恋する山田

高歯々たか歯

第1話 山田のファーストコンタクト

私の名前は山田。

私立右利き高校に通うフレッシュな女子高生だ。

そんな私は今、高速道路を全力で走っている。

勿論車ではなく生身で、だ。

これを聞いて私のことをとんでもない交通法違反野郎だと思うかもしれないが、私にはこうせざるを得ない事情があるのだ。

ちょっと長くなるけど聞いてほしい。

話は私が生まれた日に遡る……



ー16年前、私は小さな農家で産まれた。

そして私はきちんとした教育を受け、可愛い妹と二人の優しい法定代理人から素晴らしい愛情を受けて立派に成長した。

私の人生は、順調だった。

だが、今日の朝、事件が起きた。

気持ちよく目覚めた私が一番最初目にしたものは、いつもより大きく進んだ時計の針だった。このままでは学校に遅刻してしまう。

そう思った私は賢い頭をフル回転させてこの状況を打破できる方法を考えた。

家から学校まで、電車を使っても40分はかかる。

今から駅に向かって走ったところで朝のホームルームには間に合わないだろう。

だがタクシーを使うのは全財産4円の私にとっては不可能だ。

さて、どうしたものか……。

そうだ、自分の足で走ろう。

私は頑張れば時速90キロくらい出るので、多分間に合うだろう。

私は力強く玄関から一歩踏み出し、学校に向かって全力で駆け出した。


…というわけだ。

鳴り響くクラクションをものともせず走っていると、後ろから気になる音が聞こえた。

タイヤの音でもエンジンの音でもない。

一定間隔で地面を蹴る、人の足音だった。 しかも凄い勢いで私に近づいている。

私は今時速94キロで走っているのに、それをゆうに超える速度で走るなんて。

普通に考えて人間ではないだろう。

私は正体を確かめるべく立ち止まり、後ろを振り向いた。


 次の瞬間、私は何かに突進され勢い良く吹き飛ばされ、3mほど吹き飛んだ。

「ちょっと、どこ見て走ってんのよ!!!」

そう叫びながらぶつかってきた奴の方を睨んだ。

そして私は、息を呑んだ。

何とそこにいたのは、今まで見たこともないほどのイケメンだった。

血色の良い肌に、吸い込まれるような黒髪。日本人離れした色素の薄い目はまるで宝石のようだった。

怒りも忘れ暫くその顔に見惚れていたが、学校に行く途中だったことを思い出し、後ろ髪を引かれながらも再び走り出した。

そして、約20分後。

普通に遅刻した私は、教頭に「次遅刻したら退学だ」と言われたけど気にしないことにして自分の教室である2年1組に入り、自分の席についた。

担任の金本先生の「今日のポエム」を聞きながら、私は先程のイケメンについて考えた。


…あれ程のイケメンは世界中を探してもおそらく見つからないだろう。

あの時連絡先を交換しておくんだった。

ていうか私、ぶつかって吹き飛ばされたんだから訴えたら慰謝料200万くらい貰えたんじゃないだろうか。

そんなことを考えていると、今日のポエム「俺の右くるぶしがちょっと固い話」を話し終えた金本先生が言った。

「今日は転校生が来ます。」

教室内が一気にざわついた。「入ってください。」

ドアがガラガラと開き、一人の少年が入ってきた。

彼の顔を見て、私は驚いた。

どれくらい驚いたかというと、水筒の中身が全部タルタルソースに変わっていたときくらいの驚きだ。

少年は言った。

「バチカン市国から来ました。佐倒 場巣魔時繰輪(さとう バス○ジックリン)です。」彼、いや佐倒君は、今朝ぶつかったイケメンだった。

「それじゃあ、佐倒君はどこか開いてる席に…」

金本先生の発言を聞いた私は瞬時に隣の席の田島くんを窓の外に投げ飛ばし、手を挙げて言った。

「先生、私の隣には誰もいません!」

「じゃあ佐倒君は山田さんの席の隣に座りなさい。」

私は喜びのあまり開脚前転をしながらガッツポーズをした。

佐倒君が隣に座ると、私は早速話しかけた。「佐倒君、朝高速道路を走ってたよね?」

佐倒君は大きな目をさらに大きくして言った。

「え、なんで知ってるの?」

「私も今日走ってたから!」

佐倒君は少し考えて、思い出したように言った。

「もしかして、朝ぶつかった子?」

「そうそう!」

覚えていてもらったのが嬉しかった私はヘドバンして全身で喜びを表現した。

「じゃあさ、今日一緒に帰らない?今まで高速道路を走って通学する人に会ったことがなくて、だから君に会えてとても嬉しいんだ!」

誰かと通学したことがないのは私も一緒だ。なのでこの申し出は私にとってとても嬉しいものだった。

と言っても、私は単純に一緒に行く友達がいなかったからなのだが。

ともかく断る理由などあるはずもなかったので、私は元気よく言った。

「勿論、一緒に帰ろう!」


私はこうして、彼と友達になったのだった。




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