第37話


 夏休みを迎えて多くの生徒は実家に帰省しているらしく、学園内の人影はまばらだった。

 律の部屋に来る途中、通路で誰ともすれ違わなかったのだ。両隣の隣人も揃って部屋を空けているらしく、どこか活気がないように感じてしまう。


 ラフな部屋着で寛いでいる律を、新鮮な気持ちで見つめていた。


 「今日はどこか行く?」

 「部屋でのんびりするのもありかなって思ったんだけど…律はどう?」

 「いいよ」


 第一関門をクリアして、こっそりとガッツポーズをしてしまう。

 散々こちらを揶揄って来た親友は、意外なことにアドバイスをきちんとくれた。


 イチャイチャしたいなら人目があるところよりも、自分の部屋など2人きりになれるスペースを確保するべきだと教えてもらったのだ。


 彼女も恋愛経験はないに等しいが、少女漫画オタクなおかげで知識は豊富だった。


 キッチンで紅茶の準備をしながら、ドキドキした気持ちで律の隣に並んでいた。


 「今日はダージリンティーにしようと思うんだけど…今度フルーツティー作ってみたいんだよね」

 「一緒に作ろうよ」

 「約束だからね」


 小指を差し出せば、同じく小指で握り返される。ゆびきりげんまんなんて子供のようだけど、彼女相手であれば胸が擽ったい。


 紅茶の準備を終えてから、いつも通りソファへ。

 テレビもついていないため、酷く静かな室内。チラリと視線を寄越せば、熱いのか中々コップに口を付けられていないようだ。

 

 「……ッ」


 勇気を出してそっと手を握れば、驚いたように彼女の目が見開かれる。すぐにマグカップをテーブルの上に置いてから、こちらに向き合ってくれた。


 「えっと……蘭子…?」

 「その……」


 肩に手を置いて、ゆっくりと顔を近づける。鼻先が触れてしまうくらいすぐ近くに律の顔があるというのに、いざとなると恥ずかしくて仕方ない。


 結局意気地なしな蘭子は、彼女の陶器のようにつるんとした頬にキスを落としていた。


 「……い、イチャイチャしたいなって…」


 精一杯のおねだりに、律が恥ずかしそうに顔を両手で覆ってしまう。しかし丸見えの耳はピンク色で、彼女が照れているのだと一眼で分かってしまうのだ。


 「律……」

 「蘭子の方からそんなこと言い出すとは思わなくて…」


 肩に手を添えられて、同じように彼女の背中に腕を回す。互いの体を抱き寄せ合いながら、ゆっくりと顔を近づけていた。

 

 そっと目を瞑れば、唇に欲しくて仕方なかった柔らかい感触が触れる。


 「ンッ……」


 一瞬だけ触れ合ってすぐに離れたと思えば、また啄むように唇を奪われていた。


 繋がった箇所から愛おしさが込み上げて、もっと触れたいと欲が出る。


 「……ッ!」


 唇の割れ目に触れた、柔らかく湿った感触。一度だけ絡めあったことがある舌の感触を、体はよく覚えていた。


 チロチロとなぞられて、開けるように催促させられているのだと気づく。

 ギュッと服の裾を掴みながら唇を開けば、チョンと舌の先端同士が触れ合った。


 何度か馴染ませるように舌を擦り合わされてから、まるで意志を持った生き物のように絡め取られる。

 舌の裏側をなぞられれば、もどかしさからくぐもった声をあげていた。


 「んっ……ん、ンッ……」

 

 柔らかい舌同士が絡まり合う度に、興奮と心地よさで自然と吐息を漏らしていた。

 自分でも滅多に触れない唇の裏側をなぞられれば、堪らなく興奮してもっとと求めてしまう。

 

 律も時折声を漏らしていて、慣れないながらに一生懸命に舌を絡ませ合っていた。


 「ンッ……っ」


 口が離れてから、お互い熱い瞳で見つめあっていた。先ほどに比べたら体温が上がっていて、ハグをすれば熱いというのに、お互い離れようとはしなかった。


 「……可愛い」


 耳元で吐息混じりで囁かれる言葉に、グッと胸を鷲掴みにされる。

 嬉しくて彼女の首筋に顔を埋めながら、甘えるように声をあげた。


 「律の方が可愛い」


 幸せを噛み締めながら、声を漏らす。

 好きな人と触れ合うことがこんなに心地よくて、幸せだなんて初めて知った。


 再び触れるだけのキスをしながら、ふと下半身に違和感を感じていた。


 ショーツのクロッチ部分が湿っていて、まるで

生理の時のような滑りが不快だった。

 まだ生理の予定日ではないため、一体何なのだろうと不思議に思う。


 「なんか、おかしいかも…」

 「どうかした?」

 「生理じゃないのに、生理みたいな…なんか、濡れてるみたいな感覚で…」


 自身の体に訪れた変化を正直に伝えれば、どうしてか律が更に顔を赤らめてしまう。何と返事をすれば良いか分からないのか、言葉を詰まらせてしまっていた。


 ハキハキと言葉を口にする彼女にしては珍しく、しどろもどろに言葉をくれる。


 「り、律……?」

 「その…おかしくないから。普通のことだよ」


 おかしくないと断言されて、ホッと胸を撫で下ろしながら再び律に抱きついていた。


 照れ臭さを滲ませながら、微笑んでいる律は凄く嬉しそうで。

 好きな相手に触れ合える喜びに癒されながら、トクトクと流れる彼女の心音に耳を傾けていた。





 悶々としていた想いが解消されて、晴れた顔色で自室へと戻って来ていた。

 あの後律と何度か唇を重ねて、長い間体を抱きしめ合っていたのだ。


 愛おしい感情を慈しみながら、お風呂に入るために身に付けていた洋服を脱ぎ捨てる。

 最後にショーツに手を掛けて、クロッチ部分が汚れていることに気付いて目を見開いた。


 「え……」


 赤色ではなくて、まるで水滴が滴ったかのように濡れている。一瞬思考が停止するが、すぐにそれが何なのかに気づいて顔を赤らめた。


 「……ッ」


 興奮するとそういった愛液が滲み出てくると知っていたが、実際になったのは初めてだったのだ。


 律は全てを知った上で、何とも言えない表情を浮かべていたのだろう。

 キスをして、自分が興奮した状態であることを馬鹿正直に打ち明けてしまった。


 己の無知さを呪いながら、あまりの羞恥心にその場に座り込んでしまっていた。

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