56.今、襲いにいきます

 山から飛びあがった、直後。 

「攻撃きた!

 チャフ散布!」

 安菜が叫ぶと、ウイークエンダーの周りにオレンジの光が飛び散った。

 熱を探知するセンサーを引き付けるための熱源が、燃えながら飛んだんだ。

 ミサイルの誘導でお馴染みのヤツ。

 同時に飛び散るアルミの破片は、レーダーの電波を乱反射させてくれる。

 白い煙、煙幕が全身をつつみ敵から、私たちからも、視界を奪う。

 たぶん、役に立つのは煙幕だね。


 飛行し続けた。

 ウイークエンダー・ラビット、空挺ユニットで。

 安菜の言うところの、おでかけ用ウサギちゃん。

 なんとか、この1日で操作がなれてきた気がする。

「山のうしろにかくれるよ! 」

 情けないようだけど。

「賛成! 」

 でも、やっぱり大変!

 何も見えない状態で、記憶と気配だけで飛ぶのは。

 チャフを抜けた。

 本当に、ここの山は高くて急だよ。

 ウイークエンダーが頭まで隠したまま、飛行しながら逃げれるなんて。

 四つんばい体勢で着地した。

 雨でぬかるんで、またすべる!

 土砂崩れを起こした!

 幸い、後ろはまだまだつづく無人の森だった。

 と思ったら、キツネや鳥たちが逃げだしていく。

 ・・・・・・そうだ。

 人間はいなくても、命はあるんだ。

 ごめんなさい。


 四つんばいのまま、改めて山を登る。

 爆音が大きくなってくる。

 このたびに、機体がゆれた。

 山頂ギリギリまで来たら、背中から。

「観測マストを伸ばして」

 安菜の操作で、背中から機械の腕がとびだした。

 ウイークエンダーから見ると細長く見えるけど、しっかりした物だよ。

 先に小型レーダーやカメラ、風向センサーをつけてある。

 急げ急げ急げ。

 マストが木の高さギリギリまで伸びきった。

 体をさらさずに、山の向こうを見れる。

 

 チャフがうすれて、飛び上がった地点が見えた。

 変わらない、はげしい雨。

 その向こうの百万山市は、戦場になっていた。

 山に挟まれた街の幅は、およそ1キロメートル。

 家がひしめき合ってる。

 そこから、火の手がいくつもの上がってる。

 くやしさに、飛び出しそうになる!

 だけど、今はまだダメ。

「今、指揮をとってるのは。

 マイケル イーサン エルマー リッチー。

 誰それ」

 シロドロンド騎士団の副団長。

 アーリンくんの部下だよ。

 あの人、こんな時に指揮とれるほど偉かったんだ。


 それにしても、聞こえ続ける、神楽鈴の音。

 街の真ん中を銀色でおおうボルケーナ先輩を形作る、MCOが鳴らしてる。

 先輩に神殿はないけど、まるで巨大な女神像みたい。


「ポルタは消えたね」

 私たちがつぶしたんだ。

 そこに、黒い炎が雨あられと飛んできた!

 森が焼けていく!

「あれかっ?! 」

 爆発は、巻き込んだ木々を完全に砕いてまきちらす。

「魔法炎のトンネルの残りが変身したんだよ! 山の下の方がっ」

 安菜が、言葉を失った。

 あちこちから、黒い丸いものが伸び上がった。

 巨人だ。三つ目の黒い巨人。

 ウイークエンダーと同じくらいの背丈。

 それより小さくても、周りの家や木より大きい。

 人を太らせて、できるだけデコボコを取りさったような姿。

 頭の前と左右に大きな円形の目が。

 でも、もしかしたら窓かもしれない。

 破滅の鎧のヘルメットに似てる。

 ただし、その目の下には、キバがならんだ口がある。

 唇はない。

 顔の表面からいきなりキバが生えてるんだよ。

 手の鋭いツメ、それも同じような感じで伸びてる。

 そして、その手に握られてるものを見て、私たちはさっした。

「間違いない、こん棒エンジェルス! 」

 それが群れをなして、こっちを向いてた。   

 にぎられた、こん棒。

 大きく振りかぶり、振り落とす。

 するとこん棒にまとわりついた黒い炎が振り抜かれて、三日月型になって飛ぶ!

 ウイークエンダーの方向だけを考えて、爆炎で焼き尽くすつもりみたいだ。

「ずいぶん、しつこい攻撃じゃない? 」

 確かに。

「頭を上げさせない気だよ。

 でもあの調子だとーー」

 こっちの味方に狙われるね。と私は言った。

 でもそれは、雷の音でかき消された。

 分厚い装甲を乗り越えた、偉大な音。

 巨人たちを、太い稲妻が打ちすえる。

 視界いっぱいに何本も、同時に落ちた。

 黒い、古く強い、終わりなき生命力に満ちた翼が、雨空をすべった。

 稲妻の雇い主の、その翼。

 その主とは、2つの頭を待つ大鷲。

 デコとペタだ。

 百万比咩神社陰司宮A小隊に属する、ふたごの神の合体した姿。


 ピィー ピィー


 その叫びとともに、空から稲妻が落ちた。

 どうやったら稲妻を誘導できるのか、そういう理屈は全く通用しない。

 デコとペタに頼まれて、天が落としてるのかもしれない。

 とにかく、助かった。

 稲妻に撃たれれば、巨人は倒れて、それっきりになる。

 そう、今までなら思ってた。

 巨人は、立ち上がった。

 不自由そうにだけど。

 モゾモゾと、ある者は空を見上げ、またある者は?

 こっちを見た!

 一度飛び去ったデコとペタが、ギョッしたように振り返ってる。


 対処しないと!

 だけど・・・・・・。

「うさぎ、私のことなら心配無用よ」

 別にそんなことは気にしない。

 さっきの約束を、どうやって果たしてもらおうか、考えてたの。

「えーと。敵をふみつぶすだけなら、私でもできるでしょう。だっけ? 」

 それ。

「だったら、ちょうど良い目標がいる。

 ポルタの跡地の上。

 もう山頂につくかな」


 巨人が一人いた。

 よりによって、ウイークエンダーより巨体だよ。

 しゃがんでも木よりも大きい。

 ポルタの跡地を見ていたらしい。

 そこから山の上を目指して歩きだした。

 私たちが見つかる!


 でも確かに、キックの的には良さそう。

「でしょ。

 やりなさい。

 私の騎士。

 あんたしかいないんだから、私はしたがう以外ないよ」

 では、お言葉に甘えて。

 

 山の下で待つ巨人は、空に向かって炎を振り抜き始めた。

 援護射撃だね。

 明らかに悪意を持っている。

 でもその動きは、狂ったように、そんな感じがする。

 空そのものに炎を振り抜く者もいた。

 空が自分を殺そうとしてる。

 そんな確信を彼らは抱いたんだ。

 それを正しいとも間違ってるとも言えない自分が、なんかくやしい。


 それでも、まずは。

 体をグッと山の上にだす!

 もう名刺がわりになった気もする、120ミリ連装滑空砲。

 森に潜んで、援護射撃を続ける巨人の一団。

 大きさは木と同じくらいかな。

 そこに、二発ともぶちこむ!

 炎が、振り抜かれなくなった。

「安菜!

 飛ぶよ! 」

 しっかり、言葉にだす!

「目標! 山頂の巨人!

 右足を上から下に打ち込むイメージ!

 体は起こして!

 左足は、なるべく引き寄せる! 」 

 ウイークエンダーの姿勢を表示するCGを見た。

「美しい」

 思わず声にでた。


 その後は、一瞬。

 鋭い衝撃!

 たちまち山頂から転げ落ちる巨人。

 ソイツは置き去りにして。

 私たちは谷を、街のある方へすっ飛んでいく!

 さて、次の目標は・・・・・・。

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