マリアージュ

ふわり

マリアージュ

声劇(ボイスドラマ)用台本です。

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登場人物

客(杉崎) 28才

店主(笹原) 30代半ば。

※名前は変更可

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ー入店SE(引き戸)ー


客「こんばんは」


店主「いらっしゃいませ。あ、いつものお席にどうぞ」


客「ありがとうございます」


店主「ごゆっくりしていってくださいね」


客「はい!」


店主「お飲み物は何がよろしいでしょうか?」


客「そうね…今日はお料理も色々いただきたいから…あ!これ。スパークリングのお酒」


店主「かしこまりました」


客「今日は何をいただこうかな…」(お品書きを見る)


店主「お待たせしました。すず音でございます。お通しはこちらをどうぞ」


客「ありがとうございます。これは、筍…ですか?」


店主「はい。筍の刺し身です。今日は良い筍が手に入ったので。筍づくしのメニューもご用意しておりますよ」


客「筍づくし…!どれどれ…若竹煮に、定番の筍ご飯、筍とアサリの酒蒸し、筍のおでんやチーズフライ?!気になるメニューがいっぱい!」


店主「(小声で)特別に、少しずつお出ししましょうか?」


客「え…?良いんですか?!じゃ、それでお願いします!」


店主「かしこまりました」


客「筍のお刺身なんて、初めて…(一口食べながら)ん!おいしい!全然エグみもないし、食感が良いですね」


(一口食べて、お酒をいただく)←飲食の音のみ


店主「お口に合って良かったです。こちら、若竹煮をどうぞ」


客「いただきます。…わぁ!筍、柔らかい!…優しい味!」


客「これはお酒が進んじゃいますね」


SE:奥から揚げ物の音


客M このお店に通うようになったのは、ちょうど1年前。

5月だというのにまだ肌寒いリラ冷えの頃。

北海道の花見はジンギスカンが定番だが、お琴の教室なので年配の方も多く、こちらのお弁当を注文した。


西京焼き、煮しめには地元産の蕗や椎茸、定番のだし巻き卵や唐揚げに、かぶを器にした茶碗蒸し、ご飯はいなりと花に見立てた飾り海苔巻き。

こんなに手が混んだお洒落なお弁当をお安いお値段で食べられるなんて、いったいこのお店は…?

それから私は月に数回、こちらに通うようになった。


店主「お熱いので、お気をつけてお召し上がりください。こちらはお好みでどうぞ」


客「まずはそのままで…ハフッハフッ…これ、良いですね!チーズの塩気がちょうど良くて!筍がホクホク…!」


店主「ありがとうございます。お酒のおかわりはいかがいたしますか?」


客「そうですね…何か他のものを飲もうかな…」


店主「それでしたら、スパークリングワインなんかも合いますが、いかがでしょう?」


客「ワイン!良いですね!お願いします!」


店主「はい。では、こちらを」

SE:ワインを注ぐ音※スパークリングなのでコルクではない。シュワシュワ音。


客「いただきます」


客「…!おいしい!ほんと、このワイン、筍にもチーズにも合いますね!」


店主「マリアージュですね。お気に召していただけて良かった!」


客「マリアージュ?…結婚?」


店主「あ…ワイン用語なんですよ。お互いが邪魔をしない組み合わせやお互いを引き立てたり相乗効果を生む組み合わせのことを、そう呼びます。ワインと料理を夫婦に見立てて呼んだのが始まりらしいです」


客「へぇ〜。すごい!和食のお店なのに、ワインのことまで詳しいんですね!」


店主「いえ…そんなに詳しくは…」


客「ふふ。そういうすぐ謙遜する所、笹原さんらしいですよね」


店主「いや…さ、冷めないうちにどうぞ。次の料理、準備してきますね」


客「はーい。次はケチャップをつけて…ん〜!おいしい!ケチャップつけるとちょっとオヤツ感覚な感じ!」


客M マリアージュかぁ。彼氏のいない私には実感沸かないけど、お互いを引き立てるって素敵だな…


店主「次はこちらを。アサリと筍の酒蒸しです」


客「酒蒸し、おいしそう!

アサリがふっくら!アサリの出汁で筍もおいしい!さっきの若竹煮とはまた違う風味で良いですね。このワインも合うし!」


店主「お気に召していただけて何よりです。今日は筍を使いましたが、菜の花も合いますよ」


客「良いですね!そちらも春ですね!」


店主「日本に生まれたからには、四季折々の旬の味覚を楽しみたいですよね」


客「そうですね!旬のものをいただけるのは幸せです」


店主「杉崎さんは本当においしそうに食べてくれるから、料理をお出しするこちらも嬉しくなります」


客「そんなこと言われると、なんだか恥ずかしいです…食いしん坊みたいで」


店主「いえいえ、褒めてるんですよ!いつもありがとうございます」


客「はい…こちらこそ、いつもおいしい料理をありがとうございます」


店主「次は…そろそろ〆の筍ご飯にしましょうか?」


客「そうですね…ご飯いただきます!」


店主「お釜が熱くなっているので、お気をつけてお召し上がりくださいね」


客「釜飯!まさかそんな豪華な筍ご飯が出てくるとは…!」


店主「せっかくなので、最初に炊き始めていました。釜飯は少し時間がかかるので」


客「嬉しいです!わ〜おいしそう!ご飯がふっくら!いただきます!」


客「ハフッハフッ。ん〜!とっても上品で優しいお味!それでいてしっかり筍の甘みとお出汁もちょうど良くて!」


店主「ありがとうございます。こちらもどうぞ」


客「わ!お吸い物まで?!わ〜菜の花!素敵!」


店主「今日は春尽くしのメニューでしたね」


客「あ〜ん、幸せ!このちょっとおこげがまた嬉しいですよね!釜飯、大好きです!」


店主「お気に召していただけて良かったです」


客「はい!とってもおいしかったです!

あの…今日はますます好きになりました」


店主「いつもありがとうございます」


客「や、そうじゃなくて…料理とかじゃなくて、さっきの、釜飯は時間かかるから最初に仕込んでくれてたり、色んな料理を楽しめるように、少しずつ出してくれたりする気遣いとか…」


店主「お客様に料理とお酒を楽しんでいただくのが私の役目ですから」


客「…もぅ…鈍いんだから…」


店主「?どうされましたか?」


客「私が好きなのは…料理じゃなくて笹原さんですよ」


店主「え…?」


客「きょ、今日はもう帰ります!お会計お願いします」


店主「あの…今日は杉崎さんだけですし…ゆっくりしていってください。私も杉崎さんのこと、好きですよ」


客「え?!」


店主「今年は、一緒に桜、観に行きましょうか?お弁当持って」


客「…はい!よろしくお願いします!」


ー完ー

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