② 戻らない

「あっ、ごめん、俺、ちょっとトイレ・・」

時雄はそういうと、おもむろに立ち上がり

階段をドタバタおりていった

(バタン)

トイレのドアが勢いよく閉じられた

そんな音が耳に入る


束の間の静寂・・

領は何気にあたりを見回した

時刻はもう少しで5時になろうとしている

じわじわと部屋に広がり始めた西陽は

今やこの部屋全体を覆っていた

薄く淡く・・だけどどこか突き刺すような・・

・・そんな畏怖を感じるオレンジの光・・。

それに包まれていると・・

今、別の世界に自分が来ているような・・

そんな感覚に囚われてしまう・・。

そんな西陽の色だった


「遅いな・・時雄のやつ・・」

領は思わずつぶやいた

あれから15分が経とうとしている・・

一向に時雄が(トイレから)戻ってこない

「腹でもくだしたのかな??」

「いくら何でも遅すぎる・・見に行ってみるか」

「本当にしょうがないな・・アイツ」

「でもあいつがいないと勉強も進まないし」


領はぶつくさ言いながらも

時雄のことが心配でしょうがなかった

おもむろに部屋を出ると

階段を早足で下りた

下りた所を右に曲がると洗面所

その洗面所のすぐ横が例のトイレだ


「おい!大丈夫か?」

領は時雄に声をかけた

ドアをたたく手に思わず力が入る


だが中からは何の返答もなかった

むしろ不思議すぎるほど静かだ


「おい!聞こえてんのか?」

再び声をかける 

緊迫した自分の声に

かなり自分で驚いている


「おい!時雄?」


だが・・状況は何も変わらない


恐る恐るドアノブに手をかけてみた

その感触を確かめると・・

どうやら鍵はかかっていないようだった


「開けるぞ!いいな?」

領は思いっきりドアを開けた




(つづく)

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