第1章 ニューヴェル

相談

「―――え? 相談?」



 携帯電話を片手に、実はそんな素っ頓狂な声をあげた。



「ああ。今から、時間あるか?」



 電話口の向こうから、どことなく暗い拓也の声。



「まあ、今日でテストは終わったし、行けないことはないけど……珍しいね。」

「なんだよ、おれが相談事をするのは変か?」



「いや? 拓也は終始、悩み事に明け暮れてそう。」

「お前だって、人のことを言えるのかよ。」



 溜め息混じりに拓也が言い返してきたので、実はくすくすと笑う。



「分かった。ちょうど学校帰りだし、十分くらいでそっちに行けると思う。」



 それから軽い会話を交わして、実は電話を切る。

 そして、携帯電話をポケットにしまうと―――



あつ…」



 ネクタイを緩めながら、清々しい快晴の空を見上げた。



 地球の季節は初夏。

 梅雨も明け、じっとりとした蒸し暑さは、突き刺すような厳しい暑さに変わりつつあった。



 じとじととした気持ち悪さは消えたものの、その代わりにだるような暑さが全身を包む。



 この雲一つない快晴の空も、今は忌々いまいましく思えて仕方ない。



 梅雨が明けたと思ったらすぐにこれだ。

 早く快適な室内にこもりたいものである。



「さてと。拓也の所に行くんだったら、戻らなきゃ。」



 目的地の変更に伴って、実は今歩いてきた道を引き返す。



 それにしても、あの拓也が相談事とは珍しい。

 いや、相談事自体は珍しくないのだ。



 珍しいのは、拓也が相談事を自分に持ちかけてきたこと。

 その一点に尽きる。



 拓也なら、相談事は全て尚希にしていることだろう。



 一緒に暮らしているのもあるし、実際に拓也が一番信用しているのは尚希なのだから、大抵の相談事は尚希にすれば済むはずだ。



 それを、わざわざ自分にするということは……



(尚希さん絡みか……)



 そうとしか考えられなかった。



(でも、やっぱりなんだろう…?)



 予想はついても、いまいちピンとこない。



 拓也が尚希に関して、何を悩むのだろうか。

 結局首を傾げながら、実は一人住宅街の中を歩くのだった。



「……あ、そうだ。」



 途中、そんな呟きを漏らしながら。


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