第13話 スキルを取得しよう

「そういえばとうてき術のスキルを取得したんだっけか」


 あれからスノウにも手伝ってもらって布を引き上げた後、シュネーに木の枝に引っ掛けて干してもらった。驚くことに私の喋る言葉がそこそこ理解できるみたいなのだ。

 タオル程度のサイズの布で体を拭いた後、鞄から新しい布を取り出して体に巻き付けている。


 改めてステータスを確認してみる。


 =====

 ステータス:

  名前:アイリス

  種族:人族

  年齢:3

  性別:男

  状態:栄養失調

  レベル:2

  HP:26/26

  SP:65/65

  MP:65/65


 物理スキル:

  剣術(2) 短剣術(1) 投擲術(1)

 =====


 ちょっとだけHPが増えた気がする。栄養失調の状態が少しでも改善されたからだろうか。スキルを新たに取得して順調にSPも増えている。

 それにしても。


「……スキルってあんなにすぐ取得できるものなのか?」


 ふと疑問に思ったことをキースに聞いてみる。

 短剣術のときも投擲術のときも、五分かそこらの時間それらしい動きをしただけだ。


『個体がある程度のスキル因子を持って生まれれば、初めからレベル1のスキルを持っていることもある』


 キースのその言葉だけでピンときた。


「あぁ、つまり因子だけ注入されたあたしは、スキルだけ・・未取得のじょうたいだったと」


『そういうことだな。本人にスキルを取得するきっかけがあれば、忌々しいことに神の声が反応するだろう。逆を言えば大抵のスキルに関係ある行動をとれば、スキルのレベル1はすぐに取得が可能という状態になっているはずだ』


「おぉ……」


 しかしこの、神の声を敵対視する姿勢はなんなんだろうな。古代文明時代の思想はよくわからない。

 とはいえキースの言葉を聞いて、ワクワクする自分に気が付いた。

 あれほどがんばっていろいろな訓練をしてきたが、まったくスキルを取得できなかった私がだ。今はすぐ取得できる状態にあるという。これが期待せずにいられるだろうか。


「ということは」


 近くに落ちていた二メートルくらいの木の棒を拾うと両手に持って構える。槍に見立てて突きや払いをしばらく繰り返していると。


<槍術スキルを取得しました>


「きたっ!」


 ステータスを確認すると、確かに槍術スキルが増えている。

 それと――


「スキルを取得したらSPも10増えたんだけど、やっぱり連動してるんだよね?」


『ああ、ステータス欄に追加されればSPの表示が10増えるようになっている』


「そうなの?」


 予想外のキースの回答に首を傾げる。「スキルは神の声によって付与されるものではない」って聞いた気がしたんだけどどういうことだろう。


『因子に起因する習熟度によってSPが増えることはきちんと確認されている。SPが増えるというのはあくまでステータス上の表示だけにすぎないのだ。その証拠にアイリスの場合は多数の因子が注入されているので、ステータス上のSP表示がゼロになっても武技アーツが使えるはずだ』


「へぇ、そうなんだ。まだ使える武技アーツがないから試せないけど……。まぁ覚えてから試してみるかな」


 SPの問題は武技アーツを覚えてから考えるとして、今度は鞄から小ぶりの斧を取り出して振り回してみる。


<斧術スキルを取得しました>


「おほほー-!」


『レベル1で何をそんなに喜んでいるんだ』


 キースから呆れた声が聞こえてくるが、私の気持ちがキースにはわからないのか。


『ある程度伸びる証拠というだけで、初心者と大して変わらんのだぞ』


「それくらいは知ってるよ。だけど才能があるってことだろう?」


 その道を職業とするには、最低限レベル3は必要と言われている。レベル4で上級者、5となれば達人と呼ばれる領域になるのだ。


『そう言いかえることもできなくはないな』


「あたしはずっと無才だとか無能ってかげで言われ続けてたんだ。だから、そうじゃなくなったことがすごく嬉しい」


『そういうものか』


 そういうものです。

 うーん、あとは何があったっけ? あ、格闘術とか?

 思い立てば即実行だ。手近な樹木の前に立つと、拳を構えて木に向かって打ち付ける。


<格闘術スキルを取得しました>


<双剣術スキルを取得しました>


<双短剣術スキルを取得しました>


「はぁ、はぁ……」


 ある程度続けてスキルを取得したところで体力の限界が訪れた。


『ふっ、調子に乗るからだ。ただまぁ、リハビリにはちょうどいいのかもしれないな』


 またキースに鼻で笑われた気がしたが、今の私にはまったく気にならない。

 息を荒くして仰向けに倒れているが、心地よい疲労感に包まれているのだ。スキルを覚えることがこんなに楽しいことだとは思わなかった。たとえ初心者と変わらなくとも、才能がある証明になるのだ。


「次は魔術だな」


『おいおい……』


 二度目のキースの呆れた声をスルーすると、目を閉じて意識を集中させる。ええと、確か体の中心にある魔力を感じ取るんだったっけか。MPが2しかなかった以前と比べて、何か温かいものがあるのがよくわかる。この魔力をゆっくりと動かして、全身へと循環させることが魔術を……、使うことが、できるようになる、大前提だった……、はず。


 とそこで、疲労の限界まで達していた私は寝落ちしてしまうのだった。キースの「やっぱりアホだ」という言葉が聞こえなかったのは不幸中の幸いだろうか。

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