第51話 閑話 依頼者への報告
ところ変わってここはアンファンの街のアンファンという宿の食堂である。
俺たちフォレストテイルのパーティメンバーは、今日の動きについて話し合っていた。
「じゃあ今日は依頼主に報告に行くということで」
「「「異議なし」」」
パーティメンバー全員から賛同も得られたところで、俺たちは依頼主のところへと報告に向かうことにした。
場所はアンファンの街の中央やや北よりの位置にある、この街を治める代官が住む屋敷だ。レイセル王国の西端に位置するこの街は、ラインダルト・ヘンギュラー辺境伯が治める土地でもある。その辺境伯に任命された代官となる。
屋敷の門番に来訪を告げると、奥へと案内される。さすがに街の代官が住まう屋敷だけあって、この街で一番貫禄がある。昨日のうちに連絡をしていたが、さすがに忙しいだけあってか面会が今日になったのだ。
「よく来てくれた」
「忙しいところすみません」
代官を務めるコヴィル・ステイナーが柔和な顔で俺たち四人を迎え入れる。勧められるままに席に着くと、メイドが順にお茶を淹れていく。
「はは、辺境伯お抱えの探索者の行方がわかったというのだ。無理にでも予定を空けるさ」
そう笑いをこぼすとお茶に口を付ける。カップをテーブルへと戻して一息ついたところで、ポケットからダレスの探索者ギルドタグを取り出した。
それを目にすると、表情に陰りが現れてくる。
「そうか……、やはりダレスは……」
「はい。終焉の森で死亡が確認されたとのことです」
「さすがに半年近く行方不明だったのだ。私も辺境伯もほぼ諦めてはいたが……。こうして事実を突きつけられるとな……」
ダレス・ネイワードは主に終焉の森の調査・探索を仕事としていた。辺境伯のお抱え探索者ではあるが、終焉の森に一番近いこの街を拠点にしていたし、俺たちや代官とも面識はあったのだ。
「それで、ダレスを発見したというのは?」
「それなんですがね……」
頬をぽりぽりと掻くと、思わず苦笑が衝いて出る。
「無理かもしれませんが、驚かないでくださいね」
「なんだね、やけにもったいぶるじゃないか」
残念なお知らせの後に、それを笑い飛ばせるような出来事なのかと期待するように代官もニヤリと口を歪める。
「それが……、四歳のガキなんですよ」
「……は?」
ニヤリとしていた代官の表情が抜け落ちる。
「うふふ、アイリスちゃんって言うんですけどね、とってもかわいかったですよ」
マリンが補足してくれるが、あまり追加情報として足しにはなっていない。名前くらいじゃないかな。
「四歳の子ども……? なぜ終焉の森などに……」
「さぁ……。本人は無能だから捨てられたって言ってましたが」
「なんと。ひどいことをする親もいたもんだな」
憤慨する代官ではあったが、俺たちとしてはそれが本当の話かどうか疑わしいとも思っている。
「ただ本人と接してるとですね、とても無能には見えないんですよ」
「そうなんですよ。四歳で文字の読み書きはできるし、計算もできるし」
「ああ。話をしても受け応えもしっかりしている。終焉の森の魔物までテイムしてるんだ。俺たちのパーティに今すぐにでも誘いたいくらいだ」
「そこまでなのか?」
「それだけじゃありません」
アイリスのありえない優秀さを語っていると、今まで黙っていたティリィが真剣な表情で間に入ってきた。
「どうした?」
「たぶんですけど……、アイリスちゃんは精霊にとても好かれています」
「なんだって?」
ティリィの情報に、代官が目を見開いて念を押すように問い返してくる。
精霊といえば、この国で唯一使えるという、元筆頭宮廷魔術師の精霊魔術が有名である。引退して元とついてはいるが、精霊魔術の珍しさと有能さで、まだ国の高い地位にあると噂されているが……。
「そういえばティリィは精霊の存在をなんとなく感じられるんだったか?」
「はい。初めてアイリスちゃんを見たときは、その存在感が信じられませんでした。その、アイリスちゃんの周囲に漂う気配というか……、うまく表現できないんですけど」
懸命に伝えるティリィの様子に、アイリスが尋常でない様子が伝わってくる。
「ただ、アイリスちゃんが目覚めたときに周囲の精霊の気配が希薄……、というか普通に近い状態まで戻ったんです。なんでそうなったかまではわかりませんが……。だから本人には精霊はまだ認識できていないんじゃないかと思うんですけど」
「なるほど」
「しかしそうなると……」
代官と目を合わせると頷き合う。
「もし精霊が見えるようになって、かつ精霊魔術が使えるようになれば、さらに将来化ける可能性があるということだな?」
「はい」
アイリスの異常さがきちんと伝わったことに安堵するティリィだが、それを理解した代官はしばし考え込む。
「つまり今のうちに接触しておいて損はないというわけだ」
「まぁ、取り込むのであれば早い方がいいでしょうね。……ただ」
「ただ、なんだね?」
「一つ懸念があるとすれば、アイリスちゃんの出自が不明なことでしょうか。本人は出身地もわからず、親はいないと言っていましたが」
「孤児というわけだな」
「はい」
「それくらいであれば些細なことだ。どうとでもなるだろうし問題はないだろう」
ひとつ頷くと、お茶に手を伸ばして唇を潤す。
俺たちもようやくお茶へと手を伸ばすが、少し冷めていた。
「となればだ。ぜひそのアイリスという子どもに会ってみたいものだな」
「わかりました」
「……そうだな。長らく行方不明だった専属探索者を見つけたお礼がしたい、と言っておいてもらえないか?」
「承知しました」
「うむ」
「ではそのように」
こうしてアイリスのいないところでひとつの面会予定が決まるのだった。
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