第6話――ひとりぼっち

…どうしよう。



先生を傷つけたくない。


直感で、そう思った。


でも、どうすることもできない。

ひとまずは。


*******************************************


「…」


鍵を取り出し、家の中に入って、自室へ向かう。



「おい、ここ座れよ」


母が私にそう言いつける。

私は、リビングの母の前に正座した。


「お前、昨日どこいってたの?誰と一緒だったの?帰ってこなかったよね、連絡もよこさずに」

「…」

「何?なんかいって」

「…」

「理由を話せって言ってるんだよ!!」


平手が飛んできた。

よけられずに直撃する。


「あ?なんか言えよ!!」


繰り返し殴られる。

顔に血が飛び散っているのがわかる。

耳鳴りがひどい。

鼻が曲がりそうに痛い。

いつものこととはいえ、かなりこたえる。


「ほら、もうやめなさいよ」

「うるせぇ!」


父が止めに入っても、無駄だ。

というのも、この家に自分の味方はいない、ってわかっているから。


父が偽善者ぶるたびに、寒気がする。



辛い。誰か助けて!


*******************************************


朝。重い足取りで正門をくぐる。


家、塾。

どちらにもストレスがあって、正直疲れる。

逃げ場と言ったら、学校くらいだ。


ふと前を見ると、美咲とれんくんが前を歩いていた。


「いや〜、昨日全然寝てないんだよね」

「そうなの?何時間くらい?」

「え〜、3時間とか」

「え!?それで起きていられるとか、すごいよ!勉強してたの?」

「まさか。ゲームだよ」

「あ、◯神でしょ」

「あたり」

「やっぱりね〜」


いいなあ。


蓮くんは、美咲の片思いの人。

今年始めて同じクラスになって、美咲が頑張ってアタックしている相手。

二人はかなり仲良くおしゃべりしていて、クラスでは割と噂になっている。

来週には二人でカラオケに行くらしい。

女子力の高い美咲らしいな、と思う。


親友が全力で恋をしている姿を見るのは清々しいし、とてもうれしい。

でも、どこか置いていかれるような気持ちにもなる。


「あ、繭!おはよ〜」

「うん、おはよ」


後ろをくるっと振り返った美咲が挨拶する。

ピンクがかったキレイな茶色のポニーテールが爽やかで、とても健全に見える。


そんな姿を見ていて、父・母との不和、あなたに関わるかもしれない秘密は決して美咲には言えないような気がした。

別に隠し事をする気でいるのではない。

なんとなく、眩しすぎる光の前で、私が汚くなったような気がするから。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る