鬼のなく島

玄門 直磨

第1話 到着

 わたみきったあおそら

 ほほをなでる心地ここちよいなつ潮風しおかぜ

 たのしげに会話かいわするカモメたちごえ

 青白あおじろひかうみ絨毯じゅうたん

 そのうえすべるようにはし大型おおがたのクルーザー船。

 そして、デッキにひび不快音ふかいおん

「――っうえええ」っとデッキのすりから海面かいめんりだし、なか朝食ちょうしょくごといている山下信一やましたしんいち

 それが、不快音ふかいおん発生源はっせいげんだ。

 はそのおと発生源はっせいげんへとデッキチェアにこしかけたままかおだけをける。

「だからあれほどめのくすりみなさいってったのよ」

 信一しんいちよこ大友夏希おおともなつきが、不平ふへいこぼしながらもその背中せなかさすっている。

「うるせぇな。コレぐらい平気へいきだっ――うっぷ」

 その夏希なつき言葉ことばたいして反論はんろんこころみようとしたようだが、あえなく失敗しっぱいわった。

まったく、あんたのせいでもらいゲロしたらどうすんのよ、このヘタレ!」

 そんな信一しんいちたいし、夏希なつき反対側はんたいがわっていた各務麻由葉かがみまゆはさんがどくづいた。

「この場合ばあいはゲロタレ、いやゲタレが的確てきかくだろうな」

 おれ清々すがすがしい気分きぶんがいされたうらみをふんだんにめてった。

二人ふたりとも、それはちょっとひどくない?」と、夏希なつ信一しんいち擁護ようごする。

「だって事実じじつじゃない、このゲタレ!」

 各務かがみさんは言葉こどばだけではあきたらず、信一しんいちしりりとばす。

「いてっ! あぶね~な。ちたらどうすんだよ、まゆっち」

 信一しんいちすりにもたれかり、こう口許くちもとぬぐいながら各務かがみさんに抗議こうぎする。

「おかしいなぁ、ぼくとすつもりでったんだけど?」

「なっ――。くそっ、あとおぼえてろよ。うっ――」

 信一しんいちは、そうつぶやきながらまたかお海面かいめんし、げる朝食ちょうしょくとの格闘かくとうもどった。

「まぁ、ゲタレなんかほおっておいていいか」

 信一しんいちいじりにきたのか、各務かがみさんはおれとなりのデッキチェアに腰掛こしかけ、そして潮風しおかぜ胸一杯むねいっぱいむようにいきった。

「はぁ~、空気くうき美味おいしい」

 そしておおきくのびをする。くろいポニーテールが海風しおかぜにゆれる。

「お~い、もうすぐくってよ」

 ぼうっと各務かがみさんのことていると、キャビンのほうからおとここえがした。

 そしてすぐに、キャビンの出口でぐちあたまをぶつけないようにをかがめながら、二階堂晃にかいどうあきらてきた。となりにはかぜでなびくロングヘアーを片手かたてさえながら、鳴沢唯なるさわゆいっている。

 二階堂晃にかいどうあきら今回こんかい旅行りょこう立案者りつあんしゃだ。

 おれたち六人ろくにんは、中学ちゅうがく夏休なつやすみを利用りようしてあきらおや所有しょゆうするしまかっている。

 あきらおや大企業だいきぎょう社長しゃちょうだ。

 二階堂にかいどうグループ。

 このくにでも五本ごほんゆびかぞえられるほど巨大きょだい企業きぎょうだ。

 元々もともと製薬会社せいやくがいしゃだったが、いま不動産業ふどうさんぎょう建設業けんせつぎょう飲食店いんしょくてんチェーン、重工業じゅうこうぎょうにと多岐たきわたる。そんな大企業だいきぎょう一族いちぞくであるあきらだが、金持かねもちをはなにかけたことい。

なかかねだけじゃねぇよ」

 それがあきら口癖くちぐせだ。

 いまっているクルーザーはあきら叔父おじ雄二ゆうじさんが所有しょゆうするクルーザーで、雄二ゆうじさんにしままでれていってもらっている。

 いま無人島むじんとうではあるが、むかし製薬会社せいやくがいしゃ研究棟けんきゅうとうで、新薬しんやくなどの研究けんきゅうをしていたらしい。

たのしみね、わたし無人島むじんとうとかってみたかったのよ」

 献身的けんしんてき信一しんいち介抱かいほうつづける夏希なつきが、らんとひとみかがやかかせる。

関東近辺かんとうきんぺんうみちがって人混ひとごみみなんていからな。しかも、今回こんかい親族しんぞくもいないから他人たにんにしなくていい」

「それすごくしいよね、ナンパ野郎やろうとか、盗撮変態野郎とうさつへんたいやろうとかいないから安心あんしんできるし」

 過去かこいやったのか、めずらしくゆい言葉ことばにはトゲがあった。

「なぁあきら無人島むじんとうだからやっぱりうみいえいんだろ? あったらおれうれしいんだけどな」

 おれすこ残念ざんねんがってみせる。べつ本心ほんしんからそうおもっているわけではないが。

「おい秋人あきと、おまえなぁ、なにたりまえなことってるんだよ。それに、たとえあったとしてもだれうもいえりしてんだよ」

「おまえおやしまだろ? そりゃあきらまってんじゃん。みんな招待しょうたいするんだから、準備じゅんびしておくのがたりまえじゃないのか」

「なぁにがたりまえだ。じゃあ、おまえ時給じきゅう百円ひゃくえんぐらいではたらかせるよ」

「ひでぇ、最低賃金以下さいていちんぎんいかじゃないか」

 おれべつうみいえはたらきたいわけじゃない。かきごおりとか、あの普段ふだんべたら別段べつだん美味おいししくないラーメンがべたいんだ。

「ダメだよ、中学生ちゅうがくせいなんだからアルバイト禁止きんしでしょ?」

 そこに、すこしずれたゆいみがはいる。

「そうか、じゃあタダばたらきにしよう。それならアルバイトにはならないからな」

「うん、それなら大丈夫だいじょうぶだね。わたし宇治金時うじきんときね」

 やはりずれたゆい言葉ことば

 しかし、相変あいかわらわらずゆいはほんわかとした可愛かわいらしいかお似合にあわずしぶ趣味しゅみをしてらっしゃる。

「だから……、まぁいいや」

 おれ否定ひていしようかとおもったが、勘違かんちがいのはじまったゆいかんがえを訂正ていせいするのには、物凄ものすごほねれる。

石川君いしかわくんじゃなく、そこのゲロにやらせればいいのよ。ばつとしてね」

 各務かがみさんがいまおのれ格闘かくとうつづける信一しんいち指差ゆびさす。

だれがゲロだよ。それにうみいえ自体じたいいし、しかもばつって、おれなにわることしたか」

 もはや人間にんげんあつかいすらされなくなった信一しんいちちからなく抗議こうぎする。

僕達ぼくたち不快ふかいおもいをさせた。そして、夏希なつきわずらわせた。十分じゅうぶん万死ばんしあたいするわ」

 各務かがみさんの言葉ことば毒針どくばり信一しんいち眉間みけんさる。

「そうね、きそばとフランクフルトでもおごってもらおうかしら」

 各務かがみさんの言葉ことばに、いままで信一しんいち擁護ようごしていた夏希なつきった。

「ちっ、勝手かってってろ」

 信一しんいち夏希なつきつめたくあたり、ふらふらとあるきだす。

「ちょっと、どこくのよ。あたしは冗談じょうだんだってば」

 そのあと夏希なつきける。

「うるせぇ、なかよこになるだけだよ。いちいちいてくんな!」

 信一しんいちはそうてると、船内せんないえていった。

 おれ呆然ぼうぜんとする夏希なつき背中せなかつめた。

 あいつの性格せいかくむかしからわらない。えずだれかの世話せわをしていないとがすまないのだ。

 むかしおれあきらがその対象たいしょうであったが、中学ちゅうがくはいってしばらくたったころから信一しんいち世話せわくようになった。

 正直しょうじき、そのことでおれすこしほっとした。夏希なつきのお節介せっかいきはほんとにぎる。

 おれあきら毎日まいにち弁当べんとうつくってくるわ、風邪かぜをひいて学校がっこうんだなんかは、夏希なつき自身じしん学校がっこうんできっりで看病かんびょうをしてくる。

 おれ大丈夫だいじょうぶだとっても、『ちゃんとおとなしくているか心配しんぱいだ』といってずっとそばで見張みはっている。

 たしかに、やすみにかこつけてゲームをしようとおもったりしたことは事実じじつだが、そこまでべったり看病かんびょうされても窮屈きゅうくつすぎるだけだ。

 あきらもその被害者ひがいしゃではあるが、基本きほん家族愛かぞくあいえているあいつは、そこまで迷惑めいわくではかったようなふしがある。

 あきら看病かんびょうするときなどは、あいつのいえにいるお手伝てつだいさんをしめしてまで看病かんびょうをしたそうだ。もはや夏希なつきのお節介せっかい病気びょうきってもいいだろう。

 しかし、なぜお節介せっかい対象たいしょう信一しんいちになったのかいまだによくわかっていない。

 おれあきら夏希なつき、それにゆいおな小学校しょうがっこう出身しゅっしんだ。だが信一しんいちちがう。

 信一しんいちとは中学ちゅうがく入学にゅうがくしてからおれあきら意気投合いきとうごうし、自然しぜん夏希なつきゆい信一しんいち交流こうりゅうをもつようになった。

 そして、いつのにか夏希なつき信一しんいち世話せわくようになっていた。

 各務かがみさんは信一しんいちおな小学校しょうがっこう出身しゅっしんであり、必然ひつぜんおれらのなか各務かがみさんもまじった。

 しかし、おれ自身じしん各務かがみさんとはあまりはなしたことがない。

 べつきらいだとか、生理的せいりてきわないとかそういうことではないが、二人ふたりきりだとあまり会話かいわはずまない。

みんなて。しまえたよ」

 ゆい歓喜かんきこえ一同いちどう前方ぜんぽうる。

 いままで、三百六十度さんびゃくろくじゅうど水平線すいへいせんだったあお絨毯じゅうたんはしに、木々きぎしげったしまえた。

あきら、あのしまなの?」

 夏希なつき興奮気味こうふんぎみにたずねる。

「ああ、そうだぜ。あれがおにじまだ」

「なんか、あんまりいネーミングじゃないよね」

 幽霊ゆうれい怪物かいぶつ魑魅魍魎ちみもうりょうたぐいが苦手にがてゆい苦言くげんらす。

「うぅ~、わくわくする」

 それとは対象的たいしょうてきに、夏希なつき嬉々ききとして身体からだらしている。

はやまってこっからむなよ」

 おれはそんな様子ようす夏希なつき茶化ちゃかす。たしかにしま群生ぐんせいする木々きぎあいだからえる荒廃こうはいした建物たてもの冒険心ぼうけんしんをくすぐる。

 夏希なつきのテンションががるのも無理むりはないだろう。

なに? あたしと水泳すいえい勝負しょうぶしようっての? 度胸どきょうしてるじゃない」

 夏希なつきおれ揶揄やゆたしじょうったらしい。おれもそれにけじと応戦おうせんする。

「まさか。河童かっぱてるわけないだろう」

 べつ夏希なつき本当ほんとう河童かっぱであるわけじゃない。たしかにオカッパのようなショートヘアーだが。

 夏希なつき水泳部すいえいぶで、県大会けんたいかいはおろか全国大会ぜんこくたいかいでも入賞にゅうしょうするほどの実力者じつりょくしゃだ。おれ水泳すいえい得意とくいほうだが、レベルがちがいすぎる。

秋人あきと、おそれ地雷じらいだぜ」

 あきらあきれたようかたをすくめる。

 河童かっぱ、もとい夏希なつき一子相伝いっしそうでん暗殺拳あんさつけん伝承者でんしょうしゃごとゆびらしながらゆっくりとちかづいてくる。

夏希なつきわるかった、ちょっとけ。がマジだぞ」

 おれいのち危険きけんかんじ、身構みがまえる。

遺言ゆいごんは、それだけ?」

 おれにもしスピリチュアルな感性かんせいがあったなら、夏希なつき背後はいごなオーラがえたことだろう。

かった。おまえきなプリンおごってやるから」

 その言葉ことばにピタリと夏希なつきあしまる。夏希なつき無類むるいのプリンきだ。あまものはプリン以外いがいみとめないとるほどのプリンき。今度こんどからプリンシパリティとでもんでやろうか。

「パティスヘブンの?」

「そうそう、それそれ。あのたかいやつ」

 パティスヘブン。最近さいきん駅前えきまえ出来できたスイーツ専門店せんもんてんだ。世界的せかいてき有名ゆうめいな三ツみつぼしパティシエがつくったみせらしい。しかし、その名前なまえとは裏腹うらはらに、値段設定ねだんせってい地獄じごくだ。たったのプリン一個いっこ野口先生のぐちせんせい三人さんにんえるほどの高級こうきゅうささ。正直しょうじき中学生ちゅうがくせい小遣こづかいでうのはむずかしい。それになにより、おれはプリンにたいしてそれほどの価値かちいだせない。一体いったい、どこにそんなおかねをかけているのだろうか。技術料ぎじゅつりょうだとしたらぼったくりすぎだろう。それでも毎日まいにちれるほどの人気にんきぶりだ。なにか中毒性ちゅうどくせいがあるのかもれない。

「んふふ、それならゆるしたげる」

 夏希なつき不気味ぶきみみをかべ納得なっとくしたようだ。たと地雷じらいんでも、信管しんかんはずかたさえっていれば問題もんだいはない。まぁ、夏希なつきにしたって本気ほんきおこったわけではないとおもうが。

夏希なつきばっかりずる~い」

 ゆいがうらめしそうなこえはっする。

「そうね、ゆいぶんいでしょ?」

 有無うむわせない夏希なつき笑顔えがお圧力あつりょくおれ渋々しぶしぶうなづく。さようなら、今月こんげつ小遣こづかい。

ゆいぶんならおれはらってやるよ」

 あきらすくいのしのべてくる。おぉ、貴方あなたかみか。

「じゃあ、ぼく信一しんいちおごらせよう」

 各務かがみさんの小悪魔的発言こあくまてきはつげん女性陣じょせいじんてきにまわすと厄介やっかいだと再認識さいにんしきする。

 そんな大和撫子やまとなでしことはほどとお女性陣じょせいじんたちにこれ以上いじょうかかわらないようにクルーザーせん進行方向しんこうほうこうる。

 すでにしま視界しかいすべてをおおかくすほど近付ちかづいていた。

 かりがともっていない灯台とうだい

 そして、まるで要塞島ようさいじまのような断崖絶壁だんがいぜっぺき

 ここはむかし監獄島かんごくとうでした、とわれても納得なっとくしてしまいそうなほどだ。


 さらにしまちかづき、外側そとがわをぐるりとまわむ。クルーザーせん速度そくどち、そして、すべるように堤防ていぼう接岸せつがんした。

「ほら、いたぞ」

 あきら叔父おじである雄二ゆうじさんが操舵室そうだしつからあらわれる。まるで一昔前ひとむかしまえのトレンディ俳優はいゆうよう風貌ふうぼう若大将わかだいしょうという言葉ことばがピッタリだ。

叔父おじさん、がとうございます」

 あきら代表だいひょうしておれいう。夏希なつき信一しんいち心配しんぱいしてか、いちはや船内せんないへとはいる。ゆい各務かがみさんもそれにつづく。

「いやぁ、青春せいしゅんだなぁ。おれむかしおもすよ」

 そうってよくけたかおからしろをのぞかせる。その仕草しぐさ自然しぜんで、とてもさわやかだった。

「で、晃君あきらくんだれねらい?」

 前言撤回ぜんげんてっかい

 さわやかさのうらかくされた本性ほんしょう垣間かいまえた。一体いったいこのさわやかさに何人なんにん女性じょせいだまされたんだろうとふとおもってしまう。

「ちょっと、なにってんですか叔父おじさん」

「ははは、冗談じょうだんだよ。まぁ、存分ぞんぶん青春せいしゅん謳歌おうかするんだな、青少年達せいしょうねんたちよ」

 雄二ゆうじさんはわらいながらあきらかたはげしくたたいた。そのセリフにジェネレーションギャップをかんじる。

「ちょっと~、荷物にもつはこぶの手伝てつだいなさいよ~」

 さき船内せんないはいっていた女性陣じょせいじん文句もんくこえた。いまくよとげ、あきら船内せんないはいる。

 するとそこには、いままで船酔ふなよいでダウンしていた信一しんいち大量たいりょう荷物にもつたされていた。左右さゆうかたにクーラーボックスをさげ、両手りょうてにもスポーツバッグをふたつ。そして、こしには空気くうきはいった

 だれだ、ふくらませたやつ。

秋人あきと~、あきら~、たすけてくれ~」

 流石さすが一人ひとりでその荷物にもつ運搬うんぱんするにはとてもほねれるだろう。なんせクーラーボックスには三日分みっかぶん食料しょくりょうがぎっしりまっている。

 三泊四日さんぱくよっか、それが今回こんかいのキャンプの計画けいかくだ。

 無人島むじんとうであるがゆえ、コンビニエンスストアは存在そんざいしないし、電気でんきやガス、水道すいどうなどもいまていないらしい。

 そのため、必然的ひつぜんてき食料しょくりょうみず大量たいりょうになる。

 おれ自分じぶん荷物にもつと、信一しんいちっているクーラーボックスの片方かたほうった。

 クーラーボックスのベルトがずしりとかたむ。このままうみちたら確実かくじつがってこれないだろうなと、ひとりごちる。

「そのためのか!」

 おれ突然とつぜん発言はつげん一同いちどうくびかしげる。

秋人あきと、おまえ大丈夫だいじょうぶか?」

 いままでダウンしていた信一しんいちぎゃく心配しんぱいされてしまった。

「いや、もしこの荷物にもつ間違まちがってうみちたらしずむだろうなとおもって。だから、そのためにをしてるのかと」

なんだ、そんなことか。ちがうよ、これはまくらわりにしてたんだよ」

 信一しんいちがケラケラと笑う。

船酔ふなよいしてたのに、ふくらませる元気げんきはあったんだな」

「いや、それがよ、あきら叔父おじさんにもらったくすりんだら、すぐにくなったんだよ。さすが二階堂製薬にかいどうせいやくだよな」

 信一しんいち関心かんしんしたようにウンウンとうなづいている。

「ねぇこうよ」

 うみおよぎたくて仕方しかたないのか、夏希なつきがはやしてる。

 おれはその言葉ことば賛同さんどうし、雄二ゆうじさんにおれいってからクルーザーをりる。

 その面々めんめん続々ぞくぞくりてくる。

「それじゃ、存分ぞんぶんたのしめよ」

 雄二ゆうじさんはそううと操舵室そうだしつ姿すがたした。

 クルーザーせんはゆっくりと離岸りがんし、旋回せんかいするとしま反対側はんたいがわえていった。雄二ゆうじさんもいそがしいらしく、むかえにてくれるのは三日後みっかごだ。それまではそと世界せかいとは遮断しゃだんされることになる。日本近海にほんきんかいではあるが、携帯けいたい電波でんばはいらないという。

 ためしに携帯けいたい確認かくにんしてみたが、アンテナマークすら表示ひょうじされなかった。

 何事なにごともなく、三日間みっかかんたのしくみんなごせればいいなと、おれこころなかでつぶいた。

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