BLACK CAT(人類VS魔族)

黒星リウ

???

パサッ...ペラッ

何度も見直した資料を机に投げやりカーラは大きく伸びをした。一枚の資料は山積みの本に弾かれ音を立てて床に落ちる。

「うーん...!」

このところずっと研究に打ち込んでいる。カーラは口元を触りながら思考を巡らす。

「身体能力、魔力の増強..ここまでは良いが適合者があまりに少ないな..それに..」

長い髪をまとめ床に落ちた資料に目をやる。見つめられた瞬間資料は魔法によって床から持ち上げられカーラの手元に舞い戻る。

「ふーん...」

何度見てもため息が出る。試作段階までは来たけど問題が多い。この研究さえ上手く行けば帝国軍に勝てるはずなのに。年々戦力の差が開き、このままでは私達は負けてしまう。自軍の戦力数が少ない分個々の戦力増強が必須だ。

「このペースだと先に私たちの軍が押し切られて負けるなぁ」

ため息をかき消すように部屋のドアが開く。

「カーラ様、お茶菓子を持って来ましたよ。」

ドアには細身の女性がクッキーと紅茶を皿の上に乗せて運んできた。白と黒を基調としたコート服に身を包み、彼女は軽く会釈をする。

「ありがとう助かるよ。」

にこやかに彼女の方を見てカーラはそう告げる。

「いえいえ、カーラ様のお世話をするのも私の役目ですから」

部屋に入って来た時からも笑顔が滲み出ていたが、お礼の言葉を聞いてより一層明るい笑顔を返してきた。紅茶の良い香りとクッキーを味わっていると彼女は心配そうな顔でのぞき込んでくる。

「カーラ様は少し研究に没頭しすぎです。少しは外へ出るべきです。」

プンプンと頬を膨らませながら肩を揉んでくる彼女がとても愛おしかった。

「ありがとう、でも試作段階に入ってもう少しなんだ」

背もたれにもたれこみ、彼女のマッサージに身を委ねる。心地良い力加減は、研究疲れの身にはよく効く。

「そんなのは関係ありませんよ」

肩を揉む手を止め頬をつついてくる。ツンツンと子供みたいだ。

「私が訓練に明け暮れていた時に、『休憩がないと逆に効率が悪い』といったのは誰ですか?」

私に似ているのか分からない物まねをし、また肩を揉み始めた。

こいつ何か企んでるな、そう感じつつも乗ってやることにした。

「確かに言うとおりだ、休むためにどこかへ行こうか。どこか当てはあるかい?」

「はい!実は城下町でアイスというものが流行っているそうなんです!食べに行きましょう!」

椅子に首をもたれ掛け彼女の方に顔を向ける。彼女も顔を覗き込んでくる。上下反転のまま二人は見つめ合い、カーラは両頬をいじられている。目をキラキラと輝かせる彼女を見るとついつい意地悪を言ってしまう。

「アイスが食べたいために私を説得するなんてな」

カーラはツンと彼女の鼻をつついてやる。彼女は頬を膨らませてるがやや赤くなっていた。

「ずっと研究で一緒にいれなかったじゃないですか。カーラ様とお話したいです」

カーラは姿勢を直し、彼女に向き直る。丁寧な所作でその場に立っているが彼女の顔は少し赤い。もじもじしている彼女の手を取り、カーラは席を立った。

「仕方ないなほら行くぞ」

赤くなって俯く彼女の手を引っ張り、本や資料を片付けることもなく二人は研究所を後にした。


大きめの扉を開け、二人は外へと出る。研究所の外はカラカラとした陽が広がり、夏を感じさせる。

「カーラ様?」

「どうした?」

「えへへ」

彼女は嬉しそうに口元を隠し笑っている。止まることもなくスタスタとカーラは歩くが背も歩幅も小さい。楽々と追い付いてくる彼女は隣でニコニコしている。

しばらく何もない坂道を下ると城下町が見えてきた。噴水が設置された広場を中心に住宅と店が並んでいる。わいわいと賑やかな人だかりが出来、いい匂いが漂ってくる。

「わぁ!カーラ様見てください。あれも、あれも、美味しそうな店がたくさんですよ!」

「見えてるから落ち着け」

久しぶりの外出に高揚し彼女の声は大きい。ここにある全ての店を食いつくしそうなほど元気である。

「アイス♪アイス♪」

今日みたいな暑い日にはアイスが美味しいだろう。彼女は期待に胸を膨らませ、上機嫌に歩いている。

「おい」

カーラは袖を掴み彼女を止める。すぐに手を握り彼女を見つめる、身長差から上目遣いになってしまう。

「...?!!...!!!!」

「人が増えた。お前に迷子になられると面倒だ。黙って繋いでろ」

ぶっきらぼうに言うとカーラは歩きだす。突然の出来事に驚いたのか彼女は真っ赤になり顔を伏せる。先程までの元気はなくなり静かに縮こまってしまった。

「ほら、どのアイスが良いんだ」

店の前に来ても離されない手にドギマギしながらも

「イチゴで...」

とボソッと答えることしか出来なかった。しばらくするとカップに入ったアイスが二人に渡される。そのまま城下町を歩き出しカーラは抹茶味のアイスを口に入れる。

「美味しい!カーラ様美味しいです!」

「旨いな」

ほんのりとした苦みと冷たさがカーラの口を癒やしていく。暑い日に食べるアイスは格別だ。

「こんなに美味しいものを開発出来ているのに未だに戦争状態なんて驚きですよね」

リスのようにアイスを頬張っている彼女はそう言った。

「カーラ様の研究が完成すれば戦争に怯えずに生きていける世界になるんですよね?」

「当たり前だ。そのために私は日々研究をしているんだから」

彼女はカーラの答えに満面の笑みを浮かべている。そう言うと思っていたと言いたげな顔だ。

「カーラ様?」

「なんだ」

「さっきのお返しです」

するりと腕を絡ませ、にひひと悪い顔で笑い彼女は腕を組んでくる。身長差があるため彼女は少しかがむ。突然の行動にカーラは怯む。

「歩きにくいだろ!」

「カーラ様、顔が赤いですよ?」

「暑いからだ」

「私も暑いのでカーラ様のアイスもらっても良いですか?」

「お子様に食べれるものとは思わないけどな」

「あーひどいです!」

たまの休日、二人は次の店へと向かう。よたよたと歩きにくそうだ、それでも二人は楽しそうに腕を組んでいる。人通りが増え、二人の会話は城下町の中へと消えた。

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