9.彼女

 自業自得とはいえ気分が上がらない。とはいえ、仕事は待ってくれないので、真面目に仕事に取り組んだ。


 今日も残業となり社内に残っているのは俺と美玲さんの二人だけだ。


「ようやく終わったね」


 美玲さんに声を掛けられ、俺は肩をほぐすように両手を上に伸ばしながら応じる。


「美玲さん、今日もハードでしたね」


「いつまで私をさん付けで呼ぶつもり? もう亮の彼女なんだから呼び捨てて欲しいなー」


 甘えた口調。可愛い……。


「美玲、大好き」


 俺が抱きよせてキスをしても、まったく抵抗するそぶりは無い。それどころか美玲の方から積極的に唇をむさぼってくる。


「ねえ、これから私の部屋に来ない? 今日は一維は来ないよ」


 これはもしや……? というより当然……。


「はい! 行きます!」


「だからー、話し方もタメ口でいいって」


 俺が「うん、行く」と言い直すと、ギュっと抱き着かれ、またキスされてしまった。




 * * *




 食事を済ませてから美玲のマンションに向かった。


 俺達はずっと指を絡めて手を繋いでいる。


 マンションに到着し部屋に上がると、美玲はすぐに俺に腕を回して抱き着く。


「お風呂行こうよ。背中流してあげよっか?」

 

 美玲に誘われるまま、二人で浴室に向かった。


「なんか恥ずかしいね。亮、先に入ってて」


「わ、分かった」


 俺は衣服を脱ぎ先に浴室内にに入ってシャワーを浴びる。


 少しして浴室のドアが開き美玲が中に入ってきた。


 憧れの美玲の肌の全てが露になっているので、どうしても俺の鼓動は激しく高鳴ってしまう。


 美玲はボディシャンプーを手に取ると、俺の背中を柔らかい手で撫でるように洗ってくれた。


 背中だけでなく前にも手が伸びてきて、背中には柔らかいものが直に押し当てられ、美玲の息遣いが間近で感じられた。


 俺の張り裂けそうになっている部分も優しく洗われてしまった。その後、美玲は俺から離れて背中を向ける。


「今度は亮が洗って」


 美玲の背中を遠慮気味に洗っていると「ちゃんと前も洗ってよ」と言うので、先ほど美玲が俺にしたのと同じように、前に手を伸ばしてできる限り優しくしっかりと洗った。


 シャワーで泡を流し合った後で俺が湯船につかると、美玲はその上に重なるようにして湯船に入ってきた。二人の肌が密着している部分が気持ちいい。美玲が俺の手を掴んで自分の胸に押し当てて言う。


「凄くドキドキしてるの、分かる?」


「うん……」


 美玲も俺と同じだったことを知って嬉しくなった。


 ぬるめのお湯だったが、体温はどんどん上がって行き、のぼせそうになった。


 風呂から上がると、何度もキスしながら濡れた体をお互いに拭いた。


 美玲に手を引かれ寝室へ行き、二人してベッドに横になる。


 美玲が枕の下から何かを取り出した。


「ちゃんと、これ着けてね」


「美玲、準備良いね」


「そうだよ、早く亮とこうしたかった」


 美玲は俺の頭を抱き寄せて唇を重ねる。そんな美玲のことがたまらなく愛おしく感じ強く抱きしめた。


 この日、俺はついに憧れの人と結ばれたのだった。




 * * *




 朝になり目を覚ますと、美玲は隣で微笑んでいる。


「おはよ。今からまたしたい所だけど仕事あるからね。朝食準備してくる」


 美玲は俺にキスをして起き上がり服を来る。


「亮の着替え、買って置いたからね」


 美玲は俺の替えの下着や服なんかも買ってくれていたようだ。


 美玲の準備してくれた朝食をとってそのまま二人で出社した。


 仕事に取り掛かると今日はとてもはかどるな、気分が上がっているのかな?


 張り切って仕事をしていると時間が経つのも早い。今日も残業だったが無事に仕事も終わった。


 美玲が俺に近づいて来て声を掛ける。


「今日もうちに来て欲しかったんだけど、一維がどうしても話したいことがあるって言うから……」


「ああ、分かった」


 言い終わると、不意打ちでキスをしてやった。


 すると、美玲は目を大きく開いて頬を染めている。


「亮のくせに……、彼氏っぽいことして……。ドキッとした」


 ああ、彼氏か……。彼女が出来た実感を噛みしめ帰路についた。




 * * *




 部屋に戻ると、朱莉が出迎えて「おめでとう」と言ってくれた。


 朱莉が準備してくれていた夕食を食べながら昨夜の出来事を報告した。


 俺が一通り話し終えると、朱莉が俺の近くに来て耳元で囁く。


「今日は美玲さんとできなくて寂しいよね? 今夜は私とする?」


「さすがに今はそんな気にはなれないよ」


 俺が断ると朱莉の表情が一瞬曇ったように感じた。直後にレイーシャモードの口調で言う。 


「そうですよね。では、私は隣の部屋で待機しています。何かあれば呼んでください」


 なぜか胸に痛みを感じたが、きっと一時の気の迷いだろうと自身に言い聞かせた。




 * * *


 


 翌朝、俺の部屋に朱莉が来ていて、いつものように朝食を準備してくれていた。


「朱莉?」


「はい、何でしょう?」


「いや……、レイーシャモードなんだなーと思って」


「亮さんは美玲さんときちんとお付き合いすることになったので、この方が都合が良いかと判断しました。ですがこれまで通り亮さんのサポートはしますし、一維さんへの対策も行いますのでご心配には及びません」


「そっか……」


 レイーシャモードでは常に優しい微笑みを湛えており嫌な感じは全くしないし癒される。朱莉モードは俺への好意が振り切っている感じがとても嬉しい。なんとなく今の美玲に似た感じもする。


 朱莉に見送られ家を出る。レイーシャモードでも素敵な笑顔なんだけど、正直少し物足りないな。


 って、俺はなにを考えてるんだ? 


 ふぅ、と大きく息を吐いて、可愛い彼女が待っている会社へと向かうのだった。


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