悲劇の英雄
慣れない用を済ませ自分自身が心霊にでもなってしまったような衝撃を用と共に流し、気持ちを落ち着かせ寝かしつけられていた寝室に戻り少女にいろいろと聞いてみることとした、
「ここら辺で君以外に住んでいる人はいるのかい、」
「ここらへんは集落になっているので多くはないが人はいます、その様子だと周辺の地理にはあまり詳しくないようですね、良かったらでいいのですがこの後は村を案内いたしましょう」
「いいのかい、申し訳ないボ、私には何も対価を支払うことができない」
「別に恩を売ろうとしているわけではないのです。むしろ貴方のことを知りたいという気持ちのほうが強いのです。これは私からの対価と思ってもらっていいです。」
純な笑顔でそういった。
僕の偽りの笑顔と違い裏も表もきれいな笑顔だった。
屈託がない、
「この家では一人暮らしかい?」少女に聞くには配慮が足りない質問かとも思ったが、今の僕ならば聞いても問題ないだろうとも思った。
少し間が開いた後窓を見て頭巾をかぶり直し「父がいます。この村では英雄とまで言われている自慢の父です」星満点のきれいな空を新月みたいに澄んだ目で見ながら言った。
「そうか」納得するように言った。
「この父にしてこの娘ありといった感じかな」
「ええ」自信満々に大福のような笑顔で言った
「ところで今は何時くらいなんだろう」部屋には時計がなかったので思わず口に出した。
「七時くらいかと、」
「なるほどこれは早いとこ案内してもらったほうがよさそうだね、」表情だけの笑顔でそう言うと
僕たちはランプを消し、西洋風の玄関から家を出た。
外から見てみると意外と小さな木造民家だった。
少し歩くとトイレットペーパーを半分に割ったような丘がありそこを越えたら、数件の木製の民家が並んでおり、RPGの隠れ里のような雰囲気を感じた。
それ以外には廃れた井戸と腐った犬小屋くらいしかない。
中央にある砂利道を歩きながらそこら辺の民家に住んでいる人の名前をさらっと紹介してもらい突き当りにある他よりも少し大きな家の前まで来た。
「ここは村の長の家です、挨拶をしていきましょう。」
こんな小さな集落とはいえ、そこを統べるものに会うというのはどうも緊張する。
中に入ると円形状のテーブルに椅子が五六個並べられており、簡易的な会議室のような作りとなっていた。
「マクノンさん!」
明朗快活に比較的大きな声でかつ野蛮でないくらいに少女は声を上げた。
所謂おじいさんがゆるりと来た。
自分を見るや否や別に警戒には値しないと感じたのか、
「どちらだそのお方は」
と鷹揚に言った。
「私にもまだあまりわかっていないのです。」
自分にしては珍しく今の気持ちを正直に伝えた。
「そうか」淡々としていた、警戒はしていないがよそ者にそこまでの関心がないともとれると思った。
少し間が開いて村長は、少女に向き直り、
「君の父は大丈夫かい?」
「はい命に別条はないそうです。」
「そうか、それ良かった」
「君の父は怪我でもしたのかい?」空気を紡ぐみたいに聞いてみた。
「はい狼に襲われたのです」
「お前さんの父は紛れもない英雄だ」憐れむように村長は言ったと思うと独り言のようにまた自分に確認させるように昔話を始めた。
「あるとき村の近くに大きな狼があらわれた、そのせいで村民ともどもはずっとおびえていて狩りにも山菜取りに行くにも警戒しながら生活していた、案の定そのオオカミが村まで降りてきたんだ。そしてナディア襲おうとした、大方よく働くまじめな子だったもので山で見かける機会も多かったんだろう。そして悲鳴を聞いて駆け付けたお前の父が傷を代償に狼を倒し村に安泰をもたらしたのだな、悲劇の英雄ともいえる。」自分のことを自慢するみたいに言っていた。
それに対して僕の悪い癖でもある。愛想笑いが出てしまった。
だが、村長はその笑顔に対して混じりけのないしわくちゃな笑顔で返してきた。
顔が違うとここまで違うものなのかと感動を覚えた。
大抵目上の人というのはこちらが仮面をつけた笑いをしてもそれを超える分厚い仮面をつけた笑いで返してくるものだ。
それから少し世間話をし挨拶をすましてから、村長宅を後にした。機械のように受け答えをしていたのであまり内容は覚えていない。どうでもいいものだった気がする。
少し歩いて先ほどの丘のあたりで、僕は意を決して言った
「逃げようかここから」静寂が流れた
「えどういうこと、、、」いつも通り優しい顔だったが声が上ずっていた
僕は彼女とは一切目を合わせず淡々と語った、また作り物の顔をしてしまうと思ったからだ。
「最初の違和感は案内したいと言ってくれた時、ふつう夜に近場とはいえ女二人で外に出ようとするのは少し不用心だ。
次は君が僕のことを知りたいと言ってくれた時だ、その時は素直にうれしいと感じたがそのあとも君は僕からの質問に答えるだけで僕に関して質問しようとしなかった。このことからまるで急いで何かから逃げようとしているみたいに僕は感じた。
加えて君は僕がこの家に住んでいる人を訪ねた時窓を確認した正確には窓に映っている自分をそして頭巾をかぶり直した。
その時までなぜ家の中で迄フードをかぶっているんだろうと不思議に思っていた。
だが僕はこの時一つの仮説にたどり着いた君が父親から虐待を受けているのではないかという、その形跡を隠そうとして夜の窓に映る自分を見たのではないかと推測した。
まだ確信はなかった。
フードに関してはこの世界ではそういう文化なのかもしれないし、いち早く僕を案内したいのかとも思った。
だがあの老人の話で確信に変わった。まともな親だったなら、オオカミが出るような山にこんな少女を働きに行かせるか?僕だったらこんなメンコイ子は行かせない
そして次の言葉で僕の推理はあらかた完成した。
なぜオオカミは山の中で君を襲わず、わざわざ村に降りてきて君を襲おうとしたのか
冷静に考えたら意味が分からない。
村民に見られてもいいことなんか狼からしてみたら何もない。人間を食ってしまう狼ならなおさらだ。
警戒されて人が山に来なくなるし自分の身を危険にさらすことにもなる。
つまり山から下りなければならない理由が必要だったのだ。
悲鳴を上げた君を守るという。
つまり悲劇の英雄はおおかみだった。
大方君は山に入るうちに、オオカミと仲良くなった君の優しさならば動物と仲良くなるのも不思議じゃない。
そして言わずとも何となく感づいたのだろう君の異常に、動物は人間が思う以上に賢い。
それで悲鳴を聞いたオオカミが助けに入るも偽りの英雄に殺されてしまった。」
僕の考えの説明を終えて少女を見るとうつむいていた。
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