葬儀の後に……

飯塚ヒロアキ

第1話 金縛りと謎の唸り声


――――これは数十年前に起きた怖い話です。話の始まりは僕が高校二年生の頃。


 その当時、同じクラスに美人で、可愛くて、優しくて、元気一杯な女の子がいました。


 彼女はいつもみんなの人気者で、中心となって、クラスを賑やかしていました。


 そんな彼女の姿を僕は遠くから眺めているだけで僕とはまったく違う性格。


 女性と接したことがあまりなかった僕にとっては、彼女の存在は眩し過ぎる存在で、声なんてとてもじゃないけど、かけられなかった。


 そんなある時、突然、彼女は何を思ったのか、おもむろに僕の前に立ち、顔を覗き込んで来ると「君、イケメンだね」って言ってくれました。


 心臓がドキッとし、それがとてもうれしくして、心が温かくなった。その時、僕は、彼女のことが好きになりました。



 好きになったけど、自分から話しかけることができず、「好き」です、と伝えられないまま、もどかしい日々を送り、気がつけば、月日は経ってしまい、やがて高校三年生となり、彼女は別の進学コースを選んだため、別のクラスとなり、それ以来、彼女の姿を見る機会が少なくなってしまいました。


 それでも僕は彼女のことがずっと好きで、片思いを続けていました。


 そして、僕は知ってしまいました。噂で、彼女に彼氏ができたことが。


 僕はショックで落ち込み、失意のどん底に陥り、もう二度と立ち直れないかもしれないと思ったほどです。


 恨むとか、妬むとか、そういう感情はなく、心の中で、「二人がどうか幸せになりますように」と悔し涙を流しながらつぶやいたことを今でも覚えています。


 そんなある日のこと。突然、悲劇は起こりました。誰もが予測していなかった最悪の事態が。


 学校にいつものように登校したとき、教室が騒がしくなっていました。どうしたのかな、と思い、友達に話を聞くと――――


 彼女は彼氏と共に深夜にバイクでドライブをしていたところ、事故を起こし、亡くなったそうです。


 二人とも即死でした。


 数日後、彼女の葬儀が行うことになりました。学校がバスを出し任意で参加する形になり、僕も参加することにしました。


 バスに乗って葬儀場に向かって、彼女の遺影を見たとき、僕は愕然としてしまいました。本当に死んでしまったんだな、って。顔はあまりにも悲し過ぎたので、見れませんでした。ただ涙だけが頬を流れるだけ。


 それからです。


 僕が怖い体験をしたのは――――


 葬儀は終わり、火葬場へ向かい、火葬室に入っていく彼女を見つめていました。


 その時、背後から悪寒がして、振り返ると火葬場の部屋の壁の隅、電気の影となっている場所がやけに黒く、よどんでいました。それが人の形に見えて、誰かいるような感じでした。怖くなり、慌てて、目をそむけましたが、なぜか気になってしまい、再び、視線をその場所に向けるとその黒い影のようなものは、スゥーッと消えていきました。


 何だったんだろうか? と思っていると後ろにいた友人がもう出ようと言われ、僕は出ることにしました。それから葬儀は終わり、帰りのバスの中、火葬場で見た謎の黒い影が気になっていましたが、ただの気のせいかな、と思うことにしました。




 ♦♦♦




 家に帰るとなぜか、右肩がとても重たく、まるで何かが乗っているような感じがしました。きっと疲れているのだろうと思い、そのままお風呂に入って、二階にある自分の部屋で寝ることにしました。


 疲れていたので、すぐに眠ることができたのですが、恐怖の体験はそれだけではありませんでした。


 突然、暗闇の部屋の中で、目が覚めました。


 真っ暗な部屋の中、はっきりとした意識、身体中が重たく感じ、変な感覚がしたため、起き上がろうとすると身体が全然動きませんでした。


 それなのに目だけ動く状態で、これが噂で聞く、『金縛り』だとわかりました。


 部屋の空気がやけに重たくなっていき、息も苦しくなっていった時、天井付近、部屋の隅あたりに大きな影が浮かび上がりはじめ、ドロドロとした塊が溢れだし


「アアアアアアァ―――!!! アァアアアアア―――――ッ!!!!アァアアアアアアアアアアアアア―――――ッ!!!!」


っと女性のうなり声のような痛みに堪える悲鳴がしてきたのです。それから今度は男の声と女の声を混ぜたような唸り声がし、複数の何かがいると感じがして、全身にゾワァっと悪寒が走りました。


 テレビでよくみる光景が非現実的な出来事だと思っていたことが、今、自分の目の前で起きているのです。


 全身に汗をかき、心臓が悲鳴を上げました。そこから逃げ出そうにも動けず、もがいていると階段を何かがゆっくりと、確実に上がって来る音がし、自分の部屋に徐々に近づいて来るのがわかりました。


 ギシィ、ギシィ、ギシィ――――


 木が軋む音が大きくなり、本当に何かがやってきたんだ、人間じゃない何かが、と考えた僕は、隣の部屋で寝ている母親に助けを求めようと必死に声をあげようとしました。


 でも、恐怖のせいで喉の奥が乾いて、思うように言葉が出ず、助けを呼ぶこともできませんでした。


 そして、その影は徐々に大きくなり、こちらに迫ってくるのが見えました。


 そこでようやく僕は気づいたのです。その影は人間だと。必死に身体を動かそうとしても、無理で部屋の扉の前にまで足音が聞こえた時、不思議な現象が起きました。


 木魚を叩く音、それから……


「般若波羅蜜多……―――」


 突然、お経が聞こえ始めたのです。それはちょうど、自分の部屋の真下からでした。


 それは数年前に病気で亡くなった父親の仏壇がある場所で、そこからお坊さんが唱えるお経が聞こえてきたのです。父親とは違う別の男の人の声でした。


 当然、うちの家には自分以外には男はいません。ましてや、近くにお寺もありません。


 お経は徐々に大きくなり、次第に部屋の中に響き渡るようになりました。


 そこから僕の上にかかっていた重さがスゥーっとなくなって、同時に、金縛りも解けました。


 慌てて飛び起きて、部屋の隅を見てもいつもの豆電球の灯りの暗さでした。


 それからどうしたのか、覚えていませんが、次の日の朝、その体験談を祖母に話したとき、「あぁーやっぱり、ついてきていたのね」と一言つぶやき、僕の両肩を叩き、おまじないをしてくれました。祖母に軽いお祓いをしてもらい、それから僕は父が助けれくれたのだと思い、「助けてくれてありがとう」と仏壇に手を合わせました。


――――完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

葬儀の後に…… 飯塚ヒロアキ @iiduka21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ