第15歩 小さい頃の記憶

「どういうことですか?」


「そのままの意味だ。君が小さい頃、私たちと会っていたんだ。まあ、君は小さかったし、覚えていないとは思うけど」


 確かに、まったく覚えていない。……言われてみれば、ぼくがベンチで寝ていたあの日、青咲さんはぼくの名前を知っていた。能力の話になったから、ぼくの名前ぐらい分かるか、なんて適当にスルーしたけど、青咲さんの能力って【相手の生活を覗く】だし……いや、でも、いぶきと青咲さんは知り合いなんだから、能力は関係ないか。


「ぼくが小さい頃……」


「ほら、あれだ。能力者会議。日雀君も小さい頃は通っていただろ?」


「能力者会議……」


「風吹が嫌いなやつな」


「じゃあ、いぶきともそこで知り合ったんですか?」


「というか、君たち2人と知り合ったんだ。同じ日、同じ場所」


「俺は、別に嫌いじゃなかったから、能力者会議には毎回参加してたんだよ。今も、回数は減ったけど、行ってるよ」


「ほう」


 だからぼくは青咲さんのことを忘れているのか。でも、正直少しも思い出せない。


「まあ、あれだ。日雀君に関しては、仕方がないと思う。……これも言ったほうがいいか。君は色々あって、少し記憶を消しているから」


「なっ?!?!」


 記憶を消した……というのはどういうことだ。


「本当に申し訳ない。あまり話せる内容ではないから、腑に落ちないと思うが、本部の都合で君の幼少期の一部の記憶を消した。だから、私たちのことも覚えていない。いぶきとの記憶は、出会いから数日の記憶だけないみたいだが」


「言われてみれば……」


「そういうわけで…………というわけにはいかないな。今の話も踏まえて、検証の仕事を引き受けるか考えてくれ」


 青咲さんがいぶきの服を引っ張りながら、また今度とぼくに言った。2人が帰ってから数分、ぼくの頭はきれいに空っぽで、何を考えればいいのかわからない、というより、小説だかドラマだかの話をされたような気分だった。

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