第四話
明善は家政婦に連れられ、我妻家の屋敷に入る。屋敷には高価そうな壺や絵画が飾っており、壊したらどうしようと明善はビクビクしながら家政婦について行った。
「ここがお嬢様の部屋です」
長い廊下を歩き、ようやく和奏の部屋に到着。家政婦を先頭に、明善は彼女の部屋に入った。流石お金持ちの令嬢らしく、部屋はとても広い。明善が借りているアパートよりも面積があり、正直悲しくなった。だが、その気持ちもすぐに書き換えられる。明善はこの部屋に何か、一種のもの悲しさを感じた。豪華な服が並べられているクローゼット、何人も寝れる大きなベッド、何かの大会で優勝したようなトロフィーや賞状。一見、充実した生活を送っているように見える。だが、何かが足りない。
ああ、そうか。わかった。
明善は我妻の机に近づき、並べられている写真を覗き込む。写真を撮るのが好きなのだろう、友人達との写真が何枚も飾られている。沢宮が写っているのもある。写真の様子から、かなり親しい間柄のようだ。他の写真は学校の入学式や大会での優勝したもの。だが、両親と映った写真は、一枚もなかった。
この部屋には、家族との繋がりが見えるものが何もないのだ。だから、明善は悲しさや寂しさを感じた。
「家政婦さん、和奏さんの机を見ても?」
「ええ。構いません。お嬢様には後で説明しておきます」
許可をもらった明善は机の引き出しを開けていく。中は整理整頓されており、勉強道具や女子高生が好むような可愛い便箋、シールなどがあった。
「ん?」
明善はとある引き出しを開けた時、何か違和感を感じた。勉強用のノートが入っているのだが、何かがおかしい。
明善はノートを取り出し、引き出しを覗き込む。底の木材の色が、内側の側面と微妙に異なる。
「もしかして」
引き出しは二重底になっており、取り外すことができた。出てきたのは一冊のノート。
もしかしたら、何か見られたくない内容かもしれない。思春期の女の子からすれば、きっと許せないことだろう。だが、これは捜査の一環。心の中で謝りながらノートを開いた。
「これは……」
書かれていた言葉は、両親への不満だった。入学式に参加しなかったこと。誕生日に電話ひとつ寄越さなかったこと。自分達の面子を潰さないよう、成績をキープするよう言ってきたこと。友人達をもう少し選ぶよう忠告されたこと。両親への恨みつらみ、そして、自分の存在意義を問う言葉が、ノート一面に書き連ねてある。日付が記載されており、日記と思われる。
ページを捲っていくと、あるページで手が止まった。一ヶ月前の日付が書かれたページだ。
そこに書かれているのは、今までの愚痴ばかりとは違い、弾んだ文章だった。
書いてある内容を要約すると、インターネット上で知り合った異世界人と会い、彼からとても良いことを聞いたとのこと。そして、それは自分の生活を良くするために必要だということ。夏休みに異世界に行って来るとのこと。
今までの暗い内容とは打って変わって、まるで恋する乙女のような希望に溢れた文章だった。
「インターネット上で向こうの人間と出会ったのか」
異世界関連の犯罪では、よくインターネットが使われる。異世界でもこのようなメッセージを自由にやりとりできる術はなく、直接顔を合わせないまま接触できるインターネットは何かと都合が良いのだ。
明善は机の上には赤いノートパソコンを指差す。
「家政婦さん、このパソコンの中身を確認したいのですが」
「はい、どうぞ。お嬢様はパスワードをかけていませんので、自由に見ることができます」
思春期の子供ならパソコンにパスワードをかけるはずだが、盗み見る親が家にはいないので、必要ないのだろう。
明善はパソコンを開き、中を確認。掲示板上でのやりとりやメールの数が多く、確認に時間がかかりそうだ。
「家政婦さん、一度このパソコンを署に持っていき、そこで確認したいです。よろしいですね?」
「はい、わかりました」
「それと、他の家政婦さんも呼んでいただけますか? 話を聞きたいので」
「少々お待ちください」
明善は三人の家政婦に我妻の直近の様子を聞く。特に何かおかしな行動をとっていないようだが、一ヶ月前、つまり異世界人とのやりとり以降、妙に機嫌が良かったらしい。
「何か思い出したことがあったら、署の方に連絡をください」
明善は家政婦達にそう言い残し、我妻のパソコンを持ち、一度署に戻った。
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