不終春

@tsutaren

第一夜

 🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉🦉


内側から汗が噴き出すようなありふれた夏の夜、街路樹が静かに光合成を止め呼吸に切り替えている不吉な道を歩くありふれた1人の男子高校生。底の薄くなるまで履き倒した紺色のニューバランスを地面に染み込ませるようにすり足で歩いている。


「どうしたって手に入らないんだ」涙によって水分を含んだ重い声でそう呟いた。

名探偵でなくてもわかることだろうが、彼はたった今失恋したところだった。彼の高校生活を蝕み支えた厄介な恋は時間を経るごとに関係性の変化を強いる悪魔へと豹変した。

交際関係を持たず友達のまま好きでいるには多くの我慢を伴うことを知っておきながら、借金を溜め続けてしまったツケが回り今に至る、とでも説明しようか。


やがてじめじめした湿気は彼のまともな思考を奪い、夏の夜の魔力が彼を昂らせる。何にもする気が起きないのに、何でもできる気がする。人をおかしくする虫が好む絶好な条件だった。ニューバランスの地面を踏むテンポが速くなる、彼の鼓動も指数関数のように際限なく跳ね上がる、自由帳を与えられた小学生のように思考が広がり、色づき、やがて大きな絵を完成させる。






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