第75話 ギルド証
「ちょっと待って!?」
「はい?」
足元に置いた兎を担ぎなおそうとしたところで待ったがかかる。
「その、お嬢ちゃんはテイマーかしら?」
スノウたちに恐る恐る視線を向けつつも、職員が確認してくる。ギルドには他にもテイマーがいるようで、従魔もちらほらと見える。すごくスノウたちを凝視してるんだけどなんとなく腰が引けているように見える。
「はい、そうですよ」
ギルド証を取り出すと職員に見えるように掲げる。そこにはもちろんランク2の文字が燦然と輝いている。
「……アイリスちゃんっていうのね。見せてくれてありがとう」
「あ、はい」
「買取が終わったらまたここに来てもらっていいかな?」
「わかりました」
ギルド証を仕舞いながら返事をする。なんだかよくわからないけど、とりあえず買い取ってはくれるみたいだ。改めて兎を担ぎなおして奥のカウンターに向かうと、列は少なくなっていた。
自分の番になったのでひとまず兎を地面に下ろす。こっちのカウンターは低くて私の胸の高さくらいだけど、重い兎を持ち上げて乗せられそうになかった。
「これも上に乗せてくれる?」
スノウに頼んでみれば、鹿を置いた後に兎も咥えてカウンターの上に乗せてくれた。
「ありがと」
お礼を言って首をもふもふと撫でてあげる。トールも鹿を乗せ終わったので首をもふもふしてあげた。
「これの買取お願いします」
「お、おう」
私が声をかけるまで引きつった顔をしながら見ていた職員がようやく反応してくれた。カウンターの上に乗せた獲物を検分すると、何かを記載して木札を一枚渡してくれる。
「明日の昼には査定結果が出るからまた来てくれるか。あと、自分たちで確保しておきたい肉の部位や素材があれば言ってくれ」
へぇ、そんなことができるんだ。んー、でも特に欲しいところとかはないかな? お肉ならまだ鞄の中に入ってるやつがあるし……。
「大丈夫です。全部売ります」
「そうか。わかった」
木札を鞄にしまうと、職員が私の後ろに並んでいる人物に声をかける。どうやらギルドでのやり取りはこれで終わりみたいだ。となればここに長居は無用だ。お腹すいたし早く帰ってご飯にしたいんだけど、そういえばカウンターにもう一回寄らないといけないんだっけ。
お腹をさすりながら女性職員のいたカウンターへと戻ってくると、背伸びをしてカウンターから目だけを出して見上げる。
「あ、戻ってきてくれたわね」
ホッとした様子で言われたけど無視なんてしませんよ?
「アイリスちゃんって言ったかしらね」
「はい」
「えーっと、狩りにはあなた一人で行ったのかしら? 保護者の方はいるの?」
心配そうに尋ねてくる女性職員の眉が、話しながらもだんだんと中央に寄せられていく。
「あたしとこの子たちで行きました。親はいないです」
「そう……」
伏し目がちにそう言葉にすると、顎に手を当てて何か考えこんでいる。
こちらとしては親がいないからこそ自分で稼がないと生活ができないのだ。スノウたちもいるし、狩りをするのが一番簡単だと思っているけど、それは他にお金の稼ぎ方を知らないだけかもしれない。
「わかったわ」
何かを真剣に考えた後、そう言って女性職員がカウンターの下から用紙とペンを取り出した。
「名前はアイリスちゃんでよかったかしら」
「はい」
「今いくつなの?」
「……四歳ですけど」
四歳児という実感はないけど、ステータス上そうなっているので間違いはないはず。
「そ、そうなんだ。……従魔は他にはいないわよね?」
「はい。スノウとトールだけです」
なんだかいろいろと質問が来るけど順番に答えていく。そのたびにペンが動いて用紙に書き込まれているようだけど何をしてるんだろうか。
「ありがとう。ちょっと待っててくれるかな」
そこまで質問は多くなかったみたいですぐに終わったけど、職員はそう言って返事も聞かずにどこかへ行ってしまった。
お腹すいたから早く帰りたかったんだけど、これは待ってないとダメなパターンだよね……。
「お待たせ」
しばらくすると返ってきた職員にカードを渡される。金属製の薄いカードで、そこには狩猟ギルドのマークに私の名前とランク2という記載があった。
「え? これって……」
「狩猟ギルド証よ。査定結果はまだでしょうけど、あれだけ立派な獲物を狩れるんですもの。これからも狩りは続けるんでしょう?」
「あ、はい」
もちろんやめるつもりはないけど、なんでこの人はギルド証なんて作ってくれたんだろうな?
「だったらちょっとでもギルドの恩恵を受けられるほうがいいわよね。一部の手数料が割り引かれたりするし、大事な連絡なんかもいきやすくなるわ」
「そうなんですね」
それならギルド証はあったほうがお得なのかな。だからと言って本人の同意なく勝手にカードを作るのはどうかと思うけど、疑いもせずにホイホイ質問に答えた私もダメだったかもしれない。
『馬鹿だな』
予想通りにツッコミがきたぞ。反応してやる義理はないけどね。
「いやいや! ギルド証与えるとか本気か!? まだガキじゃねぇか!?」
そこに割って入る見知らぬ人物が、カウンターに両手を叩きつけて女性職員に食って掛かってきた。
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