こういうの読みたい

墨目

こういうの読みたい①

「煙幕⁉」

「互いの射程の差は承知している!」

視界が一瞬で黒く染まり、爆竹も合わせて音もまともに聞こえない状態になる。

「ゆくぞ!貴様が如何に目がよかろうと、見えぬ攻撃は防げまい!」

その通り、見えない攻撃は避けられないし、見えない敵は切れない。

どうするべきか...



「煙幕?メカのレーダーがまともに動作していれば....」

「だからだよ、僕とか彼みたいな人種はなまじ自分の目が、耳が、メカよりずっと高性能だからね、レーダー見るよりカメラ見たほうが早いんだよ」

「ふむ、だがわざわざ煙幕を張る意味はなんだ?先ほどまでのように速度で勝負するのは確かに難しいだろうが...」

「さあ?それはわかんないね、ただ彼らはここまで無敗の勇に対して明確に効く対策を持ってきた」

「どう考えても人間技じゃない反応速度と当たれば一撃必殺の居合に対する対策が、煙幕だと?」

「要はリーチの問題だよ、真正面から行ったら相手の武器のほうが長いんだから普通に切られてしまいだよ」

「だから爆竹と煙幕で不意を突くということか」

「爆竹程度なら優秀なオペレーターがいれば熱量センサーの目はごまかせない、これは中身の耳をつぶすためかな、ニテンからすれば中身の耳がいいのか目がいいのかはわからないから両方つぶそうと思うとこうなるのかな」

「熱量センサーをごまかすためにもう一手あると?」

「いや、彼らはそんなに臆病じゃない、前の試合でもそうだったけどね」



「部長!」

「煙幕は大分広がってるわ、抜けるのは現実的じゃない、どうにか適応するしかないわね」

「音もすごいことになってて、熱量センサーも」

「熱量センサーから爆竹を外すのはもう終わるわ、いきなりだったけど雪乃も頑張ってるわ」

「できるだけ位置を悟られないようにして、熱量センサーで戦うのは初めてだと思うけどあなたなら勝てると信じてるわ」



「直前に提案したので解析に時間がかかってしまいましたがそれでもこちらの方が早いはずです、宮本君」

「承知!」

「どんなに反応速度が早くても反応できない一撃を入れる、いいアイデアでした」

「褒めるのは勝ってからにしてもらおう」

「では、あとはあなたに任せます」

「あいや、任された」



「いざ、勝負!」

来る!

予感はするが、どの方向からどういう攻撃が来るのか全くわからない!

部長と会話している間にできるだけ静かに岩場まで逃げてきた、背後を岩場にすれば致命傷は食らいにくいはずだ。

「さて...」

熱量センサーの解析にはあと1分はかかるらしい、その間にどう攻めてくるか...

ブレードは鞘に戻し、腰を落とす。

一番守るべきは頭だ、これまでの戦績から見てもニテンは直接頭を狙ってくる。

右腕を少し、頭に近づける。

全く何も見えないし聞こえないが....

見えた瞬間に斬る、聞こえた瞬間に切る。

静寂、相手も解析に手間取っている?そんなわけないか、相手が仕掛けた罠なんだからもうこちらは見えていると考えるべきだ。

爆竹だってそんなに長い時間機能しているとは思えない、仕掛けてくるならそれこそこの1分間と見るべきだ。

それともこの岩場が―――

ガギィィィィン!!!

とっさに右腕で頭を守れたのは、まさしく幸運だった。

何も見えない暗闇からブレードが頭めがけて飛んできた、こちらの被害は右腕の装甲真っ二つになった程度で済んだが―――

あのレベルのスピードだとブレードだけ飛んできたのか本体が振っているのかすらわからないとは!


「まさか、アレにも反応されるとはな」

「少し、正直すぎましたかね」

「ああ、やはり頭を直接狙うのは安直であったな」

「時間的にもおそらく次の一撃が最後だと思います」

「承知!」



「この勝負、やはりニテンが有利と見るか?」

「そりゃこの状況はどう見たって有利でしょ、まあ残念ながら中身は見えてないけど」

「先ほどの接触ではどうも倒し損ねたようだが」

「運がよかっただけだよ、僕でもこの状況なら負けかねない」

「ほう、ではお前はこの状況どうする」

「一番いいのはこんな状況作らないことだけど...今回に関してはこれはニテン側がうますぎた、ガンガンにメタってる動きだったしね」

「僕ならそうだな、うーん...思いつかないかもな」

「では、おとなしく負けるか?」

「まさか、僕は思考は専門外なんだ...うーん美代ちゃんがいい案を出してくれるまで耐えるぐらいしか思いつかないな」

「耐えるといってもな....まさしくガードも回避も不可能の一撃だぞ」

「ま、それはそうなんだけど」




ガードはできた、いや出来てはいないんだけど。

右腕の装甲が斬られたといっても動作自体にそこまで支障はない。

先ほどは素直に頭を狙ってきたが、次はどこを狙ってくるか...

まっとうに考えれば脚か、胴か。

だが胴を狙うにはかなり踏み込まないといけない、この状況でそこまでリスクを冒す意味は...

普通に考えればここで足を斬って次の一撃で決めるべきだ。

今までの戦績を見ればここで狙うのは.....





『盛り上がってきました高校生MVM全国予選、まだ第二試合にもかかわらずニテンの勇に対する研究が光っているように見えます!』

『まー普通のメカはあんなことされたら逃げるか、あとは爆風で晴らすとか...そういうことが一応選択肢にはなりますね』

『鈍足かつ武器がブレード一本の勇にとことん刺さる戦法ということですね?前田さん』

『いや、どちらかというと初見殺しが大きいと思いますね、これ以降のチームは爆竹が撒かれても速攻で対応されるでしょう、もしかしたら彼らは勇こそ最大の敵と見ているのかもしれませんね』

『おっと、ニテンに動きがありました、とどめを刺しに行くようですね』

『一撃目はこれまでの傾向から見ても頭を狙うということを読まれて防がれた、と思われますが位置情報しか追えないのがもどかしいですね』

『さあ、ニテンの第二撃はいったいどこを狙うのか、勇はどうやって対応するのか!最後の瞬間まで目が離せません!』




ここで彼が狙うのは―――

―ギィィィィィィイイン

当然、胴だ――

「なっ!」

「熱量センサー解析完了!見えるわよ!カイトくん!」

「了解!」

真っ黒の視界から解放される、正面にいるのが――

ニテン、あいにく目視じゃないから色はわからないが、細身のボディがこれまた細身のブレードを握っていた。

「捕まえた」

だけど、まだ終わったわけじゃない。

防がれたことを確認した瞬間に後ろに飛び去るニテン、だけどこれでもう鬼ごっこは終わった。



「まさか、第二撃も防がれるとはな、あちらももう解析は終わっただろう。己の安直さが、不甲斐ない...」

「まだ試合は終わってないですよ」

「然り、負けてやる気は毛頭ないわ」

「いくらこちらが見えるようになったとしても普段の本調子からはほど遠いはずです、十分勝ちの目はあります」

「うむ」



「こうなったら速攻で決めてもいいし、煙幕が切れるまで耐えてもいいわ、解析が終わったとはいえもう爆竹も切れるでしょう」

「はい!」

安全に勝つなら煙幕が切れるのを待つべきだ、そんなに長持ちするとは思えないし。

ブレードを鞘に戻し、居合の姿勢を取る。

この姿勢で煙幕が切れるのを待つ。

構図も攻守も、全てが逆転していた。




「ふ、意趣返しというわけか」

「ですが、安直に手を出すと」

「わかっている、自分から真っ二つになる気はない」

「煙幕切れを待っているんでしょう、『煙幕が切れたら負ける気はない』といったところでしょうか」

「これはまた、困ったものだ」

「やりたいプランがあるなら...」

「いや、最後は刀の腕で勝負と行こう」

「煙幕が切れるまでは残り20秒ありません、試合時間もまだ10分以上残ってます」

「こちらが急かされる側になるとはな....」




『『消える魔剣』vs『見えぬ魔剣』!先ほどまではニテンが大幅に優勢でしたが二度の襲撃を奇跡的に耐えた勇、どうやらニテンの位置も見えるようです!』

『これはもうニテン側の有利な要素は無いといってもいいでしょう、状況は五分ですがメンタル的には勇側が大幅に有利でしょう』

『二度の襲撃を見事に耐えたパイロットの高垣君、いったいどのように耐えたのでしょう』

『こればっかりは、後で本人に聞くしかないですね』

『しかし、お互いの位置がわかってから一切動いていません、どういうことでしょう』

『勇は非常に長いブレードと圧倒的な速度の居合で待つ気でしょう』

『ニテン側はそれに対して崩す方法を考えている、といったところでしょうか』

『どうでしょう、お互いに煙幕が切れるのを待っているということも――』

『お!ニテンが動きます!』



来た――

見える、ニテンの動きが。

このブレードの射程、そのギリギリで、相手のブレードの射程外で。

確実に斬る。


走りながら宮本は思考する。

(どうやっても斬って倒すにはあの刀の射程に入らなければならん、下手に近づくと刀ごと真っ二つにされかねんが...)

切れる奥の手は全て切った、残っているのは――

あと20秒も保たない煙幕と、”二本”の刀。

爆竹による耳への妨害はすでに終わった。

(上等!)

目前に映るは長大な刀を操る大男。

こちらは二本の刀操る小男。

(なかなか、面白いことになってきた!)


「一度目の襲撃と二度目の襲撃で、おそらく使っているブレードが違うわ」

「はい、一本目に比べて二本目は明らかに長かったです」

「一本目の格納場所がわからないわ、飛ばしてくる可能性もあるから、十分注意して」

「了解」

勇の周囲を、円を描くように近づいてくるニテン。

さすがに素早い、完全に追い切るのは最初からあきらめている。

背後を取って斬る?勇にそれは無理だ、こんなにこちらを研究しているなら地区予選で何度かやった超信地旋回を忘れているってことはないだろう。

どう近づいて来ようと、必ず先にこのブレードの射程に入る。

精神を集中する、目は十全に使えるわけではないが耳はもう聞こえている。

どこからくる、どうやって来る!

カシュンッ!

聞こえた!

音の主は――

やはり、正面にいた。

右腕から射出されたブレード――おそらくは一度目の襲撃も同じように射出したに違いない――とともに左腕に握ったブレードを大上段に振りかぶっている。

なるほど、二面作戦。

それなら問題ない。

一度目の襲撃と同じように右腕でブレードをはじく。

はじかれたブレードが勇の右へ飛んでいき―――ブーメランのように戻ってきて右腕を切り裂いた。

動揺はするが、同時に納得もする、あの腕の大きさならブレードを二本以上格納できるとは思えない。

何らかの手段で――おそらくはワイヤーを巻き取る感じで――回収できるようにしているんだろう。

だが、右腕が切れたって何の問題もない。

ガッガギィィィイィンン!!!!!

居合とニテンのブレードがぶつかり合う――防がれたが、ぶつかった衝撃で切れかかっていた煙幕も吹き飛んだ。

右腕を斬ったブレードがニテンの右腕へと戻っていき――

防いだことで一歩後ろに下がっていたニテンが、もう一度こちらに向かってきた。

だが――

見えているのなら何も問題ない

頭狙いの一本目を避けながら

相手が反応するより早く一歩前に出てブレードを抜く

二本目を体の正面に持っていくより早く

「切り捨て、御免」

超音速の合金ブレードが、ニテンの胴を真っ二つにした。

「見事!」




『2072年度高校生MVM全国予選第二試合!『消える魔剣』ニテンと『見えぬ魔剣』勇は!『見えぬ魔剣』勇の大逆転勝利!無敗のまま全国大会本選への出場が確定しています!』

『いや、見事な試合でした、負けてしまったとはいえニテン側の作戦は目を見張るものがありましたし、それに対する勇側の対応、そして最後の相変わらず規格外の威力の居合切り!』

『これから勇と相対する選手たちにとってこの試合は非常に有意義な物になるでしょう―――



「すまんな、佐々木、最後は熱くなってしまって...」

「いいんですよ、まだ本選に出れないわけでもないし、それに、煙幕での襲撃に失敗した時点で厳しかったですし」

「まったく、己の安直さに負けたと言われても文句は言えん。反省せねばな」

「でも裏をかいたりだましたりする宮本君って全然想像できません」

「うーむ」



「これで全国本選は確定、ここまでありがとう、これからもよろしく頼むわ」

「もちろん!」

「煙幕の中での判断、すごくよかったわ、なんで胴体を狙ってくると思ったの?」

「半分賭けみたいな感じでしたけど―――」

「剣道には面と胴と小手はあっても―――足はありませんから」

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