第74話 狩猟ギルド
キースにとんでもない話を聞かされた私は、日が傾いてくるまでみっちりと体を動かした。短剣を両手に持って、精霊たちに作ってもらった土や植物の的に向かってしっかりと訓練したつもりだ。自己流なので何とも言えないところはあるけど、体を動かすという意味では無駄にはなっていないだろう。
「もうこんな時間か……」
傾きかけた太陽を見上げると思わず言葉が漏れる。スノウたちはすでに戻ってきており、近くには狩った獲物が数体積み上げられている。血抜きも済んでおり、以前クレイブが言っていた通り冷やしてある。
森で生活をし始めたときは、移動に不慣れな私はお留守番してることが多かった。というか最初のころは全然体力もなかったし、なんとなくそのころを思い出した。
「そろそろ帰ろうか」
振り返って告げるとスノウたちが立ち上がるが、獲物と私に交互に視線を向けている。
「うーん……。どうやって持って帰ろうか」
両腕を組んで持って帰る方法を考えてみる。
鞄には入り口の大きさを超えるものは入らない。つまり適当な大きさに切ってしまえば持って帰れるようにはなるけど、鞄のサイズを超える分は売ることができなくなる。そんなことをしてしまえば時空の鞄の存在がばれてしまう。
獲物の内訳は大きい鹿が三体に、これまた大きい兎が一体だ。
兎なら私より一回り小さいくらいなので、なんとか担いで持って帰れそうな気がする。スノウとトールで一体ずつ持ったとしても、もう一体はどうしようもない。
……しょうがない。一体だけは解体して鞄に詰めようか。
「持って帰れそう?」
兎を試しに担ぎながらそう聞いてみると、スノウとトールがそれぞれ一体ずつ口にくわえて持ち上げる。
「いけそうだね」
獲物の足が地面を引きずってるけど、それくらいなら問題ない。
「じゃあもう一体は解体しちゃうね」
鞄からナイフを取り出して鹿の解体作業に取り掛かる。スノウが狩ってきた獲物は、森で生活していた時も解体したことはある。だけど解体方法を詳しく知っているわけでもない。キースにはあれこれ教えてもらったけど、口頭だけじゃわからないことも多かった。
「でもなんかスムーズにできてる気がするぞ……」
『料理スキルが上がったからじゃないか?』
疑問に思っているとすぐそばから答えが返ってきた。
「えっ? 料理スキルって、解体にも効果があるの?」
『ああ。それは実証されている事実だ』
「そうなんだ」
前に料理スキル上がったのっていつだったかな。街の外で昼寝して怒られた日だっけか。あの時は純粋に料理しかしてなくて、それ以降に獲物を解体するのは今日が初めてだ。まぁ得したとでも思っておこう。
「ふぅ」
ようやく鞄に入るサイズに解体ができた。後片付けもして、空き地を作った草原もかえでに頼んで草を生やしてできるだけ元に戻した。
「じゃあ帰ろっか」
改めて兎を担ぐと街道を目指して歩いていく。スノウとトールも鹿を咥えると、後をついてきた。
街に着くころには空が赤く染まり始めていた。門の前には街に入る人が数人並んでいて、私たちもその最後尾につく。前に並んでいる人に驚かれるけど、並ばないと入れないのであきらめてください。
「すごいねキミ……。それって、従魔たちが獲ってきた獲物かい?」
「はい、そうです」
おっとりした門番に尋ねられて答えるけど、じろじろ眺めてるくらいなら正直早く通してほしい。背負ってる兎がけっこう重いのだ。
「ところで、ここから近場で獲物を買い取ってくれるところってありますか?」
興味深く観察するだけで話が進まないので、近場の買取場所を聞いてみる。探索者ギルドまで持っていけば買い取ってくれそうなのはわかっているけど、街の中心を通り過ぎて西側にあるのでちょっと遠いのだ。
「それなら狩猟ギルドが近くにあるよ」
「そうなんですね」
「街に入ってすぐの広場から、大通りの南側の道に入ったところにあるよ」
「ありがとうございます。これから行ってみます」
「うん。そろそろ暗くなってくるし、気を付けてね」
門番に見送られて街の中へと入ると、言われたとおりに南側の道へと入っていく。ちょっと歩けばすぐに目的の建物が目に付いた。鳥の首に弓がかかっているマークの看板がかかっている、探索者ギルドよりは小さいが周囲よりも大きい建物だ。開け放たれたままの扉をくぐれば、獲物を抱えた人たちが奥のカウンターに並んでいるのが見えた。
ざわつくギルド内だけど、手前のカウンターは空いていたのでそちらに向かう。目指す女性職員さんが身構えるけど、そんなに警戒しなくてもいいのに。
カウンターの前に立つと職員さんの顔が見えなかったので、獲物を床に置いてカウンターに手をついて背伸びをするとようやく見えた。
「……あの、狩猟ギルドには入っていないんですけど、買取ってしてもらえますか?」
「え? あ、はい、大丈夫ですよ」
どうやら買取はしてくれるらしい。よかったよかった。街の東なら出られそうだし、お金を稼ぐことはできそうだ。私を雇いたい人がいるらしいことはクレイブから聞いたけどいつになるかわからないし、近々会うって言ってた近々っていつなんだろうか。
「よかった、ありがとうございます。あっちに並べばいいですか?」
奥のカウンターを指さすと女性職員もそちらに視線を向ける。
「あー、えーっと、うん、……って、ちょ、ちょっと待って!?」
なんとなく肯定する言葉が聞こえたのでそちらに向かおうとしたけど、なぜか引き止められてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます