメインとなる。

 その後で、素材が確保できれば、倉庫との接続。

 倉庫のシステムに関しては既に掌握しているため、その構想は考慮されて、接続系統もアルミカンで展開されたときに準備されている。

 今は外観、ハード上の不備がないか、エンジニア達が確認を行っている。

「一応、観測、通信機能は使用できますので、稼働させます」

 エンジニア達は装置が展開して、ほとんど時間が経っていないのに確認を終えていた。

 アルミカンは設計図通り作り出すので、そこに失敗はない。だから、展開直後の確認は念のためである。そして、稼働後も確認、調整もそれほど時間はかからないだろう。

 既製化されたシステムであるから。

「まあ、バカピックが出る気配もないから、私達もゆっくりしましょう」

 そんなエンジニア達とは別にユノールはいささか暇を持て余していた。

 この観測機器は少女達の持つコア内の観測機器よりも優れているため、ひとまず稼働している今では、ファミネイ自身の警戒はいくらか緩めても問題はなくなったからだ。

 それに今のところは敵が来る、その気配もない。

「カレン、車の中のお菓子と飲み物を持ってきなさい。エンジニアの分も含めてね。ルリカも楽にしていいわよ」

 ユノールはその場に座り込んだ。

 カレンは車の中にあったお菓子等を取ってくる。一応、基地から遠足用に支給されたモノである。そして、その他にも数日分の携帯食用も用意されている。

 計画は日帰りの遠足であるが、最悪の事態も想定され食料は多めに準備されている。

 ルリカもその様子を見ていて、車の中にあるシート等の簡易テーブルなどを取りに行く。

「気が利くわね、ルリカ」

 取り出したシート、テーブルを地面へと置き、そこへお菓子、飲み物を準備する。

「用意ができたら、エンジニアの方にも声をかけておきなさい」

 ユノール自身は何もしていないが、手短な指示を与えるだけで周りは止まることなく動いていく。何もしていなくとも、状況を常に正確に把握して、足りない分は指示で補足する。

 ユノールはそういった性格で、ヴィヴィを補助してきた。

 別にそれを面倒とは思っていない。性分なのだ。だから、これは逆に楽しいのだ。

 そうしていると、お茶会の準備ができたので各自はその場へと座り始めた。エンジニアも休憩がてら、それにお呼ばれされる。

「私達も多少は楽しまないとね」

 そう言って、ユノールは飲み物に口を付ける。それを合図に各々はそれぞれの物に口を付ける。

「ユノールさんはいいのですか」

 カレンはユノールに対して、そう尋ねる。

「何がだ」

 ユノールはそう短く答えるだけ。

「いえ、楽しみではなかったのですか、宝探しは」

「さっきも言ったように、私は一杯やれればいいだけよ。それにお前達の方が楽しみではなかったのか」

 そういって、ユノールは飲み物を楽しみながら飲んでいる。

「別に私は……」

 カレンは遠慮しながら答えていた。やはり、楽しみにしていたのだろう。

「ヴィヴィもわかりやすく、うずうずとしていたけれどね」

 そう言われても、付き合いの長い者ならともかく、他の人には分からない変化を見極めることは難しい。

「まあ、ヴィヴィはあれで時間配分をしっかりと把握しているから、お前達にも多少は宝探しの時間はあるわ。今は遠足らしい楽しみを満喫しましょう」

 ユノールはお菓子にも手を伸ばす。

「ルリカ、宝探しの際は彼女達の要望も答えてあげなさい。エンジニアは作業で精一杯でしょうから」

「よろしいのでしょうか」

「目の前の楽しみをお預けでは、いい仕事もできないでしょう」

 エンジニア達もユノールの気遣いに感謝していた。

「ユノールさんはどうするのですか」

 ルリカはユノールに尋ねた。自身だって多少は楽しみにしているだろうに、そういったそぶりを見せないから尋ねたのだった。

「まあ、エンジニア達に最後まで付き合うわ」

「それでいいのですか」

 どこか同情するようにカレンは言葉をかけてくる。

「……うん、まあ。私はこう遠足している感覚で十分よ」

 ユノールはそう語り、何処か満足そうにしている。何もしていないというのに、なぜ楽しそうなのかは、カレンにはそれが分からなかった。

「いずれ、分かるわよ」

 ユノールはカレンの方を見て、優しく顔をさせて答えた。


 * * *


 缶である。食料が入っていた缶らしいが中身は既にない。

 それらは箱に入れられており、保存されている感じだ。

 周囲にはホコリなどはたまってはいるが、それ以外は散らかっておらず整理、整頓、清潔を保っている。

 恐らく、ゴミはないのはコアのエネルギー源としても有効活用されるからだ。

 コアの動力は核融合炉をベースとしたモノ。そのエネルギーとなるのは何でもよく、生ゴミ、金属ゴミであっても問題はない。また、余剰分はアルミカンの材料ともされ、ゴミという存在なく、循環をしている。

 缶が箱に入れられているのは、その材料、エネルギー源として一時保管されていたのだろう。

 ヴィヴィはレモア達と合流する前に倉庫内を探索していた。もちろん、素材集めの名目での宝探しを優先させるためだ。

 もっとも、既に宝探しが最優先目標であることはユノールによってばれてしまった以上、その趣旨を隠さず優先させている。

 倉庫だから、期待していた素材となりそうなモノは大量には保管されていなかった。それでも使われていない機器類は素材として使えるだろう。

 また、それは宝物となる興味を引く何かも少ないことを同様に秘めていた。

 むしろ、ここは倉庫ではなく、基地とは違うが人類の砦として使われたのだろう。地下へ潜ることを良しとせず、地上に残った者の住み家として。だから、この倉庫は人間が生きるのに必要な物資が多く見られる。

 特に保存食だ。

 コアは半永久であっても、食料は有限で消費する物だ。

 アルミカンで作り出すにも素材がなければ、何も生み出せない。また、金属を素材に食料を作り出すこともできない。あくまで原子を分解して再度組み合わせるだけ。

 その中でヴィヴィはガラスでできた瓶を見つけた。

 ガラス瓶は机の上に立てた状態で、中には何か物体が入れられて置かれている。

 恐らく、ガラス瓶は飲料物が入っていた容器だろうか。そして、置かれている場所を考えるとただゴミとして放置されたのではなく、別の用途として見立てたモノだろうか。

 そう、花瓶である。

 入れられたのは造花というよりも、花に見立てた何か。手作りされたモノで花とイメージで読み取れるが、あまりその出来は良くない。

 それでも、その空きビンの演出は今を生きるヴィヴィにもささやかな文化的な生活を想像させられた。

 その無作為でありながら、美を見いだそうとしたガラス瓶の美しさにヴィヴィは捕らわれる。恐らく、このガラス瓶が地面に転がっていればそんなことは思わなかっただろう。

 たった、それだけの違いがこのモノの価値を大きく変えていた。

 人工物しかない世界であっても、それをそれと思えば、そう思えてくる。

 これは花のない世界でも花を咲かしている。

 ひとまず、ヴィヴィはその空きビンを造花ごと自分のバックへと入れる。今回の宝探しはこれだけでも十分であると納得させ、本来の作業へと戻っていく。


 PART 4 主人のいない部屋と客人

 ヴィヴィはレモア達と合流した。

 レモア達も宝探しよりもとんでもない発見に戸惑っていたが、時間をおくことで本題に戻って倉庫内の探索を再開していた。

 再開して目指した場所は、この倉庫の主であった居住スペースである。

 ヴィヴィもひとまず、お目当てが見つかったことでレモア達の居場所を確認して、ここへとやってきた。

 ヴィヴィにとって先ほどの発見同様、そこにも文化的にあろうとする痕跡がいくつもあった。

 まず、絵画である。

 これも手作りだろうか、あまり上手には感じない。その隣にはモニターが置かれている。だが、これはシステムの範囲外か、壊れてしまっているのか稼働していない。

「この部屋自体、システムとは隔離されています。どういう理由か」

 と、マイヤーが語る。

「では、このモニターは意味がないと」

 居住スペースであれば、データ管理用のモニターとして使われていると考えるのが普通だが、システム外であればその意味はない。

「なら、映像作品を楽しんでいたのかしら」

「システムをかいさずにですか」

 それもそれで変である。システムはいかなるモノとリンクしており、映像作品すら膨大なシステム内に管理されている。単独でモニターを持つ理由は普通の人間では考えられない。

「直せるかしら」

「まあ、難しい話ではないと思うので、やってみます」

 マイヤーはモニターに触れる。そして、アルミカンを介して現状の回路を調査する。

 アルミカンは現状維持にも使われるように、その構造を解析するのにも便利な技術である。また、今のように壊れた物を直す際にも使われる。

 そして、調査が終わると今度は修理のために必要なエネルギーを注入する。

 今回は劣化による故障であるため、少量のエネルギーで半ば自己修復させる格好でアルミカンを使えば修理完了となる。

「なるほど、こうやって使っていたのか」

 マイヤーは修理したモニターをそのまま起動させたことで、その用途を理解した。

 そこに映し出されたのは絵画、しかも、いくつかの絵画が映し出されており、それらを選択することでモニター自身が額となり、絵画に見立てていた。

 横にある手作り絵画とは違い、少女達の知識にもある有名な作品ばかりがモニターには映し出されている。

 この使い方はシステムを介してできることだが、地上でのデータベースが壊れたことで暫定的な対応なのかもしれないと、マイヤーは推測した。

 倉庫内のシステムが無事であっても、地上自体が駄目になってはこの部屋もシステムに頼らない構築が必要になった訳だ。

「結構な趣味を持っていたわけだ。ここの主は」

 ただ、基地には絵画はあまり飾られてはいない。少女達が興味がないことが多い。

 それでもこうして見る絵画も悪くないと誰もが思っていた。

「それで何かいい物は見つかった」

「ここの主の日記が……」

「詳細は」

 ヴィヴィはデータが送られるかと思っていたが、意外にもそれは手渡しであった。

「……手書き」

 それは紙で書かれた日記であった。旧時代から紙はいろいろな背景から衰退していた。

 ただ、形式的や重要な書類には紙は使われており、基本的には一般人が触れる機会はほとんどないだけで、紙という素材としては健在であった。

 それでも、筆記用の媒体としては作られておらず、紙媒体での本もまた同様。

 この日記は恐らく、アルミカンで作られたオリジナルな製造物。

 中身もまた特殊で、初めは今でも辛うじて読める文字であったが、後半になるほど旧時代の文字へと変化している。

 恐らく、これも趣味なのだろう。

 暇を持て余すとここまで文化的な生活になるということか。

「それでデバイス等は……」

 生身の人間ではアルミカンを使うには、コアなどのシステムに仲介するデバイスが必要である。その中にはいろいろな情報も含まれている。

 手書きの日記よりも、今の時代では重要視される情報である。

「一応、この部屋のデバイスがあるのですが、ちょっと問題が」

「それも手書きだといわないわよね」

「残念ながら、それに近い部分がありましてメインシステムは今でも通用しますが、あえて暗号化がてらか旧世代のフォーマットを使用しているようで」

 マイヤーの腕ではそこまでが分かったところで、調査は止まっている。

 時間をかければ、できるかもしれないが、その時間というのは1日、2日でも足りない。当然、この遠足では対応できるレベルではない。

「分析はそれほど難しくはないですが、それで有益な情報があるとも限りません」

「とんだ発見だらけね」

 バカピックとは違うが、頭が痛くなる話である。

「まあ、いいわ。ここも私達の手に負えない話だわ。データまるごと持ち帰り、後のことは基地なり、都市の判断ね」

 ヴィヴィは少し悩んで周囲に指示を与える。

「ひとまず、マイヤー。この部屋のデバイスのデータはすべて保存。日記に関してはどのぐらいあるの」

「まあ、ボックス1箱分はありそうですね」

「持ち帰りで」

 その程度は支障がないと判断し、即答する。

「後、この部屋の物は基本、日記とシステム以外は手を出さないこと。判断に困りすぎよ」

 周りは不満の声を上げない。価値があることは分かっていても、少女達のお眼鏡に適うモノはないからだ。

「まあ、手作りの絵画ぐらいは持ち帰っていいわよ。下手したら都市ではかなりの価値になるかもしれないけれど」

 ヴィヴィはそう語るが、これも周りの少女達には興味のないことだった。

 そもそも、少女達には都市で価値があるといわれても関係のない話であることも大きい。

「それで、貴方達の獲得物は」

「今のところ、特にないですが、低温エリアに保存食がいくつか残っていました」

 旧世代の食べ物は今よりもおいしい、と語られている。それはある意味では真実で地上を奪われたことで食料の大部分は代用品を加工されたモノにアルミカンで作られたまがいモノ。自然で作られた食べ物は貴重である。

 ただ、旧世代も代用品による加工品も多いが、それでも今よりは自然で作られた食料を元にしている。

 保存食も少女達にとって価値あるモノの1つではあるが。

「まあ、そのまま食べることに関しては諦めるべきね。ただ、アルミカンを利用すれば、中身を再現できるかも」

 冷凍されたモノであっても時間が経ちすぎているため、いろいろと不安要素はある。

 そこでアルミカンの出番となるが、機械だけでなく食料の成分を取り出すことは簡単なこと。また、元々表示されている成分、材料を考慮すれば、中身の再現は容易いこと。

 ただ、その味はどこまで再現できるかは微妙な所。

 基本は同じモノの再現であるが、アルミカンはあくまで原子の再構成。味の要素を決めるためのモノとは別問題である。

「それを確認がてら、ここの主にも挨拶と行きましょうか。マイヤー、案内を」

 レモアはヴィヴィの指示に従って、アルミカンで作り出した携帯用ボックスに日記を収納している。

 とはいえ、内情はお目当てがここまで何もなく、ここでの作業を早く終わらせて次へと行きたかった。

 だが、ヴィヴィは追加の指示を出す。

「それとこの部屋以外で壊れている機材関係は外にいるエンジニアの方へ運んでおきなさい」

 レモアは当然、その言葉を聞いて顔に出す。それはヴィヴィとて同じ気持ちだけに、フォローを入れる。

「それが終わったら、好きにしたらいいから」

 それを聞いて、レモアの顔は緩やかに変化していった。


 PART 5 そのささやきに祈りを

 マイヤーはヴィヴィと再び、低温の部屋とやってきた。

「これは飲み物かな」

 金属製の缶に入った飲料物が紙製の箱に入れられている。

 ただ、少女達の知る世界からすれば、これ自体すごい代物である。何せ、金属製の入れ物に小分けされた飲み物を、さらには紙で作られた箱に入れられているのだ。

 そう、資源が少なく、自然由来の製品を潤沢に使われていることはあり得ないここだから。

 たとえ、金属製の入れ物であっても、使い捨てなどあり得ない。また、紙製で箱など耐久性がなく、短期間の消耗品でしかない。

 これは少女達の価値観では無駄使いである。

「こうしてみると地上で生きていた時代はどんな暮らしをしていたのだろうね」

 ヴィヴィはここにある品を見ながら、そう語る。低温の部屋自体は基地にも小規模ながらあるから、それ自体は不思議に思わない。だが、この規模と保管されている物の内容には驚きを隠せない。

「飲料物は結構残っていますね。参考に持って帰りますか」

 食料でないため、あまり手を付けられることが、こうして残る結果になったのだろう。

「あ、これはコーヒーだ」

 ヴィヴィは紙製の箱に書かれた旧世代の文字を翻訳して、内容物を確認する。

「それはいらないですね」

「苦いというか苦痛だからね」

 今でも擬似的なコーヒーは存在し、一部では飲まれている。当然使われるのはコーヒー豆ではない、代用品をばいせんしたモノ。だが、その味は色とあいまって炭とまで形容される。

 特に甘い物を好む、少女達には苦いという言葉だけでは足りない。

「こっちは炭酸飲料……」

 こちらは旧世代ではありきたりな飲み物であるが、今では知る人ぞ知る飲み物。

 また、一説にはアルミカンの名前の由来は『錬金術師による缶入り保存炭酸飲料水』とも言われている。

 だが、炭酸飲料の容器は何も知らずに低温で保管されたため破裂しており、中身は吹き出て、凍っている。

「これは何が起こったのかしら」

 ヴィヴィは不思議な現象に頭を悩ませる。コーヒーの方では起きていない現象だからだ。

「恐らく、中身が低温で凍ったことで破裂したのでしょう。炭酸水は気体と液体の飲み物ですから、状態変化の違いが缶内部から力を与えたのでしょう」

「そう聞くと本当に錬金術師の飲み物ね」

 昔はありふれたことであっても、今ではすべてが知らない世界の話。逆にこの時代に生きていた住人には今は望んでいた時代ではないことは間違いない。

「それで持ち帰りますか」

 味に関しては興味はあるが、長時間過ぎたことで期待できない面もある。

「中身もだけど、保管している容器も素材としても使えるわね。いくつか、飲料物と保存食は持ち帰りましょう。お土産にはちょうどいいわ」

 ヴィヴィは少しぐらいの持ち帰りは邪魔にならない判断した。それにゴミすらアルミカンで利用できる時代で、資源も少ないとくれば、ゴミすら価値がある。

 むしろ、今の時代にはゴミという存在はない。

「あと、主の方を」

 マイヤーは無言でうなずくと、この倉庫の主だった者の方へと歩き始める。

「彼がここの主だったと」

 ヴィヴィは主を目の前にして、手を合わせる。それは敬意としての仕草だ。

「ご先祖様とはいえ、これも価値があるわ」

「えー、薬にでもするのですか」

 古来ではミイラは薬として扱われたこともある。その際にできた言葉すらあるほどに人はミイラを求め、探索をしたという。

「しないわよ。とはいえ、その方が幸せかもね。この状態なら、せいは可能だから」

「確かに、それはありますね」

 ファミネイは人工生命体である。

 その製造ノウハウは人類の医療にも相互に応用されて、使われている。

 遺伝子さえあれば再生は可能で、ミイラ化ならそのままで蘇生することもできる。記憶だけはいささか無理であるが、コアなどの外部媒体で記憶されていれば完全な復活も容易なこと。

 この死体にはコアは身につけられていないし、そういった外付け記憶デバイスもない。

 あったのは紙で書かれた日記とツールとしてのデバイス。

 デバイスにそういった情報があれば、既にマイヤーが掌握しているし、隠された部分が旧世代のフォーマットである以上、記憶のバックアップはないだろう。

 後は日記や体に染みついた記憶を読み解けば、それを元に擬似的に本人と思わしき人格や記憶も作ることもできる。

 だが、そこまでしてこの人物は蘇生を望んでいるのだろうか。地下に潜ることをよしとせず、地上で生き続けた人物が、この時代で何を望むのだろうか。

「ひとまず、このままにしましょう。後は都市なり基地の判断に任せましょう。幸いここなら、保管に適してはいるし」

 この低温の空間なら、変化は少ない。

 もし、人類が滅亡してもコアが稼働している限りは、ここの主として居続けることになるだろう。

「恐らく、これほどの宝の山はもう一度、ここへは誰かが来ることになるでしょうね」

 ヴィヴィはそう言う様に、ここで持ち帰った情報は都市にとって大きな反響を与えた。

 そして、調査団の派遣はすぐさま決定した、実行まではバカピックの動向を見てということですぐに行くことはなかった。

「……まったく、とんだ発見ばかりだ。まだ、バカピックと相手していた方が楽だわ」

 その愚痴は幸い実現することはなかった。もっとも、遠足の最中に襲われても仕方がないのだが。

「ともかく、外の観測、通信機器の設置が終わっていれば、後は自由時間よ。そうでないと、やっていられないわ」

 ヴィヴィは投げやりにそう語った。


 PART 6 遠足の終わりに

 宝探しと平行された素材集めも完了して、観測、通信機器は倉庫への接続まで無事に完了した。

 また、倉庫のシステムもそれに合わせて、現在のモノへと変更されている。結局、既存のシステムには戻ることはなかった。

 これでバカピックの侵攻がなければ、また同じくらいこの場所は維持されるだろう。

 そして、ここの主も変わらず、今はまだこの場所から離れることはなかった。

 だが、それも知られた以上はどうなるかは少女達のはんちゅうではない。

 それは楽しくないこと。関わりないこと、いや、関われないこと。知りたくないこと、でも、知れないこと。それが少女達の立場なのだ。

 今回の発見は少女達よりも基地、むしろ都市にとっては大いに実りあるモノだった。そして、さらなる実りのために行動に移された。

 その結果を少女達が知るのは、いつになることやら。

 さて、レモア達も他のメンバーから改めて、穴場を教えてもらい探索、カレンらもまた一緒に同行していた。

 部隊の面々も思い思いの成果を得たのか、満足した顔であった。

 ヴィヴィにしても、空きビン以外にも成果をあったことで、今回の遠足での苦労にいくらか報われていた。

 その成果といえば、人類から見ればあまり価値がないものばかりだが、少女達にはとても興味深く、素敵なモノでいっぱいだった。

 ぬいぐるみやロボットのおもちゃなどの玩具類。

 丸みがある綺麗な石に、色の付いたガラス片やプラスチック片など。

 鮮やかな柄の入った布、厚手の毛布など。またはキャラクターがプリントされた紙やかわいい小物入れなどなど。

 そして、保存食に関してはよく探した結果、甘味料で作られたスィーツ、また香辛料が入ったスープなどが発見された。

 まるで少女達を体現する品々である。

 各自が遠足における任務と目的が達成できたことで、少女達は帰路についていた。

 車の中は随時、揺れている。街同様、街を繋ぐ道路は崩壊して荒れ地となっているからだ。それでも道としての痕跡は残しているので、道しるべとしては役に立っているが、どうしても荒れ地である以上、車は常に揺れが付きまとう。

 その揺れの中でも少女達は獲得した宝物を見せ合っている。

 そんな中、カレンはユノールに肩に寄りかかる格好で、眠りについていた。そのことに気がついたルリカが注意しようとする。

「カレン、寝て……」

 だが、当の本人であるユノールは口元に人差し指を立てる。

「構わない」

 カレンを起こさないよう、小声でつぶやく。そう言われれば、ルリカもそれ以上何も言えない。

 その光景はまるで姉妹のようだ。実際、ユノールとカレンを見比べると、どこか容姿も似ている。

 ユノールにとってカレンは確かに妹分である。

 それは基地内のほとんどの者にとって同じことである。最近はカレンらにも取りあえず、妹分ができてはいるが、それでもユノールの場合は本来の意味が特に強い。

 次世代型とはいえ、カレンの元になっている遺伝的な情報はユノールである。

 ファミネイは人工生命体。生物のような生殖で、その個体を作り出すわけではない。

 むしろ、競走馬のように優れた情報を組み合わせて、その個性、個体を作り出す。人工生命体であるファミネイは機器の中で作られる。

 そして、ファミネイ自身に生殖機能はない。

 ユノールはいわば、姉のようで母親のような関係ではあるが、それは肉体的、遺伝的にもそうかといわれれば、そのどちらも違うといえる。

 そして、カレンの方はそこまでの背景を知らない。

 自身が生まれてくる前後に関わった人物の想いは本人が聞かない限り知ることのできないことだ。

 だから、カレンには隣にいる人物が単なる優しい先輩でしかない。それでも、寄り添って眠りについてしまうほどに信頼や安心があるのだが。

 まあ、気を張っていれば、居眠りもできないが。

 逆にユノールは自身の生きた証しともいえる存在が残せたことは何よりもうれしかった。どうであれ、こんな何げないことで幸せであった。そんな幸せは顔には出ていないが、付き合いの長いヴィヴィにはそんな気持ちなどお見通しではあった。

 少女達は少女達で楽しいことも、嬉しいことも、幸せなことも知っている。

 だから、少女達は楽しくあれるのだ。


 PART 7 ベース・キャンプ・アンド・ファイヤー

 昔の人はいいました、『家に帰るまでが遠足だ』と。

 そして、この遠足の最後は基地に帰るだけでなく、もう1つ存在する。基地上部でのキャンプファイヤーである。

 ただ、これは完全な遊びである。とはいえ、意味はある。

 街で探索した際、病原菌を持ち込んでいないか調査するための待ち時間である。なぜかその際にはキャンプファイヤーが始められ、伝統となった。

 でも、少女達には最後まで楽しい、遠足であった。

 


(初出掲載 2019年1月)

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