短編:さや

Take_Mikuru

短編:さや

◯海辺・外・夜


彰人(24)とさや(19)が畳5畳程の距離を空けて、それぞれ太い木に括り付けられている。2人とも全身濡れ、呼吸が乱れている。2人の目の前にはとんでもなく美しい夜の海が無限に広がっている。


さや「ねぇ、あっくん、あたしたち、もうダメなのかなぁ〜??」


彰人「そんな風に考えるなさや」


さやは期待を込めて彰人を見つめる。


彰人「、、、もう完全にダメだよ」


さや「え、、、、」


彰人「状況をよく見ろよ、誰もいないビーチに2人だけ、お互い全身石油まみれでぶっとい木に括りつけられてる。もう俺らはここで焼死するしかねぇんだよ」


さや「あっくん、どうしてそんなこと言うの!?少しくらい慰めてくれてもいいじゃない!?」


彰人「ああ!?慰めるってなんだよ!?そんなことに何の意味があんだよ!!!助からねんだよ俺らは!!!」


さや「いやよ!いやいや!私嫌だもん!」


彰人「そんなの分かってるよ!俺だって嫌だわ!まだお前とセックスしてねぇし!てか初デートでなんで焼死しなきゃならないんだよ!今日はディナーからのビキニセックスだったんだよ!」


さや「え、、、あっくん、そういうことは興味ないって言ってたじゃない、、、だから泊まりオッケーにしたのに、、、」


彰人「ない訳ねーだろーよ!おい!」


さや「あっくん、嘘ついてたんだね、、、なら良かったわ、寧ろ良かった、殺されることで、ヤられずに済むのね、、、」


彰人「おい、ちょ待てよ、おい!!俺にヤられるより死んだ方がマシってことかよ!それゃないぜ!!!」


さや「あるのよ、、私はあなたにヤられたくないのよ!汚い!穢らわしい!私をあなたのように汚さないで!!!あ〜!!ありがとうございます!!ここに括りつけて下さった方々、ありがとうございます!!あなた方のおかげで私は綺麗な状態でこの世を去ることができます!!なんてありがたいことか!!」


彰人「そんなぁ!そんなぁ!!そんなぁ!!!お前は俺を穢らわしいと思ってたのか、、、、毎日風呂入ってんのによぉ!!!あああああ!!!!」


さや「そう、泣けばいいわ。穢らわしいケダモノめ」


彰人はしばし泣き叫びながら涙を流す。さやは落ち着いた様子で深呼吸し、海を眺めている。


さや「綺麗な海〜」


彰人が泣き止み、さやの方を見て笑う。


彰人「実は俺なんだよ」


さやは彰人を見る。


さや「え?」


彰人「ここに俺らを括りつけたの、俺なんだよ」


さや「、、、、、なんで、、」


彰人「ああ、石油まみれなのはお前だけ、俺は水浸しになってるだけなんだ」


さや「だから、なんでこんなことをしたの、、」


彰人「ああ、知らね、なんでだろうなぁ〜」


彰人は息を吐き出し、ポケットからナイフを取り出し、体の周りのロープを切って海の方に少し歩いてからさやを振り返る。


彰人「どうしよっかなぁ〜、なんかいろいろ酷いこと言われちゃったしな〜」


さや「助けてよ、私はあなたの彼女でしょ」


彰人はふと笑う。


彰人「彼女ね〜」


彰人は海を振り返り、ゆっくり深呼吸する。


彰人「綺麗な海だぁ〜」


しばし沈黙が流れる。


彰人「ひと泳ぎでもしよっかな」


彰人はそのまま全速力で海に向かって走りながら服を全て脱ぎ捨てていく。彰人はそのまま海に飛び込む。


さや「彰人!私も連れて行って!!私も泳ぎたい!!!ねぇ!!!私も泳ぎたいの!!!!早く解けやクズ野郎おい!!!!!」


彰人が沖の方に向かってクロールしているのが見える。しばらくすると、いきなりどデカい魚が海から飛び出し、彰人を歯と歯の間で挟んで海中に戻っていく。魚が海中に戻った後、彰人が泳いでいた部分が真っ赤に染まる。


さや「うぁぁあああああああああ!!!!!!!食われてんじゃねーよ!!!!!先に私を解いとけよ!!!!!」


突然タイマーの音が鳴り、どこからかさやが括りつけられている木に火が放たれる。木とさやは一気に燃え上がり、さやはえげつない声で叫びまくる。


さや「ぅぁあああああああああ!!!!!!!!やっぱり嫌だぁ!!!痛い!!!死にたくない!!!!!嫌だぁよぉぉぉ!!!!!」


さやはみるみる焼けていく。

そんなさやのことを意にも介さぬように、海が月の明かりに照らされ、穏やかに揺れている。

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