超短編
@konoitan
花と水
昔から、何かを育てるが苦手だった。
小学生のころ夏休みの課題で育てた朝顔も家に持って帰ってから、一週間で枯れてしまった。
「花は水を上げなきゃ枯れるんだよ」
先生にそう言われて水をあげても、花は枯れたまま。
当たり前だが悲しかったのを、大学生になった今でも覚えている。
「だからさ、別れよっか。」
6月7日。午前一時。近所のコンビニのイートイン。
2年間付き合った彼女にそう言われ、僕はふとその話を思い出した。
『花は水をあげなきゃ枯れるんだよ』
彼女と先生の顔が重なり、僕を責める。
「なんでだよ。うまくやっていってたじゃん、俺ら。」
「うん、楽しかった。楽しかったよ。」
彼女は遠いどこかを見つめていて、その眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「じゃあ…」
「でもさ、他に好きな人ができたの。あなたが持ってないものを彼は持ってるの。」
「俺にないものってさ、なんだよ。」
思わず机を叩いてしまい、その衝撃で水の入った紙コップが倒れた。
彼女はそれをハンカチでふくと、「水だよ」とつぶやいた。
「きっと、私も、君も、きれいな花だったんだよ。」
彼女はゆっくりと語りだす。
「だから、二人でいたら、きれいな花束になったの。でも、お互いがお互いに足りないものを求めてた。だから、すぐに枯れちゃったんだよ。」
彼女は濡れたハンカチを見つめていた。
その眼には、もう涙はない。
コンビニを出て彼女はタクシーに乗り新しい彼のもとへと行ってしまった
思い出話なんか、する暇もなかった。
ただ、寂しくなって家までの道を走った。
枯れた花は元には戻らない。
分かっていたはずだった。
でも、気づけなかった。お互いに枯れた心を潤す水を求めていたことに。
頬を流れる汗と涙は、彼女を潤すことができなかった。
そんなことを思いながら、ただ、走った。
なぜか無性に水が飲みたい気分だった。
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