第201話 彼女の幸せな結婚式③
そのまま真っ直ぐ向かうとかなり早く着いてしまうから、少し回り道をしながら美紗兎が車を走らせてくれた。少し回り道をしながら、のんびりと話をしていたら、いつの間にか式場に着いていた。
式が始まるまで少しの間、駐車場に車を停めて待機をしておくことにした。外から見られたら、車の中に花嫁衣装の人物が待機していたら驚かれそうなので、後部座席には遮光カーテンをつけてもらっている。
どこまでも用意周到な茉那と美紗兎には本当に感謝しなければならない。
時間が近づくにつれて、だんだんと胸の鼓動が早まってきた。
もうすぐ、美衣子はとんでも無いことをするのだから、緊張してしまう。みんなの視線を浴びる中、花嫁を連れ去るのだ。
そんな大それたことを自分がすることになるなんて、この間透華に提案してもらうまでは考えたこともなかった。そんな緊張している時に、透華からメッセージが入ってくる。
『新郎めっちゃカッコいいよ』
人が緊張している時に呑気に新郎の画像を送ってきた透華に呆れてため息をついてしまう。一応式の最中ではなく、廊下を歩いているときにこっそりとった写真のようだけれど、緊張感が無くなってしまいそうだった。
「その人から恋人を奪おうって言うのに、ほんとにあの人はデリカシーがないわね……」
敵なのか味方なのかわからない透華の行動に呆れてしまう。
とはいえ、新郎がどのような人物なのかを知っておくことは作戦成功のためには重要そうだし、正直ありがたくはあった。
もしかしたら、透華なりに考えた結果、緊張感を緩和させつつ情報提供をしてくれているのかもしれない。透華ならそのくらいのことまで考えてそうな気もするし、やっぱり何も考えていない気もするし、よくわからないけれど……。
「ねえ、茉那、透華さんが新郎の写真送ってきたから、一応共有。まあ、こんなときに送られてきてもって感じだけど……」
「透華さんらしいね」
苦笑いをしている茉那にも一応新郎の写真を見せようと思って、スマホを向けた。
「……って!?」
のんびりと相槌を打っていた茉那が突然険しい顔をした。そして、小さな声で呟いた。
「元カレだ……」
「へえ、そんな偶然あるのね」と美衣子はのんびりと笑ったのに、茉那はとても怖い顔をしている。
「茉那……?」
美紗兎もスマホの方を見て、不安そうな顔をしていた。何か見せてはいけないものを見せてしまったのだろうか。そんなことを考えていると、茉那が美衣子の肩に手を置いて、ジッと見つめてくる。
「ねえ、どうしたのよ……?」
「美衣子ちゃん、絶対に連れ出すの、成功させようね。灯里ちゃんのこと助けてあげないと」
普段のんびりしている茉那が柄にもなく真剣な顔をしているから、美衣子はしっかりと頷いた。
「もちろんそのつもりだけど……」
先日観覧車の中で聞いた感じの話だと、灯里の彼氏は平気で不倫とかしそうなタイプの人だから、茉那が言う助けてあげないと、というのが灯里に可哀想な思いをさせないようにという意味なのはなんとなかくわかる。
けれど、茉那はそれ以上の感情も持ってそうだった。
「わたしと、梨咲さんの仇っていう意味でも……」
茉那の言っている意味はよくわからなかったけれど、少なくとも成功はさせる気だったから、それは問題ない。
「大丈夫よ、絶対に灯里はわたしが連れて帰るから」
改めて気合を入れて「よしっ」と小さく声を出して、手をグッと握った時に、ちょうど透華からメッセージが入った。
『そろそろ結婚式始まるよ!』
「茉那、美紗兎ちゃん、そろそろ行ってくるね」
「わたしたち、ここで待機しておくから絶対に灯里ちゃん一緒につれて、車に乗せて帰ろうね!」
「もちろんよ」と美衣子が小さく頷くと、茉那と美紗兎も一緒に頷いた。
「頑張ってね、美衣子ちゃん」
「頑張ってください!」
2人から見送られて、ゆっくりと車から降りた。すでに12月下旬になっていたから、かなり寒い。ここからは美衣子が一人で頑張らなければならない。
「初めての結婚式場でのウエディングドレスは、本当は灯里と一緒に着たかったんだけど、結局一人で着ることになっちゃったわね」
美衣子は苦笑いをした。
「でも帰り道は絶対に灯里と一緒にウエディングドレス着て帰るんだから!」
帰り道は灯里と一緒にウエディングドレス姿で2人で茉那と美紗兎の元まで戻って来れたら良いんだけど、と思いながらヒール音を鳴らしながら、美衣子は一人式場に入って行った。
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