第8話 サバイバル
もちろん名前のつけ直しは秒で却下された。
あの性格の悪いキースが許可を出すはずもない。
というかステータスを書き換えるとかなんなのだ。意味が分からない。さすが古代文明時代というべきなのか。
「それにしても……」
もう一度自分のステータスを確認してみる。
=====
ステータス:
名前:アイリス
種族:人族
年齢:3
性別:男
状態:栄養失調
レベル:2
HP:18/24
SP:55/55
MP:65/65
物理スキル:
剣術(2) 短剣術(1)
=====
レベル下がってるんだけど、幼児化したからしょうがないってことなんだろうか。にしてもまさか3歳になっているとは思わなかったな……。
生命力であるHPも減っているのは、今の栄養失調っていう状態が影響しているのかもしれない。MPとSPが増えてるのは純粋に嬉しくはある。
「ちなみにあたしはどんなスキル因子を、その、ちゅうにゅうされたの?」
『いろいろだな。我々が保持している因子をすべて注入している』
「へぇ……。ちなみにどんな?」
古代文明の遺跡が保持しているスキル因子が気になり、興味本位で聞いてみる。
『剣術をはじめ、短剣術、槍術、斧術、弓術、大剣術、双剣術、格闘術、杖術、棒術、投擲術、銃術、書術――』
「あー、ごめん、わかった、もういいや」
次々とキースから出てくるスキルの量に頭がいっぱいになってくる。中には聞いたこともないスキルが数多くあったので、もう私は把握することを放棄した。
「知らないスキルもあったんだけど、それも古代文明時代にはあった武器ってことなのかな」
『確かに、現代で失われているものもあるだろうことは否定しない』
「っていうか書じゅつってなんなんだ。本で敵をなぐったりするのか」
『その通りだが』
まさかとは思いつつも聞いてみたら素直に肯定された。馬鹿にした雰囲気が感じられたのでそれ以上はもう口にはしない。もしかしたら金属製のトゲの付いた本みたいなものがあったのかもしれない。
『それに因子にはスキルとして現れないものも多くある』
「え、なにそれ。聞いたこともないんだけど」
思わずキースを振り返るけど、よく考えれば当たり前のことだった。因子の存在を知らなければそもそもわかるはずもない。
『体力強化などの強化系の因子や、魔力操作といった感覚系の因子、あとは耐性系などもか』
「へぇ。なんかいろいろあるんだね」
『他人事か』
「実感ないしね」
こうして因子について話を聞きつつ、森の中の行軍を再開した。
「はぁ……、はぁ……、もうだめ……」
森の中に入って500メートルも進まないうちに私は音を上げていた。
『そんなところで力尽きたら魔物に食われるぞ、もやし男』
「うるさいな。もやしが何か、よくわからないけど、あたしを、けなしてると、いうことは、わかった」
『けなすとは心外な。ただ暗い部屋で育つ白くて細長い野菜に似ていると思っただけだ』
「十分けなしているじゃないか……」
もはや石を投げつける気力も湧いてこない。
とはいえ、森の中でぐったりしていても魔物に食われるだけだという意見には同意せざるを得ない。
なんとか移動を再開しようと立ち上がったが、ちょうどその時遠くの草が揺れて何かが近づいてくる気配がした。
「な、なに……?」
薄暗い森の中、誰も頼れる人がいないということに、これほど不安を覚えたこともない。近くにいる口の悪い何かは役に立つかどうかわからないし。
身構えているところに顔を出したのは虎だった。見まがうことなく、肉食の生き物である虎だった。
白い毛におおわれていて黒い縞模様が美しい。全体的に丸みを帯びていて子どもっぽくも見えるが、立っている自分の顔より少し高い位置に虎の顔がある。
『ふむ……』
硬直して何もできないでいると、後方からのんびりした声が聞こえてきた。
キースさんや、確か観察者は観察対象に死なれると困るんでしたよね。今ここに肉食動物に食われそうになっている観察対象がいるんですけど。
『おそらく大丈夫だろう』
何が大丈夫なのかわからないけど、動かない体を叱咤してなんとか逃げようと試みる。が、木の根につまずいて転んでしまった。そこに虎が近づいてきて――顔をペロリと舐められてしまった。
「グルルルル」
喉を鳴らして私にのしかかると両肩を押さえつけられてしまう。
――やばい、食われる。
と思ったらひたすら顔を舐められていた。
そして大口を開けて頭を甘噛みされる。
「な、なんなの、これ……、たすけ……」
食べられてるわけ……ではなさそうだけどすごく怖い。じゃれつかれてるだけなのかもしれないけど、肩の骨がミシミシ言ってそう。
助けを求めるようにキースに視線をやると、ぷるぷると小刻みに震えていた。
『くくく』
どうやら笑っているらしい。
恐怖が徐々に薄れていき、不満がどんどん強くなってキースに対する怒りに変わっていく。
「うわっぷ! ちょっと、見てないで、たすけ、てよ!」
そして感情に任せて声を張り上げ終えた後、ふと全身に力が入らなくなって意識を失った。
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