超星の邪眼使い

RAKE

一章 邪眼覚醒編

非日常は唐突に

卒業式が終わった教室の中。

熱血ゴリラ担任龍宮明人りゅうぐうあきとの長い長いHRも終わり、あるものは最後の 思い出を残すため卒業アルバムをサインで埋めようとするものが駆けまわり、またある者は涙ぐんで抱き合っている。


クラスが切ない、されど居心地の良い雰囲気に包まれる中、星宮黒斗ほしみやくろとは一人晴れ晴れとした表情をしていた。


(ようやく、友達が出来る!)

 普通ならばここで友との別れを惜しむのだろうが、黒斗にとっては新しい春の始まりだった。

(高校生活は絶対に成功させて見せる! もう二度と! 俺の邪眼は開眼することはない!)


そう。黒斗は中二病であったのだ。

それもアニメや漫画のキャラでしか見ないような、重度の。

目にゴミが入っただけで『邪眼が……疼く。 今は俺に近寄らない方がいい」 とか。

騒がしいクラスに先生が入ってくると「学び舎での子らの戯れはせんせいの訪れにより終焉を

迎える」 とか。文化祭の打ち上げに誘われた時など「俺と関わらない方がいい。組織は常に俺を狙っている」とか普通の人が軽く引くようなことをしていたのである。


そのあまりの厨二すぎる言動からいじめこそ受けなかったものの、周りから避けられ、孤立するのは自明の理だった。


皆が受験勉強に入り、中三になって初めて自分のしていた言動が痛いものだと黒斗は気づいたのである。

これを某アニメでは自覚していないタイプの中二病である。と定義づけている。


そうして自らの言動を嘆き、ひたすらに勉強する日々が続き、地元から遠くへの学校に通う切符を掴んだ黒土は舞い上がっていたのである。



「黒斗くん。僕のアルバムにサイン書いてくれないかな?」

黒土が舞い上がって一人、愉悦に慕っていると、話しかけてくるものが一人。


サインで埋め尽くされたアルバムの隙間にサインを書くよう促してくるのはこのクラスの委員長「神代英気かみしろひでき」だ。クラスで孤立しがちな黒斗にも積極的に話しかけてる上に、文化祭、体育祭などの行事ごとに全力で取り組む黒斗などのオタクが疎遠しがちな超陽キャである。

ついでに眉目秀麗の運動神経抜群という超ステータス付き。


「あ、ああ」

黒斗は内心、自分の話しかけてくるなオーラを易易と突破され、しかもアルバムを書くのは自分だけという事実に頬が引き攣りそうになったが、それを必死に抑えて、少しだけ余っていた空白部分にサインを書きこんだ。


サイン、というよりそれはただの魔法陣だったが。

三年生になってから、厨二の言動を辞め、クラスで全く喋らなくなった黒斗だが、中学二年までの言動もあり、未だにクラス内では『中二病』と位置付けられていた。

黒斗なりの最初で最後の開き直りであった。


自分だけがサインを書くという嫌味のようなことをされた黒斗なりの意趣返しでもある。

「あ、ありがとう」

案の定、委員長は若干顔が引き攣っている。

苦笑いを浮かべながら席に戻っていく神代を愉悦の表情で見送る黒斗。


委員長は黒斗のアルバムが白紙の事を予想して敢えて黒斗のアルバムへの書き込みを提案しなかったのだが、そんなことは黒土の知らぬ話である。


そうして神代が席に戻り、戻っていたクラスの中心人物に再びアルバムサインの希望が殺到する中、唐突にクラスが明るくなる。


比喩ではなく、白色の光をクラスが覆ったのだ。

そこまで強い光、というわけでもなかったため、それを目で直視することが出来た黒斗。

しかし、それを見て驚愕する。


(え、これ俺が委員長のアルバムに描いた魔法じ――)

黒斗がそう思考する間にもますます光が強くなる。




一瞬の浮遊感の末、目の前の景色が切り替わる。

突然床が発光し、座っていた椅子が消える。

座っていた生徒たちは尻もちを着き、立ったまま話し込んだり、抱き着いたりしていた生徒たちは呆然とする。






「なんだ?」

地味に痛い尻の痛みに耐え、立ち上がり周りを見渡すと入ってきた景色は映画やアニメでしか見た事のないような室内だった。


天井は先ほどいたクラス内とは比較にもならない程に高く、天窓からは明るい光が差し込む。

床下には黒斗が先ほど書いたサインと酷似した魔法陣が浮かび上がっている。

壁際には甲冑の騎士達が等間隔に並んでいる。


等間隔に並んだ甲冑の騎士の向く部屋の奥には神に祈りを捧げるように願う神官と幾重もの翼を見せつけるように広げた神のイラスト。

その前に煌びやかな装飾が彩る椅子が置かれ、そこに髭面のおじさんが鎮座している。

  



皆が辺りを見渡し、その光景に呆気にとられて言葉を失う中、黒斗は動揺していた。


日常が非日常に変わる。

妄想の中で幾重にも繰り返した闇の組織の襲撃や、邪竜の封印された右腕、隻眼の瞳。

個が他を圧倒するような有り得ない妄想。


中二病にとってそれは憧れに近い。

叶わないと悟り、諦め新たな道を歩もうと踏み出そうとして突如としてやってきたそれは大きく黒斗の心を狂わせる。


(これは某ライトノベルにも出てきた異世界召喚? ……いやいや、俺はもう中二病は卒業してだな)

中二病も中学校も卒業し、遠い地での高校生活。

友人に囲まれオタク話に花を咲かせ、クラスの女子ともお近づきに……

そんなありふれた高校生活を期待していた。

だというのに現実は特に仲のいい友達がいるわけでもないクラスと一緒に、仲良く召喚されてしまったのである。


「よくぞ、よくぞ参られた。異界の勇者たちよ」

呆けていたクラスメイト達が目前の、髭面のおじさんが喋り始めた事で視線が集中する。


黒斗は動揺する気持ちを抑え、ここは目立たないように徹するべしと結論を出すと、パラパラと散らばっているクラスメイトの波を掻き分け最後尾に移動した。


「私は魔道国サーレの王。イレナ・サーレという。異界の者たちよ。呼び出しておいて不躾だとは承知している。どうか『勇者』として、魔王を討伐するためその力を貸して欲しい」


中学校生活最終日。

卒業式を終え、遠い地で友達を作り、女の子ともお近づきになりないな。

そんなありふれた幸せを夢に掲げ、楽しい高校生活を夢想していた黒斗の夢はあっけなく打ち砕かれた。


不本意にも現役の中二病時代、黒斗が妄想の一つとしていた『異世界召喚』という非日常によって。


こうなってしまったものは仕方がないと開き直り、黒斗は死んだ目でイレナと名乗った王様に視線を移した。


次話から基本的に一人称になります。

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