幼馴染が私に、絵本を読ませてくれるまで
篤永ぎゃ丸
夢が、ひび割れる
よるがあけないせかいでくらす
おんなのこのもとに
ひとつぶのながれぼしがおちてきました
そのほしはねこみたいなすがたをしていて
そらからおちたときに
からだがかけてけがをしたようです
おんなのこはながれぼしのけがを
てあてしてあげました
そしてほしとおんなのこは
ともだちになったのです
おんなのこのおうちはまっくらやみでしたが
ほしのひかりがあかるくてらします
くらやみしかしらなかった
おんなのこはひかりの
あたたかさとまぶしさを
はじめてしりました
「——なーに、かいて……んのッ!」
濃いめのシャーペンでそう書かれた読み難い文章を目で読み上げた後、机に広げられていたルーズリーフをペラッと後ろから奪い取る。
高校の休み時間。周りはガヤガヤ騒がしいのに、ただ一人、背中を丸めて静かに過ごしていた男子高校生——私がすぐ近くにいるのに気付かないくらい、これを書き進める事に夢中だったみたい。
「なッ……か、返しやがれ!」
「これ、絵本の下書きでしょ〜?」
「……ケッ!
私、
机の上はコンビニスイーツのゴミや今日の授業に無関係な教科書、消しゴムのカス、勉強に使ってないルーズリーフの山、ごちゃごちゃした机の持ち主に相応しい、整理整頓が出来ない系男子だ。
「俺に何の用だよ……」
「俺に何の用……じゃな——ッい!
「うげッ……マジか!」
「さっさとしてよ! 先生から言われるのは、学級委員の私なんだからね!」
「
私と
「絵本の編集さんになるなら、文系のスキルが必要って話だし、四年制の大学は出た方がいいみたいだね」
同じ境遇の中で、目の前にいる
「日本のエリック・カールと呼ばれて、保育士よりも子供に好かれる絵本作家の男になるんでしょ!」
「……そんな事、言った覚えねぇよ」
「……工業系の……進学、就職……?」
思わず声に出して読み上げちゃった。そこには、絵本作家に続く道標が、一つも示されてない。信じられなかった。膨らんだ期待が、風船みたいにパンと割れた。
「……他でお金稼ぎながら、新人賞とか頑張るの?」
「新人賞って何の事だよ。最近、設計技術とか興味湧いてきてさ。親も後押ししてくれるし、進路指導の先生も問題無いって言ってくれた」
「なにそれ……だって、
「なんで、
「とにかく、俺はもう『絵本作家』を目指してねぇんだよ」
「何かあったの⁉︎ だって、そのルーズリーフにある言葉は、絵本の……ッ」
「……次、選択授業だから。俺に構わず、
「待ってよ、
ガタ、と私の声を遮る様に席から立ち上がった
残された私はもう一度、進路希望用紙を見る。何でこんな事になっちゃったんだろう。私を出し抜く為に、変な画策する癖はあるけど——絵本作家を諦める言葉だけは、口にしなかったのに。
「私が頑張る理由——無くなっちゃう……」
「ゆーいゆいッ!」
パンと両肩を叩かれて、私はビクッと後ろに振り返った。そこにいるのはクラスメイトの女友達、
「
「うん。
「ふぅ〜ん……あのさあのさ。高校生活もあと半年無いし、この際ゆいゆいに聞きたい事あるんだけど」
「なぁに?」
私は
「ゆいゆいって彼氏いないよね?」
「いないよ、当たり前じゃん」
「あ、あたりまえ? じゃあ……単刀直入に言うけど、
「付き合ってないけど?」
「動揺すら無しかい! だってさぁ、あんたらってどっからどう見ても、カップルにしか見えないって」
「例えばどの辺りが?」
「ん〜。例えば、下の名前で呼び合ってる所とか」
「物心付く頃からの腐れ縁だしね。苗字呼び、殆どしたことないし」
「それに、よく放課後一緒に帰ってるじゃん!」
「方向同じだし、家が隣だからだよ」
「えぇ……あ。休みに二人っきりで出かけてる所、
「あれは、
「ぐ……ほ、ほら! なんか二人って話が合うっていうかなんていうか!」
「そりゃ、子供に
手元にある進路希望用紙が視界に入って、私の返事に自信がない。でも
「あーもう、マジで付き合ってないっぽいじゃん、超つまんなーいッ!」
「私と
「じゃあさ、例えばの話で
「やだ。すっごいムカつく」
「ふふふぅん、ゆいゆいよ。それは俗に言うヤキモチって奴——」
「そんなんじゃないから」
「ゆいゆいの真顔、怖ッ! 分かった分かった。まぁ、幼馴染って負けヒロインの代表格だし、カップルにならないのも無理ないよね〜」
「はぁ? 私は負けないよ」
今のが聞き捨てならなくて、グイッと
「ヒッ! な、なんでそんな怒ってるの⁉︎」
「負けって格付けされたら、誰だって腹立つでしょ」
「うぅん……ゆいゆいって、
腕を組んで、うむむと唸る
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