四・六
この世界改変は確かに地獄だった。悲しみと苦しみの連続だった。
だが決して嫌なことばかりではなかった。
そのことは今ここで明記しておかなければならない。
世界を変える度に、僕の記憶は次の世界へ引き継がれる。だが意識は引き継がれない。だから全ての世界の僕が違う僕で、全く違う人生を歩んでいた。それはとても興味深いものだった。もっとも大半が学生をしたり社会に出たりと凡庸な人生だったのだけれど、中には今までの世界とは遠くかけ離れた不思議で興味深い世界もあった。そんな世界での人生は、当事者であった時にはやはり地獄だったのだが、今思い返すととても刺激的であった。
ある時、僕はバウンティハンターだった。火星から逃げてきたアンドロイドを破壊して賞金を貰うのが僕の仕事だった。
ある時、僕は探偵だった。蒸気機関に覆いつくされた街で犯罪を追っていた。
ある時、僕は地球防衛軍の兵士だった。宇宙からやってきたエイリアンを殺すために僕は奮闘した。
ある時、僕はファイアマンだった。読書が禁じられた世界で僕は本を焼き続けた。
ある時、僕は旅人だった。デリーからロンドンまで、バスのみでユーラシアを横断する無謀な旅に僕は出た。
ある時、サバイバーだった。ゾンビの蔓延る世界で食料と弾薬を求めて彷徨った。
ある時、僕はパイロットだった。昔ながらのレシプロ機で地球を一周する挑戦をした。
ある時、僕はデビルハンターだった。魔法を使って街に潜む悪魔を対峙するのが生業だった。
ある時、僕は運び屋だった。月から果ては海王星まで、銀河系の至る所に荷物を届ける運送業を営んでいた。
スパイにもなった。時計職人にもなった。ジョッキーにも考古学者にもなった。革命軍のリーダーにもなったし、ディストピア社会の住人にもなった。数え切れない程多くの人生を歩み、かけがえのない経験をいくつも重ねてきた。同じ人生など何一つとしてなかった。ただ一つ共通していることは、その全てで栞が死ぬことだけだった。
そんな世界はいらない。
栞が死んだ世界に価値はない。
例えどんなに素晴らしい人生だったとしても、それはただの事態でいい。
僕が欲しいのは栞が死なないという事実だけだ。
ならばそんなエラーは捨て去ろう。
そしてまた新たなトライを始めよう。
きっとどこかで僕は道を間違えていた。
それでも僕は止まれなかった。
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