第5話 偏屈教師の話①
「お前……調子に乗るのも大概にしろよ!!」
バンっ!と机を叩く音が職員室に鳴り響く。
すると目の前の生徒は、驚いたようにビクっと身体を動かす。
「なあ……お前さ、去年の入学の時からずっと成績トップで部活でもエース扱いされて。クラスの女子からもチヤホヤされたりして調子に乗ってるよなあ!?だからこんなことが起こるんだよ!」
俺の怒りは静まらない。
目の前で俺に怒られている俺のクラスの男子生徒は、大事な期末試験の朝、無連絡で遅刻をしてきた。
通常、何らかの事情で定期考査を受けられなかった場合はその事情や理由を説明し、クラス担任やその科目の教科担任、学年主任に教務主任、教頭まで許可を取りに行かなければならない。
だがこの生徒は、その事情を明確に説明しようとしない。
2時間目の終わりの時間に登校してきたかと思えば、遅れてきた理由も携帯に電話をかけても出なかった理由も、腹が痛すぎて駅のトイレに篭ってたということしか言わないのだ。
体調が悪かったのは仕方ないが、せめてもう少し早めに連絡はできたはずだ。
「なあお前……自分は特別な生徒だから、多少のワガママは許されると思ってたんじゃねーの?ああ?違うか?」
「ち…ちがいます……許されるなんて、思ってません……」
「じゃあなんで堂々と追試を受けたいだなんて申し出て来られるんだっ!!」
再び俺の逆鱗に触れ、机を叩かれる生徒。
「まあまあ奥山先生、お気持ちは分かりますが、今の時代あまりそう怒鳴ったりすると良くないですよ。他の先生方の勤務にも支障が出ますので、そろそろ……」
隣の学年副主任が俺を宥めに入る。
50歳近くの眼鏡をかけた柔らかい雰囲気の女性の先生だ。
「………ったく。とりあえず今すぐに許可は出せない。今日一日、反省の態度を示せ。そんで放課後もう一度俺のところへ来い。今日のお前の態度を見て許可を出すかどうか決める」
「わかりました。……ありがとうございます」
俺の言葉に生徒は頷き、礼を言って退室した。
「奥山先生、醍醐くんに厳しいですよね〜」
学年副主任とは反対方向の隣の席にいる先生が声をかけてくる。
「まあ、ああいうチヤホヤされてる奴はどうも自分の思い通りに世界が動くと思ってる節がありますから。中高生の段階で勘違いさせないようにするのも我々の役目かと。」
「んー、確かにそういう奴もいますけど、醍醐くんは比較的しっかりしてると思いますよ?むしろ自分を過小評価してると言いますか…」
「大人の前では上手く取り繕えるんですよ、ああいうタイプは。けどそこを見抜いてやらないと、ヤツのためにはなりませんて」
この学校の誰もが、あの生徒に騙されている。
そもそもあいつは入学前、過去最高の入試の点数を叩き出し、面接においても全面接官がA評価を下すという前代未聞の成績を残し、話題になった生徒だ。
しかし入試会議の際、小学校からの申し送りで5.6年生の欠席日数が年間の3分の1を超えていたことがわかった。
それが議論となり、休みがちな生徒をうちで面倒見るか、それとも文武両道に厳しいうちの学校ではやっていけないことを見越して落とすかで意見が割れた。
結果として、休んでいた理由が酷いイジメによるものらしいという情報を元に、イジメにさえなければきちんと出席できるだろうという期待を込めて合格させることにした。
しかしそういう経路もあってか、先生方は皆あの生徒に甘すぎる節がある。
確かに過去のいじめは同情する点も多い。
入学後の成績もトップを維持しているのは努力しているからだとも思う。
しかし、だからといってあからさまに贔屓をするのはまた別問題だ。
俺はヤツの担任であるが故に、奴が勘違いして将来とんでもない野郎にならない為に厳しく接することを貫いている。
だから今回のような定期考査の無断欠席も、そう簡単には許したくなかったのだ。
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