笑顔だけで乗り切る異世界

@koonaka2002

転生

「誠に誠に申し訳ありません」


ある夏の日受話器に耳をつけながら僕はできる限りの笑顔を崩さないで対応した。


別にこの笑顔自体にはあまり意味はな。


だが人生を通してうわべの笑顔を続けるための訓練としてはこういうのも最適なのかもしれない。


僕は噓つきの笑顔で人生を塗り続けてきた。


でもそんな僕ですら、いやそんな僕だからこそ今死にたい気持ちになっていた。


別に嘘つきな自分が嫌になったという事ではない、それなら僕は戦国時代の侍より簡単に自害しなくてはならない。


母親が死んだのだ。


別に最愛の母が死んでしまったと自信を持って言えるほど仲睦まじいわけではない。


だがこんな仮面をつけた生活をしてきたせいで、社会人になってまで慰めてくれる人はいなかった。


人生の中でかなり大きいであろうイベントに誰も立ち会ってくれないのはさすがに悲しかった。


この日、業務が終わりいつも使っている駅に向かい電車を待っているとちょうど電車のチャイムが鳴った瞬間後ろには上司の姿があることに気づいた、その時僕は自分の顔が笑顔ではないことを反射的に感じ後退りしてしまった。


案の定鉄に飛ばされた。うすれ行く意識の中ちょうどいいと思ってしまった。


・・・・・・






・・・・・・


僕は生きていた、


ここはどこだろう病院にしては暖かすぎる色のベッドだった。


「だいじょうぶですか?」


何だろうこの声はぼやけた意識のなかで、声の宿主を探すとそこには少女がいた。


ただの少女ではないあまりに似ていたので逆に思い出すのに時間がかかったが、童話に出てくる赤ずきんそのもののような見た目の少女だった。


ハロウィンまで寝ていたのかと思ってしまった。


「申し訳ありません。」


いつもの営業スマイルでそういうと


「なんてことはないです、きれいなお顔が無事でよかったです。」


きれいなお顔?笑顔がうまかったということだろうか


「ところでお名前は?」


『ナディアです」


「はあ」


きらきらということなのだろうか?


「私をどこでみつけたのですか?」キマヅクならないように続けざまに聞くと


「いや昨日朝起きてみると、玄関前に倒れていたんです」


どういうことだろう夢なのかこれは


そんなことを考えていると、深い眠りついていて気づかなかったのだが、尿意を催していた。


「お手洗いお借りしてもよろしいですか?」


「はい」


お手洗いに行くと鏡があり何気なくその中を覗くと、信じれないほど美麗な女性が立っていた。


たとえるなら肌は雪兎のように白く鼻はリアス海岸のようにくっきりしていた。尚且つ口元はリップもしてないのに、太陽が割れたみたいに光っていた。


ほっぺをつねると痛みが頬の赤と共に咲いた。


わかった俺は転生している。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る