Day13 切手

 居間の引き出しから何冊かの切手のコレクションファイルを見つけた。祖父曰く、祖母と二人で切手を集めるのが趣味だったのだという。

 随分と古いものから、よく見る八十三円の切手まで、等間隔に様々な切手が収められていた。

「この切手は婆さんが大変欲しがっていた物だったなぁ」

 ファイルを捲る祖父は実に懐かしそうだった。

 そのコレクションの数々には、祖父と祖母の思い出が詰まっているのだ、と思うと少し不思議な感じがする。言ってしまえばただの紙切れだ。それに意味を付けることで、価値が何倍にも膨れ上がる。それが私には不思議でたまらなかった。

 人間は無から有を生み出せる生き物なのだ、と実感する。それ故に、人間は有を無にすることもできるのだろうか。人の手にかかれば、なんだって『終わらせられる』。形あるものから意味を奪うだけで、人は簡単に物事に『終わり』を与えられる。

 私はゾッとした。なんて身勝手な生物なんだろう。与奪を繰り返しながら人はひたすらに『終わり』に向けて歩んでいく。必ず終わるのに、それまでの過程に意味付けする意味はあるのだろうか。終わってしまえば、何も残らないのに。努力も、素敵な思い出も、全部、全部。

 私はどうして『終わりたい』と思っていたのだろう。心も身体も綺麗なうちに終焉を迎えたいから?それとも、意味付けに対する意味を見失ってしまっていたから?

 よく分からなくなった私は、コレクションファイルを抱いたまま、祖父をただ見下ろしていた。

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