第50話 アンファンの街二日目

 昨日はあれから昼寝をしていると、部屋をノックする音で起こされた。訪ねてきたのはフォレストテイルの四人だが、一緒に夕飯を食べようと誘いに来たらしい。もちろん断る理由もなかったし、また夕飯を奢ってくれるというのでご相伴にあずかった。


「お前……、男じゃなかったっけ?」


 ワンピースを着ていた私にクレイブが首を傾げていたけど、「そうですよ?」と首を傾げ返しておいた。


 日も沈んだ後、自分の部屋へと戻ってくると真っ暗だった。光の下位精霊であるひかるにお願いして明かりを灯してもらう。ちっちゃいくせにとても明るいので優秀なのだ。


「そういえばキースはさ、これにどんな効果があるかわかる?」


 お昼寝をしたせいで聞きそびれたことをここで聞いてみる。鞄から取り出したのは遺品である短剣と小盾だ。秘宝具アーティファクトだとは聞いたけど、どんな効果があるのか何も聞いていない。


『ほぅ、見てやろうじゃないか』


 偉そうにキースはそう言うと、いつもの光を照射して調べてくれる。


『ふむ……、これは……』


「何かわかった?」


『ありふれた装備だな。装備者の素早さが上がる短剣と、魔力が上がる短剣か。こっちの盾は体力が上がるようだな』


「へぇ」


 キースに比べれば単純な効果だけど、それでも装備するだけで基礎能力が向上するのは他にはない効果だよね。

 素早さの上がると言われた短剣を手に取ってみる。全体的に青い装飾を施された鞘は、見た目だけでも高級品を思わせる。


 鞘から引き抜くと、銀色の刃がその姿を現した。柄は十センチほどで刃渡りは二十センチくらいになるだろうか。両手で握り込んで正眼に構える。私が手に取れば短剣というよりショートソードくらいの感じだ。


『そういえばしばらく剣の訓練をさぼってるんじゃないか?』


「……そうなんだよね。訓練用の木の棒は鞄に仕舞ってあるけど、せっかくだからこれでやろうかな」


 木の棒はホントに木の棒で、剣の形すらしていないのであんまり剣術として身になってないかもしれない。それにしても、素早さ上がったかな?

 両手で握り込んだ短剣を上段に構えて振り下ろしてみる。サイズといい重さといい、ちょうどいいかもしれない。素早さが上がったかどうかはいまいち実感できなかった。


「あ、そうだ」


 もう一つ思い出したことをキースに聞いてみる。


「ロックがかかった時空の鞄って、ナイフで斬ったりして穴開けたらどうなるの?」


 ダレスの持ち物だった時空の鞄をテーブルに乗せると、あっちこっちひっくり返して観察してみる。


『うん? 時空の鞄は壊せば中身が溢れてくるぞ。小容量とはいえ二百立方メートルあるようだし、満タン入っているとすればこの部屋からも物があふれるんじゃないか』


「へぇ……」


 二百立方メートルねぇ。私が普段背負ってる鞄が千立方メートルだったっけ。ということは五分の一か……。といっても元の単位がよくわかってないからやっぱりわからないな。どちらにしろ明日は街の外に出て開けてみようかな。




 翌朝起きて部屋を出ると庭に出て顔を洗う。


「あら、かわいいお客さんだこと。おはよう」


 タオルで顔をぬぐっていると、新たに庭へとやってきた人物に声を掛けられた。


「おはようございます」


 尖った耳が特徴の、淡い緑色の髪を腰まで伸ばした美人さんだ。思わず見惚れているとにこりと笑みが返ってきた。慌てて目を逸らして食堂に顔を出すと、スノウが待ちくたびれている。人がまばらな食堂で朝食を摂ると、部屋に戻って出かける準備をする。


『今日は街の外へ行くのか?』


「うん。そのつもり。やっぱり鞄の中気になるしね」


 そうキースに返していつもの鞄を背負うと、部屋を出て扉に鍵を掛ける。


「あら、アイリスちゃん、出かけるの?」


「はい。ちょっと外まで」


 スノウと共に宿の玄関に行けば、女将さんがカウンターの内側に座っていた。


「うふふ、いってらっしゃい。気を付けてね。あまり遠くまで行っちゃダメよ」


「わかりました」


 完全に子ども扱いされてるような気がするけど、甘んじて受け入れることにする。

 宿を出ると街の西門へと向かって歩いて行く。宿から近い街の外といえば、終焉の森がある西方面だ。他にも外に出る門はあるかもしれないけど、そっちはまた今度探検しよう。


「あん? 何しに来たんだ嬢ちゃん」


 近づいてくる私に気が付いた門番が、眉を顰めて話しかけてきた。

 見たところ昨日見た門番とは違う人っぽい。一緒に付いてきたスノウを見て顰めていた目が大きく開いている。


「外に出たいんだけど、どうすればいいですか?」


「……は? あ、ああ、えーと」


 しばらく呆けていたけど視線を私に戻してあたりをキョロキョロしている。


「親御さんはいるのか?」


「え……、いませんけど」


 もしかして保護者と一緒じゃないと外に出られないの? それはそれで困るんだけど……。


「ええ? うーん……」


 どうにか外に出してもらえるように考えるけど、私が小さいからダメなのか。立派なスノウという護衛がいるんだけどなぁ。親はいないけどテイマーギルドにだってちゃんと登録してるし。


「あ、テイマーギルドに登録してますよ。ほら、ランクも2なんです」


 もしかしてスノウは親に付けられた護衛と思われてるのかと思って、ギルドで登録した時にもらったプレートを掲げて見せる。


「うお、本当だ……。ランクも2で間違いないが……、じゃあこの虎は嬢ちゃんが?」


 改めてスノウを上から下まで眺める門番の人。


「うーん、しかしなぁ……」


「外で思いっきり運動もさせてあげないといけないので」


 なおも折れない門番に、これでもかとそれっぽい理由を付ける。


「あー、まぁ、うん。わかったよ」


 渋々ではあるが納得してくれたようだ。相変わらず顔は渋面をしたままだったが、ブツブツ文句を言いながらも門を開けてくれた。


「ありがとう!」


「……気を付けるんだぞ」


 こうして私とスノウは門の外に出ることに成功した。

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