第194話 作戦会議②
次の土曜日、毎度お馴染み透華の喫茶店で、茉那と美紗兎を待つためにコーヒーを啜る。
3人寄れば文殊の知恵というのは、茉那、美紗兎、そして透華を加えた3人を頼れと言うことだったみたいだ。
「そっか、ついに知ったんだね」
透華がうんうん、と頷きながら、営業中なのに当然のように美衣子の正面の席に座っていた。
相変わらず不自然なくらい誰もいない昔ながらの喫茶店のマスターをしている可愛らしい風貌の透華の存在は、なんだか夢の中みたいに不自然にかんじられる。
「透華さんのお店、いつも人いないけど大丈夫なんですか?」
「今はわたしの心配してる場合じゃないでしょ?」
少しムッとした調子で透華が答えた。「そうですけど……」と美衣子が答える。
いつも思うけれど、ここのお店は可愛らしい透華が運営しているには渋すぎる気がする。
多分、硬派な人が着たら様になるのであろう制服も、透華が来ているとメイド喫茶の店員さんのように見えてしまう。
「うちのお店ね、元々パパがやってたんだけど、その時の常連さんの一人が灯里のパパだったの」
「そうなんですか?」
うん、と透華が頷いた。
「灯里ちゃんのお父さん、とってもカッコよかったんだ。美衣子ちゃんも高1の頃に灯里ちゃんの家で見たことあるでしょ?」
灯里と出会ったばかりの頃に、一度灯里のお父さんと出会ったことはあるけれど、そのことも透華は当然のように知っている。その話も灯里が透華に話したみたいだ。
本当に美衣子との思い出はすべて語られてそうで呆れてしまう。絶交中にそこまで思われていたなんて、灯里らしいと言えば灯里らしいけれど。
どれだけわたしのこと好きなのよ、と心の中で苦笑する。
「たしかに灯里のお父さんは俳優みたいでカッコよかったですね」
「ね、美衣子ちゃんもそう思うよね!」
透華が随分と食い気味で身を乗り出してくる。美衣子は少し困惑しながら、まあね、と答えておいた。
「わたしね、灯里ちゃんのパパが好きなの!」
「は?」
透華の唐突な告白に美衣子は目を見開いた。そんな美衣子の様子を見て、透華は満足気に微笑んだ。
「え? いつからなんですか?」
「いつからだろうな……。高校生くらいの時から? ずっと片想いなのに、わたし結構一途なんだ」
「まさかと思いますけど、灯里と付き合ってた理由って……」
透華がニコリと微笑んだ。
「ご想像にお任せするね」
灯里の父親が好きだから灯里と付き合っていた可能性が出てきて、困惑してしまう。美衣子のことが好きな灯里と、灯里の父親のことが好きな透華が付き合っていたのだとしたら、なかなかに歪である。
「そりゃ、灯里から愛してもらえないですよ……」
美衣子が小さくため息を吐き出した。
「でも、灯里ちゃんのこともほんとに愛してたよ」
「『灯里ちゃんのことも』って……」
美衣子が呆れた視線を向けると透華が苦笑いをした。
「ま、そのことは置いといてさ。わたしのパパがお店をやっていた時は良く来てくれた灯里ちゃんのパパは、そのうち海外に行ったり来たりするようになって、忙しくなっちゃったわけ。それで全然お店に来なくなっちゃったの。だから、また来れるようにこのお店を当時のままで残しておこうかなって思って」
「それで、人が来なくてもこのスタイルで営業を続けているってことですか?」
「そういうこと」
「それで、ずっと灯里のお父さんのことを待ってて、一度でもこのお店に来てくれたの?」
美衣子の質問には、透華は黙って首を横に振った。
落ち着いて渋めの雰囲気のお店が透華とそぐわなかったことにも納得した。
勝手な想像だけど、きっと透華の父親もこの店の雰囲気と合った硬派な人だったのだと思う。硬派なマスターと渋めのお店、それがマッチする空間が好きであかりの父親は来ていたのだろうと推測する。
「まあでも、さすがに仕事終わりにアルバイトしながらお店の経営資金稼ぐ生活もしんどいし、そろそろ潮時なのかもね……」
透華が苦笑いをした。
「それに、灯里ちゃんにも、『我慢して苦しい生活をしていても、パパはあなたに会いにこのお店に来ることはないわよ』って何度も言われてるし……」
透華には透華の良さがあるのに、来る事のない灯里の父親のために作られた店の雰囲気によって、良さが消されているような気がした。
「透華さんはカフェの経営自体は好きでやってるんですか?」
「どうなんだろうね。コーヒーとか料理とか作ってお客さんに振る舞うのは好きだけど、今の雰囲気がわたしのやりたい事かって言われたら、本当は多分違うんだよね」
透華は困ったように笑った。
「パンケーキ焼いたりして、もうちょっとポップなお店でもう一度挑戦したいっていう気持ちはあるよ」
「それなら……」
「でも、もうお店を改装する資金もないからね……。今の生活でわたしはいっぱいいっぱい。今はこっちに住んでない両親にも仕送りしてもらって生活費の足しにしてるけど、いつまでも仕送り頼みで生活もできないし、カフェはやめて、今働いてる飲食店で正式に雇ってもらおうかなって思ってる」
「……そうなんですね」
勿体無い気もするけれど、これは透華の問題だから、美衣子が口を出すべきことではない。
ほんのり気まずい雰囲気が漂いかけていたところにちょうど2人がやってきてくれた。
「美衣子ちゃん、透華さんお待たせしました」
「お久しぶりです!」
茉那も美紗兎も楽しそうにやってきた。
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