友愛
Take_Mikuru
耕平と勇気
〇勇気の部屋・中・朝
耕平(17)が部屋の中に入ってくる。勇気(17)は部屋の中央にある座卓に座っている。
勇気「おうぃっす」
耕平「おはよう」
耕平は勇気の前に座る。
勇気は目の前にノートを広げ、手にペンを持っている。勇気はノートを見てから耕平の方に向ける。
勇気「早速書いてみたよ、読んでみて感想ちょうだい」
耕平は下を向いたまま何も言わない。勇気は耕平を見る。
勇気「・・・どうしたの?何か言いたいことあるの?」
耕平は依然として下を向きながらもぞもぞしている。
勇気「おいおい耕平、何だよ、ハッキリ言ってくれよ、な?」
耕平は座卓に手をおいて、悩んでいる様子で、指で座卓の表面を激しくこすっている。
勇気「おい耕平、俺らの仲だろう?小説の内容に不満でもあるのか?」
耕平は深呼吸をし、数回頷く。
勇気「え、不満あるの?」
耕平「あ、いや、違う」
勇気「え、じゃあ今のは何の頷き??」
耕平「勇気に話す覚悟を決めたというか、、、」
勇気は少し笑う。
勇気「ああ、そっかそっか。で、どうしたの?」
耕平はゆっくりと顔を上げて勇気を見る。
耕平「俺さあ、だ、ダンス部に入りたいんだ」
勇気は何も言わずにただただ耕平を見つめる。
耕平「あ、いや、別に、いや、う~ん、まぁ、うん、そう、、、、」
耕平はゆっくりと下を向く。勇気は唾を飲みこむ。
勇気「・・・お前、ダンスやりたいの?」
耕平はちらっと勇気を見る。
耕平「・・・うん、、、」
勇気「っほぉ~、そう来たか~、え、でも何で急に?」
耕平「まぁいいじゃん、ダンスがやりたくなったんだ」
勇気「いやいや、だって小説書けなくなるでしょ?うちのダンス部クソ忙しいらしいから、てかそもそもお前が小説よりも何かを優先させてる時点で相当おかしいよね?」
耕平「・・・うん、そうかもね、でもやりたいんだよ」
勇気「だから何で?よっぽど何か理由があるってことでしょ?」
耕平「・・・いいよ、そこは、、、」
勇気「嫌だよ、俺が嫌だ」
耕平「、、、、、」
勇気「だってお前、俺らこれから小説書くんだよ?俺めっちゃ影響受けんじゃん」
耕平「・・・うん、ごめん、、、」
勇気「いやだから、お前が心の底からやりたいことならさぁ、そりゃもちろん応援するよ?でもまずは理由を教えてくれないとさ、始まらないじゃない?」
耕平は大きく深呼吸をし、目をギュッと閉じてからゆっくりと勇気を見上げる。
耕平「・・・好きなんだ」
耕平は再び大きく深呼吸をする。
耕平「・・・三原さや香さんが好きなんだ。彼女に近づきたいんだ。だからダンス部に入りたい」
勇気「・・・」
耕平「・・・他に方法がないんだ。この一年間過ごしてきて、まるで接点がない。教室でいきなり話しかけることなんて恐れ多くて出来ない。なら、もう同じ部活に入っちまえって思ってさ、、、」
勇気はスゴイ話を聞いた様子で首を傾げならが息を吐き出す。
勇気「何かスゲーな」
勇気はふと笑って耕平を見る。
勇気「つまり三原さや香とヤりたいからダンス部に入りたいと」
耕平「ち、違うよ!何でお前はすぐそういう話に持ち込むんだ」
勇気「違わねーだろ、好きな女とヤりたくて行動するのが男ってもんだろ?今回の小説のテーマだってそれだ」
耕平「官能小説と一緒にしないでくれよ、俺はそんな、別に三原さんとセックスしたいとか、そういうのじゃねーんだ、、、」
勇気「本当かよ、ぜってぇーウソだな」
耕平「話題が逸れてるよ。とにかく、俺ダンス部に入るから、その、官能小説の方は、あまり参加できないと思う、、、」
勇気は一気に息を吐き出す。
勇気「まぁ~、そうなるよなぁ~。正直、結構残念だな。俺の中では待望のコラボだったからな。でもまぁ~、う~ん、週に2,3時間だけでも時間捻出できたりしないかな?」
耕平「多分難しいんじゃないかな?高2から入る訳だから、皆より大分遅れてるし、居残り練とかもする必要あるだろうし」
勇気「そっか。分かったよ、小説は俺一人で書き進めるよ」
耕平「うん、ごめんね、勇気」
勇気「うん、でも、お前小説への熱を失った訳じゃないよな?一応の確認なんだけど」
耕平は「え?」という表情で勇気を見る。
勇気「何か今の話聞いてると、完全に小説の優先順位が三原さや香の下になってるなって思って。お前まさか小説を捨てる気じゃないだろうな?」
耕平はとても困った様子で下を向く。
勇気「三原さや香に今ガチで惚れこんでて、三原をものにするためにダンス部に入るっつうのはまだ分かるよ、でもそれで小説を捨てるっつうなら、お前それは絶対に許さねーぞ」
耕平「、、、何でそんなこと言うんだよ、、、」
勇気「は?だって小説はお前の全てだからだろ!ずっとやってきたじゃねーかよ!小説!読んで!書いて!また読んで!って!お前ずっと小説家になりたいなりたいって言ってたじゃねーかよ!それを女ごときに捨てちまうのかよ!違うだろ!!」
耕平「うるせぇよ!」
耕平は勇気を見る。
耕平「うるせぇよ、俺は地味なのがもうウンザリなんだよぉ!ずっと日陰に隠れて小説書いて、読んでって、いくら書いても何も変わらねーじゃねーかよ!お前ダンス部の奴ら見たか?一回文化祭で踊るだけで、ずっとキャーキャー言われてんだぜ?俺らが何倍もの時間をかけて小説書いたところで、誰一人感心すらしないぜ?陰キャ2人が書いた小説なんて?俺は報われたいんだよ!努力が報われて欲しいんだよ!でもそれは陰キャじゃできない。表舞台に立たないとできない。そして表舞台に立って、やっと、俺の努力は報われ、キャーキャー言われ、そこで遂に!三原さんに男として見てもらえる。こんなクソみたいな生活にはもうウンザリなんだよ!!!」
耕平は肩を揺らしながら激しく呼吸している。勇気は目を大きく開け、信じられないものを見るように耕平を見ている。勇気は一瞬下を見てから耕平を見る。
勇気「帰れ」
耕平はただただ勇気を見ている。
勇気「お前そんな風に俺らの小説のこと思ってたんだな、正直お前殺せるわ、今俺お前殺せるわ」
耕平はただただ勇気を見ている。
勇気「早く帰れ、さっさと帰れ!」
耕平は数秒間勇気を見つめた後、ゆっくり立ち上がり、そのまま振り返らずに部屋を出て行く。ドアが閉まると、勇気は手に持っているペンを前方にある壁に思いっきり投げつけ、座卓の上にあるノートを思いっきり地面に投げ捨てる。勇気は血走った眼で肩を揺らしながら激しく呼吸している。
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